薄暗さを感じる。が、どこかの間接照明が生きているのか、青白い光が室内を照らしている。
 キラは部屋に入った途端、そんな気分にさせられた。








「仮面、最終ステージまで来たぞ。もうここにいるんだろう?」

 最終ステージ……のその言葉を聞くと、僕はツキンと胸の痛みを覚えた。
 ここで語られ明かされる真実、その先には何が待っているんだろう。
 あの写真のこと、僕とカガリとの詳しい関係は知りたい。
 でもそれと同時に、が僕から完全に離れていくような気がしてならない。まぁそんなことは、閉じ込めて力づくでもさせやしないけど。

「だから、仮面と呼ぶのは止めてくれたまえ。私にはちゃんと名前がある。
 第1の資料は、ここに来ている間に見てもらっていたかな?」

「さてね、こっちは何も説明しなかったから、周りを見ていたかどうかは知らないけど」

「まぁいい。それでは第2の資料だ」

 床の上に投げ出された分厚いファイルと、写真立て。
 ちょうど届かない位置で手に取ることはできないけれども、それは見覚えのある写真。……見せられたのはつい最近のことだったから忘れられるはずもない。

「……親父?」

 僕が写真立てのほうに見入ってしまっていると、隣のムウさんからそんな呟きが洩れた。
 彼の視線の先を追うと、ファイルから滑り出た写真に釘付けだった。金髪の男性がやはり金髪の少年を肩車している写真。

「ッ!」

 写真に気を取られていた隙に、1発の銃弾がムウさんの肩先を掠めた。

「卑怯ですよ! 休戦中じゃなかったんですか?」

 僕が声を上げると、クックッとと小さな笑い声が返ってくる。

「確かに休戦協定を結んではいたが、それはここに来るまでという約束だったのを忘れてはいまい?
 何、すべてを知ってもらうまでは殺しはしないさ」



 カツーン……カツーン……



 あの、クルーゼとかいう男が立てているのだろう。冴々とした空間に響く高い靴音が、やけに耳に響く。
 ムウさんを床に座らせて、僕とはそれぞれ左右を守って銃を構えていた。

「君たちは知りたいのだろう? ……何故この場所が君たちと無関係ではないのかを。
 ムウは直接的ではないが、キラ君にとってこの場所は、始まりともいうべき場所なのだから」

「……僕の……始まりの場所?」

「質問だ、ムウ。このL4コロニー『メンデル』が廃棄された理由は知っているかね?」

「いきなり何をっ……」

「ムウ兄。いいから仮面の質問に答えて」

 じっと声のする方を見ているの顔は、薄暗い室内でもはっきりわかるほどに青ざめていた。手にしたピストルも小さく揺れ続けている。……僕とムウさんの決断が、をどれほど追いつめているのだろう。

「そんなこと言われたってさ、戦前に原因不明のバイオハザードが起こったんだろ。
 で、無事な住民は避難し、ここは閉鎖されたってことぐらいしか知らねーよ」

「その避難勧告が嘘のものだったら?」

「え?」

「父の日記にはこう書いてあった。
 『何も知らない住民がいては、研究の妨げになる。即刻退去させてしまえとの命令が下った』と」

、住民を退去させてまで、ここで何の研究が行われてたの……?」

「キラ君、それを君が彼女に問いかけるのかね?」

「うるさい仮面。俺はとっくに話す覚悟はできてる。お前になんか同情されてたまるか。
 キラ先輩の質問に答える。
 ここで行われていたのは……人工子宮による、生命の誕生だ」

「人工……子宮……?」

 そらされない視線。久しぶりにまっすぐに見た、髪と同じ濃茶の瞳。
 の言葉を、僕は思わず反芻した。それに対して、彼女は小さく頷く。

「ここに来るまでの間に、培養ポッドをいくつも目にしたはずだが。あれらはすべて失敗作。
 中に浮かんでいたのは人の胎児だよ、キラ君」

 あんな、何の形だかよくわからなかったモノが?
 信じられなかった。
 この部屋にたどり着くまでに確かにガラスのような筒状のものに、何かが浮かんでいるのは見た。歩きながらだったから注視することはできなかったけれど、それでも、僕が教わったような形のものはあまりなかったように思う。



「コーディネイターを生み出すとき、莫大な費用を注ぎ込んで。
 親は生まれてくる子供に最高のものを与えようと躍起になる。まるでブランド物で飾り立てるかの如く。
 しかし、それは最後まで、完全に叶えられることがない。……何故だかわかるかな?」

