「お嬢ちゃん」

 着替え終わってロッカールームから出てきた私に、背後からかけられた声。
 私の体はビクリと震え、逃げ出そうと駆け出す。
 しかし、その前に左手首を捕まれた。

「いきなり逃げられると、こっちも傷つくんだけどなぁ」

 軽く咎めるようなフラガ大尉の声が耳に届く。

「な、何か用ですかっ?」

 小さく震えるのを我慢して、私は何とか言葉を出す。
 その様子に気が付いているのかいないのか、フラガ大尉の口が耳元に寄せられた。
 わずかにかかった息に、私はたまらず泣き出しかけた。

フラガ大尉、に何してるんです?
 セクハラで艦長に言いつけますよ?」

 避けたい相手ではあるけれど、このときばかりはうれしかった。
 キラ先輩がもう少し遅ければ、私は完全に泣き出していただろうから。

「……あのな、誰がセクハラだってーの」

「だって、は泣き出してますし」

 移動してきた彼の言葉に、フラガ大尉が私の顔を覗き込んできた。

「げっ!!」

 言われて初めて気が付いたのだろう。
 フラガ大尉は慌てて私から離れてくれた。

「すまん! やましい気持ちはまったくなかったんだっ!」

「……気にしないで下さい。
 それで、何か用事じゃなかったんですか?」

 必死で謝り倒してくる大尉の姿に、私は小さく笑った。
 泣き笑いのようになってしまったけれど。

「か、かわいいっっ……」

 突然、キラ先輩に抱きつかれる。


「いやぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


 抱きしめられたと同時に、私は思いっきり叫んでいた。

「キラっ!」

 声が聞こえたのか、走ってきたミリィが彼を引きはがしてくれる。
 私はそのまま、ミリィにしがみついて泣きじゃくった。



「……あー、耳がキンキンする……」

 耳をトントン軽く叩きながら、フラガは眉をしかめた。
 その後、を慰めていたミリアリアの方へ向く。

「CICのお嬢ちゃん」

「はい?」

「そっちのお嬢ちゃんが落ち着いてから伝えてくれるか?
 ストライク起動パスワードにロックかけとけってな」

 『わかりました』とうなずいたミリアリアはに付添いながら部屋に戻っていく。
 その様子を見送った後で。

「フラガ大尉、パスワードロックなら僕が……」

「おまえはただの民間人だろ。ストライクに乗ってるのは、あのお嬢ちゃんだ」

 その言葉に、唇をかんだキラは黙りこんでしまった。
 フラガは『ちょっと厳しかったかな?』と言いたげに肩をすくめて、先ほどとはガラリと変えた口調で話しかける。

「それと、人にセクハラとか言っておいて、君のさっきの行動は何なのかな?」

「えっ?」

「とぼけるんじゃありません。
 お嬢ちゃんにいきなり抱きついたのは坊主だぞ。
 ああいう風に相手を脅えさせるのはよくないなぁ、うん」

「脅えさせるつもりなんて、僕はないです。
 ただ、かわいいと思ったから抱きしめてしまったわけで……」

「だから、その行動が脅えさせてるって」

「でも、あんな顔、他の男の人に見せたくないじゃないですか。
 僕、あの子に興味を持ち始めてるんです。そういうものは人の目に曝したくないものです。
 これから大切なおもちゃになりそうなものは特に、ね?」


「……確認しておきたいが。お前とあのお嬢ちゃんは出会ったばかりだよな?」

「そうですよ。ミリアリア……あのCICの女の子は、僕と同じゼミですけどね」

「……お嬢ちゃんも気の毒に……」

 フラガの呟きは、にこにこ笑っているキラには届かなかった。



黒マント製作機から
 フラガ大尉からのパスワードロック発言。
 これだけのために1回分消費するってどうよ、自分。
 キラに言わせたかった『大切なおもちゃ』発言。
 ……ってだめじゃん、ヒロインますます寄ってこなくなるぞ。

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