「何、これ!」

 エターナルから帰ってきて着替えて、キラはAAの自室に戻るなり声を上げた。

「あ、キラ。お帰り」

 ふよふよと漂っていたトールが気が付いて声をかけた。その横にはミリアリアの姿もある。

「ねぇ、はどこに行ったの!?」

 ガランとした隣のベッド、そこはきれいに整えられ、また、何の荷物も残されていない。
 キラはトールにしがみ付くようにして問いかけた。

「ちょ、ちょっとキラッ。おちついて! 手を放して上げなきゃ、トールだって喋れないわよ!」

 ミリアリアの指摘に、キラは手の力を緩めた。

「キラが行ってすぐかな。部屋を変えてくれって艦長のところにやってきたぜ」

「……え? どういうこと?」

「理由は知らないけれど、あの子ね、ひどく思いつめた顔をしていたわ。
 艦長もフラガ少佐も何度も理由を問いかけたんだけど、頑として言わなくて。
 それで、艦長が『個室は用意できないけど』って言ったらね。
 あの子は『キラと同じ部屋じゃないならどこでもいい』って……」

「じゃ、結局どこに行ったの?」

「あの、元ザフトの彼らが集まってる大べ……キラッ?」

 自分達を押しのける様にしてその部屋に向かった友人の後姿を見つめ、トールとミリアリアは顔を見合わせ、そしてため息をついた。

「……キラってあんな性格してたか?」

「あの子に関しては、独占欲が強すぎるよね……」






 キラがトールに掴みかかる約5分前。

「……ごめんね、いきなり転がり込んじゃって……」

「いえいえ、どうせベッドは空いてたんですし。ね、ディアッカ?」

「そうそう。男ばかりの3人部屋に妹でも女の子がやってきてくれた方がうれしいってもんだよ」

 2段ベッドの上段で、はボストンのファスナーを開きながら言葉を続けた。ちなみにその下はニコル。向かい側下段にディアッカ、上段がアスラン。

「あのね。……多分この後……やってくると思うの」

「キラさん、絶対に駈け込んで来るでしょうねぇ……」

「烈火のごとく怒り狂ってるぞ、たぶん。……も『部屋変わる』って言ってないんだろ?」

「当然。言ったら反対されるの目に見えてるじゃないですか。……でも、今は同じ部屋でいたくないんですよ」

「さっきも避けてましたよね? もしかしてキラさんのこと、嫌いになったんですか?」

「嫌いじゃないよ。……でも、私はキラ先輩を見ていられないの。
 先輩が真っ直ぐに見てくれるのに、受け止めることができなくなったの……」

 今にも泣き出しそうな彼女の声に、起き上がったニコルはのベッドの周りのカーテンを閉めてやった。

「しばらくジャマしませんし、彼が来たら僕らが相手しますから」

はしばらくそこで休んでな?」

「ありがとう、ございます……」






 それからきっちり1分後、ニコルの予想通り走ってやって来たキラは、予想通りに怒っていて。『なんてわかりやすいんだろう』と、思わず俺達はため息。

を返して!」

「『返して』とはまた人聞き悪いな。……が自分からこっちに来たのに、返すも返してもないだろ」

「キラさんがに何かしたんじゃないんですか? だから彼女はここに逃げ込んできたんだと思いますけど」

 俺の言葉に続けたニコル。……やっぱ、お前のコト、敵に回したくねーわ。が絡むと人変わってるしさ。

「嫌われて逃げられるようなこと、僕はしてないよ!
 そうだよね、
 そのベッドのカーテンの向こうにいるんでしょ、答えて、何で部屋を出て行ったの?」

「……しばらくキラ先輩と顔を合わせたくないんです。
 これが理由です。ちゃんと答えたんだから文句はありませんよね?」

 黙ったままかと思ったら、の奴はちゃんと返事した。カーテン越しの声はすっげー低くて、何か堪えてるっぽかったけどさ。……キラの奴はそれに気が付いてないらしい。

「あるに決まってるだろ! 僕と顔を合わせたくないってどうしてさ!」

「……こちらはもう話す気はありません。用もないのに話しかけないで下さい、迷惑です」

ッ!!!!!」

 驚いたキラが名前を呼んでベッドに近寄ろうとするも、ニコルがその間に立って阻む。それでもキラは諦めきれずに何度もを呼んでいるが、返事は返ってこない。

「あーぁ、キラ、本当に嫌われたな」

「嫌われましたね」

 俺が言うと、同調するニコル。

「そんなことあるわけないよ!」

「そんなことあるんだよなぁ、これが。
 だってさ、あいつが返事しないのは、その声の主を本当に嫌ってるっていう証拠みたいなものなんだぜ?」

「そうですよ。は嫌いな相手にはとことん無口ですからね」

 心底悔しそうに唇をかみ締め、きつく拳を握っているキラを見て、俺はちょっとばかし可哀相になる。でも、これも大事な妹を守るため、レガール中佐にもよろしく頼まれてるから、口を開いた。

「間に何があったなんては聞かない。
 でも、もうの心がお前の側にない以上、あいつには近付くな」

「すみません、キラさん。最終的にあなたとを引っ付けたのは僕でしたけど……。
 今はディアッカと同じ気持ちです。
 ……彼女を傷付けるなら、あちらの学生さんたちと同じ、キラさんにだって容赦しませんから」

 は当たり前だが、キラも何も言わない。

「どうしたんだ?」

 手を吊ったままでやって来たアスラン。

「どうもしませんよ。アスラン、今日からがこの部屋の住人になりますから」

「え?」

 ニコルの言葉に閉ざされたままのカーテンと、俯いている親友の顔を見比べた。さすがのアスランでも何かに気が付いたのか、深い追求をしなかった。……ちょっとえらいかもしんない。

、荷物は解いたのか?」

「……まだ……ですけど……」

「キラも荷物をまとめて来い」

「……え、なんで?」

「フリーダムパイロットのキラと、フライトパイロットの、ジャスティスパイロットの俺。
 エターナルへの移動が決まった。……もともと専用運用艦ということだしな。
 すでにバルトフェルド隊長からラミアス艦長にも話してあるし、すでに了解ももらってある」

「アスランさん、私はもう少しこちらにいます……。今そちらに行っても、何も出来ませんから。
 フライトが完成するまでの私は、のパイロットですし……」

「わかった、あっちにはそう伝えておこう。キラは、行くよな?」

「……うん。荷物まとめ終えたら、フリーダムで移動するよ」

 黙ってそれを見ていた俺は、少々拍子抜け。部屋からいなくなったってことであれだけ騒いでたのに、艦が別になるって言うのに何も言わないキラが不思議だった。
 でも、それは間違いだったと気付くのはすぐ後だった。

、僕は昨日言ったことを覆す気はないからね」

 低い声でもはっきりと告げられた言葉のあと、キラは部屋から出て行った。
 そしてアスランも、自分の身の回りを片付け始めて。
 はまた声を殺して泣いているようで。
 俺とニコルは何も言えなかった。



黒マント製作機から
 キラとヒロイン、別室に別れただけでなく、いきなりAAとエターナルへと別居です。


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