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小さなアラームが、起床時間であることを告げる。 伸ばされた腕がそれを止め、微かな衣ずれとベッドの軋みを響かせて、彼が起き上がった。 衣服を着ている彼を、私はシーツの中から、残された赤い爪趾をじっと見つめる。 「……ごめんなさい」 「え、起きぬけに何を謝ってるの?」 アンダーシャツを着終えて、彼は振り返った。 「背中に爪、立てたから……」 「これくらい平気だって。それに…………加減できなかった僕も悪いからっ。 、早く起きないと朝食、食べ損ねるよ? それともトレイ運んで来てあげるから、ここで食べる?」 「……ごめんなさい。もう少し寝かせてください……」 「わかったよ。みんなには適当な理由付けて、説明しておく。 じゃあ昨日説明したとおり、僕はアスランを送って行ってくるね」 「気をつけて行ってきてくださいね」 「僕が帰ってくる頃にはそんな眠そうな顔じゃなくて、いつもの笑顔で出迎えてね」 額に軽いキスが落とされ、上着を着た彼は部屋から出ていった。 私は両手を軽く上に挙げ、そしてパタリと落とす。 「気をつけて……に、額にキス……か……。何、新婚夫婦みたいな会話してんだろ……。 先輩のお嫁さんになるなんてこと……もう、望んじゃいけないのに……」 今はまだ、先輩は何も知らないから、無条件に私を求めてくる。これからもずっと同じだと信じて。 でも、私は知っているから躊躇いを覚え、触れることを恐れ、先が見えない―――――。 「先輩が帰ってくる前に、荷物まとめなきゃ……」 本当は離れたくないけど。 これ以上流されてしまわないように、艦長さんにお願いして部屋を変えてもらおう。 今度は1人部屋じゃなくて、ニコルたちと相部屋でもいいんだから。 フリーダムの所在がわかったと音声通信をしてきたのは、パトリック=ザラだった。 最近、聞きなれた声と相変わらずの勢いに、通信を受け取った彼は軽く眉根をしかめつつ、コーヒーの薫りを楽しみ、褐色の液体を少し啜った。 「オーブなんて、また面倒なところですねぇ。またどうしてそのようなところに現れたんでしょうか?」 その言葉に帰ってきたのは『知らん!』の一言。そして、フリーダムを追いかけて行ったはずの同型機を操る息子から連絡がないと怒りだす始末で。 その様子に少々もてあまし気味に、彼は『アスランが連絡しないのは情報漏洩を危惧して』ともっともらしい理由を述べて、適度な相槌を打った後、通信を終わらせた。 「……僕もまだまだ、退役とはいかないみたいだねぇ」 小さな写真立てに飾られている黒髪の女性に向かって、かつて『砂漠の虎』と称された彼・アンドリュー=バルトフェエルドはコーヒーカップを僅かに上げた。 AA・MSデッキ。 「もし俺が帰らなかったら、ディアッカでもニコルでも、どちらかがジャスティスとを使ってくれないか?」 「嫌ですよ。だって、ジャスティスはミラージュコロイドができないじゃないですか」 『僕、あの装備がすごく気にいってるんですよね』と言うニコル。 「俺もゴメンだぜ。バスターが気に入ってるしさ、あんな赤は俺のパーソナルカラーじゃねーし」 『第一、あれはお前がもらったモンだ』と、ディアッカは軽く笑った。 「やれやれ」 苦笑しながらやってきたのは、マードックを連れたムウ。 「ザフト最新鋭の機体だろ? 遊ばせとくにゃもったいないし、パイロットには俺がなってやろうか?」 「なっ、あなたにはストライクがあるじゃないですか」 「そうですぜ。第一、MSパイロット初心者のダンナに動かせるシロモンですかい」 驚いて声を上げたアスランに、にやにやと笑いながら言うマードック。 「おやま、言ってくれるじゃないの」 少し膨れた顔を見せたムウに、その場に笑いが起こった。 「みんな、アスランに帰ってきてほしいんだよ」 プラントへ向かって飛ぶシャトルに、併走しているフリーダムから流れてくる、キラの声。 「でも、さすがにムウさんが乗りたいと言い出したときには驚いたぞ」 「僕も驚いたよ。それには、さすがに僕も賛成できないけどね」 「なぜだ?」 「だって、これからサポートシステム組み立てるの面倒だし」 彼らしい答えに、思わずアスランは吹き出した。そして、サブモニターで現在地を確認した後。 「キラ、そろそろヤキン・ドゥーエの防衛ラインに引っかかる。帰頭してくれ」 「だめ、レーダーに掛からない辺りで待ってるよ」 「お前に何かあったら、に顔向けできないから」 「には僕の考えを伝えてあるよ。彼女もそうしてあげてほしいって言ってたし。 それにアスランに何かあったら、僕こそラクスさんに顔向けできないよ。 それにジャスティスに乗るのはアスラン、あれは君に託された『正義』なんだから。 君はまだ死ねない。……わかってるよね?」 静かに、けれども強い口調で言い含めてきたキラに、『頑張って戻ってくるさ』と笑いながら、アスランはフリーダムとの通信ケーブルを切断した。 懐かしささえ覚える母艦・ヴェサリウスに戻ってきたイザークは、MSデッキにいた。 見上げるのは新型と称されるゲイツ。 白を基調とした機体は今までの形状をある程度は受け継いでいるものの、装備された武器、その威力は全く異なるといってもよい。 「今コイツがどんどん生産ラインに乗ってますからね。 配備が進めば、ナチュラルどもなんか宇宙からいなくなるんでしょ?」 見上げたまま微動だにしなかった彼に気が付いたのか、1人の整備員が近寄ってきた。どうやら彼が動かないのは純粋に機体の凄さに驚いているからだと思ったらしい。 無邪気に聞いてくる整備員に、イザークは曖昧な表情を浮かべることしかできなかった。しかしその顔を肯定と受け取ったのか、彼はその場から離れていった。 銃を携えて戦場に出ない、MSで直接対峙しない、そんな彼ら整備員が知らないのは無理もないこと。 ナチュラルとて、自分達と同じように泣き、叫び、流す血は赤いのだと。 見ていないから知らないのだと、そう考えて半ば無理やりに、イザークは納得させるしかできなかった。 ![]() 黒マント製作機から またヒロインが後ろ向き思考になってます。原因はもう少し後で。 ジャスティス譲渡話・裏話。 ラスティが出てこなかったのは、彼はもうオーブ軍でパーソナルカラーのアストレイに乗っているから。 ヒロインが出てこなかったのは、彼女の『私に正義は似合わない』という伝言をキラに聞いたからです。 ああ〜、マードックさんもっと喋らせてあげたかった〜〜。 To NEXT 連載TOP |