ダコスタと共に複座の小型機で宇宙へと脱出したアスランは、視界を遮った船に息を飲んだ。

「新造艦?」

「たいちょーッ!!!!!!」

 ダコスタは叫びながら、指示通りに後部から目の前の新造艦に吸い込まれていく。体にかかった僅かなGが、艦が速度を上げたことをアスランに教えた。





 銃創を手当てしてもらったアスランは、ダコスタに導かれてブリッジを訪れる。
 すると、ドアの開いた音に反応したのか、司令官席に座っていた人物が振り返った。

「……ラクス?」

 彼の知る彼女の格好とは異なっているものの、ふわふわ漂うピンクの髪、白い肌にマリンブルーの瞳は間違えられるものではない。

「大丈夫ですか、アスラン?」

 彼の元へと漂ってきた彼女をアスランは怪我のない手で支え、ラクスの足を床につけてやった。

「撃たれたことは大変でしたけれど……でも、アスランが無事で……本当によかったですわ」

「あなたこそ……無事で再びお会いすることができてよかった……」

 アスランとラクスは見つめあいながら、どちらからともなく優しい微笑を交わす。

「あー、せっかくのところをお邪魔して悪いんだがねぇ」

 苦笑混じりのその声に、一瞬にして赤くなった彼と彼女。

「ようこそ『歌姫の艦』へ」

「砂漠の虎……?」

「おや、僕のことを知っている。そりゃまた光栄。……よろしく、アンドリュー=バルトフェルドだ」

 アスランは驚いた顔のまま、ラクスを見つめる。そんな彼に、彼女はいつもの優しい笑顔を返す。
 アフリカにおけるストライクとの戦闘で、その生存を一時は絶望視された彼が『奇跡の生還者』としてザフトに再び迎え入れられたことは、アスランとて聞き及んでいた。
 自分を助け出してくれた者達が軍の内部に浸透していたのには気が付いたが、まさか英雄と称された彼まで『クライン派』であるという事実は想像していないものだった。
 アスランは改めて、自分の婚約者……否、元をつけるべきであろう……隣に寄り添っている少女の力に驚いた。」 自分があれだけ迷い探し出した道を、彼女はあっさりと見つけ、それを伝え、志を同じくするものたちを味方にして、やはり志を同じくするであろう幼馴染に最新鋭の機体を与え、自らは新造艦まで奪取して……。

「……君は一体何者なんだ……」

 人々を惹きつける力を持つことに対する尊敬と、聡明で先を見通している畏怖を込め、アスランは小さく呟いた。

「何者と言われましても、どうお答えすればよいのでしょう……。
 アスラン、あなたの目の前にいる私はラクス=クライン。…………それではいけませんか?」

 本当に小さな呟きが通ったことにも驚いたが、微笑む彼女の白い手が、吊り下げられている自分の手に触れていることにもアスランは驚いた。





「前方にMS部隊、数およそ50!」

 高く上がった声に、ラクスは司令官席に戻り、アスランはその横に並んだ。

「ヤキンの部隊……出てくるとは思ったよ。やはりすんなりとは行かせてくれないみたいだねぇ……」

 主砲準備などの命令を下した後、バルトフェルドはその口端を微かにゆがめた。

「この艦にMSは?」

「ないことはない」

「ならそれを俺に!」

「アスラン、それは欲張りというものですわ。あなたにはすでに相応しい翼があるでしょう?
 それに今、このエターナルに乗せられているMSは最終チェックが終わっていない状態です。
 不完全な機体を操って、片腕でしか操縦できないあなたが戦場に出れば、待ち構えるのは『死』でしょう」