「知るかっ!」

 あの人の言葉にムウさんが怒鳴り返すが、僕はさっきの胎児たちの光景が頭から離れない。



「キラ……。私が言えなかったこと、そして、写真を見てからのあなたが知りたがってたことです。
 目を反らさないで、耳を塞がないで、ちゃんと聞いていてください」

「…………」

 さっきまでの強気な彼女じゃなくて、いつもの彼女に戻っていることに僕は気がついた。

「わかった……」



「高い金をかけて、遺伝子ですべて自分の好みに仕立てあげたのに、生まれてきた子供は何かが違う。
 例えば目の色であったり、髪の色であったり、皮膚の色であったり。
 同じ失敗を何度も繰り返した彼らは、ようやく気がついたのだよ。
 失敗の原因は、遺伝子をいじった受精卵を戻した、妊娠中の母胎にあると。
 ちょっとしたことで壊れてしまう受精卵の遺伝子情報。それを回避するべく生み出された人工子宮」

 僕も、そしてムウさんも、その話から耳を背けることができない。

「キラ君。君は今のご両親が本当の親でないことを知っているかね?」

「だったらなんだっていうんです! 僕の父はハルマ、母はカリダですよっ!」

「……嬢。君はそれすらも説明していなかったようだね」

「オーブを出た後で、カガリから例の写真を見ていますが、キラ先輩は否定したんじゃないですか。
 キラ先輩もカガリも、あんなことにさえならなかったら知らなかった事実ですから」

「そして君も、何も言わないままで彼の側にいるつもりだった、と……」

「そうなっていたでしょうね」

 の言葉に、クルーゼ隊長は薄く笑った。

「さて、話の続きに戻ろうか。
 人工子宮を作りあげる研究は困難を極めた。幾体もの実験が行われたが、それはいつも失敗に終わった。
 そして最後、中心になっていた研究者は自分と、自分の妻との受精卵を、妻には内緒で実験に使った。
 当然妻は怒り、受精卵を返せと泣き叫んだ。……しかし、それは聞き入れられなかったのだ。
 皮肉にもその受精卵だけが、他の実験体のようにはならず、順調に育ったのだ。
 そして10ヵ月後、その赤ん坊は無事に世に生まれ出た。
 実験の成功を示す、何の遺伝子も壊さずにブランド物で固められた、完全なるコーディネイターとしてね」

 話を聞いているうちに、僕はガクガクと震え出す。
 初めて聞いた事柄なのに、思い当たり始めた事実が、浮かんできた認めたくない想像を裏付けていくように思える。

「実験の中心者となっていた科学者の名はユーレン=ヒビキ。そして助手でもあった妻の名はヴィア=ヒビキ。
 そして、彼らの子供として、また、最高のコーディネイターとして生まれた息子の名は……キラ=ヒビキ」

「……僕……が……最高、の……コーディネイター……?」

「そうだよキラ君。君は親の期待をすべて叶えた理想の固まり。……いや、業の固まりとでもいうべきかな?
 何しろ、親の期待というよりも、あくなき欲望をすべて詰めこんで生まれてきた。
 我が子に母の胎内を知らず、冷たい機械の羊水の中で育つことを選ばせた。
 それでも叶えたいと願ったヒビキ博士の業の固まりだよ、君は!」

「……母を知らず……機械で育った……」

 どうしてあれほど『覚悟しておいた方がいい』とが繰り返したのかがわかった。
 僕は哺乳類なら誰でも知っているはずのことを取り上げられて生まれた。……人間でありながら、まるで爬虫類か鳥類のような生み出された卵のように別の場所で育ち、そして産声を上げた。今までの生活からは想像すらできなかったあまりの事実に、涙が止まらない。
 けど、はっと思い出したように顔を上げた。

「カガリ、カガリはっ……」

「ヴィアさんのお腹の中には二卵性の双子がいたんだって、父の日記に……。
 1つは取り出されたけれど、もう1つは彼女のお腹の中に残されて。
 だから間違いなく、キラ先輩とカガリは同じ父と母を持った、血の繋がった双子です。
 そして、カガリがウズミ様から渡された写真、あの赤ちゃんを抱いていた人が……」

「僕らの……本当の母さん……なんだね……」

 頷く。ムウさんがこの場で何も言ってこないことが有難かった。彼にしたって、色々と聞きたいことがあるだろうに……。



黒マント製作機から
 長くなったので1度切り。ムウさんの話は次回。
 気付いていた人もいるでしょうが。サブタイトルの『螺旋』とは。問題のもつれと、DNA配列の形をかけてます。……捻りないです。


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