 椅子に座ったままで見上げてきたラクスに、アスランは言葉を詰まらせた。

「おまけにロールアウト済みのMSは出払っててねぇ。
 これはジャスティス、フリーダム、フライトの専用運用艦なんだ」

「え?」

 しかしバルトフェルドはそれに答えようとはせず、ニヤリ笑いを見せた後。
 ラクスの指示通りに、全チャンネルでの通信を開いた。

「私はラクス=クラインです……」

 浪々とした静かな声が、その宙域すべてのMS・MA、宇宙艦に響き渡る。
 ラクスは考え方の相違から、パトリック=ザラとは袂を分かつ道を選んだこと、しかし戦闘は望まないこと、自分達をこのまま行かせて欲しいこと。
 それらを媚びることなく真っ直ぐに前を見つめたままで、伝えた。

「ま、難しいよなぁ……」

 エターナルから聞こえてきた声に一時動きを止めていたMS部隊が再び動き出し、それを見たバルトフェルドは小さくため息。そして迎撃命令を出す。

「コックピットは狙わないで下さいね」

 『そんな無茶な』とは思うアスランだが、彼女が無益な殺生を避けているのはわかっている。そして、目の前の隻眼の男ならそれをあっけなく受け入れてしまうだろう。しかし、何もせずにただ見ているだけというのは歯痒かった。
 新たなジンの襲来に、迎撃できなかったミサイルが煙幕から飛び出してくる。

「衝撃に備えろ!」

 バルトフェルドの声にその場にいた者が一様に身を固くした。ラクスは隣にいたアスランの服を掴み、アスランはその手を上から自分の手を重ねる。
 が、それらのミサイルはエターナルを被弾させることはなかった。
 それどころか、青い翼を持つMSが、周りにいたジンを次々と行動不能にさせていく。

<こちらフリーダム、キラ=ヤマト!>

「キラ!」

「キラさん!」

「いよぉ、少年!」

<やっぱりアスラン、ラクスさんも……って、バルトフェルド……さん?>

 3者3様の声に、驚きながらも、キラは笑顔で返した。











 その後、フリーダムの援護もあって、エターナルはL4・メンデルへ入港していたAAとクサナギに合流した。
 艦から降りてきたラクスたちは、マリューたちと握手を交わし、互いの無事を喜び合った。
 言われて艦の外には出てきたものの、はその中で一言も話さない。



「どうしたの? もラクスさん達に会いたかったんでしょ?」

 ヘルメットを脱いだキラが、俯いたままのの側に歩み寄った。

「お久しぶりですわ、
 それに、カガリさんとは初めましてですわね。私はラクス=クラインですわ」

「カガリ=ユラ=アスハだ。こちらこそよろしく。
 さっきからの奴は、ずっと黙ったままなんだ。……キラが置いてけぼりにしたせいだろ」

「あのねぇ、失礼なこと言わないでくれない? 僕は出かける前にちゃんと話して行ったんだから」

、どうしたんだ? まさか、本当に置いてけぼりにされて拗ねてるんじゃないだろうな?」

「アスラ〜〜〜ン! ラクスさ〜〜〜ん!」

 バタバタと走ってきたのはニコル、そしてディアッカ、ラスティ。

「まぁ、皆さんも無事でしたのね」

「俺が簡単に死ぬわけ無いじゃん」

「バスターは被弾して、もう少し遅かったらAAの主砲で死んでましたよね?」

「ニコル、そういうことは言うんじゃない!」

「死にそうにはなったけど、何とか生きてるんだよね」

「それでも皆さんが生きているのは素晴しいことですわ。そして、同じ道を選んでくださったことも。
 皆さんに会わせたい方がおりますの。付いて来て下さいますか?」

 エターナルハッチへと身をひるがえしたラクスをアスランが追いかけ、そして、キラはの方を抱いて促そうとするが、それより先に走り出したはニコルと肩を並べて歩く。

「……お前、となんか合ったのか?」

「覚え……ないんだけど……」

 ラスティの問いかけに、キラは首をかしげながらも皆を追いかけて歩いた。



黒マント製作機から
  次は、オリジナル設定になります。


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