「ユーレン、本気なのかッ!?」

「静かにしてくれないかライトバーン。
 ヴィアには母胎に影響を与えないように、最低限の麻酔しかしてないんだ。
 彼女が目を覚ましたらどうする?」

 白衣の男性が、同じ白衣の男性に詰め寄る。
 片方は髪や口髭が薄茶の男性、もう片方は髪や瞳が琥珀の男性。

「仕方が、ないんだ……。もう私達には、この方法しか残されていない」

「だからって、何も自分の子供を実験材料になど……」

「他の助手達は協力してくれた。結果がどうなるかはある程度予測していたのにだ。
 ただ、科学の進歩の礎となるなら、と苦しみながらも被検対象となる受精卵を差し出してくれた。
 君だって、1度、ビオラとの受精卵を差し出してくれたじゃないか。
 ……だのに、責任者である私がそれを逃げるわけにはいかないだろう。
 だから今度は、私とヴィアの番だ」

「ユーレン……」

 ライトバーンが気遣わしげに見せた視線に、ユーレンは手術台の上で眠る妻の手を取り、愛しげに撫でた。

「……このこと、ヴィアには……」

「知らせてない。言ったら必ず反対される。
 彼女はただ、今は自分の胎内に出来た新たな生命の喜びに純粋に喜んでいるだけだ」

「このことを彼女が知ったら、お前は憎まれることになるぞ」

「わかっているさ。しかしそれでも、今まで研究に協力してくれた人たちのためにも。
 この研究は成功させてみせなければならない。
 ……それが、今まで犠牲となった小さな命に対するせめてもの供養だ。
 ライトバーン、部屋から出ていてくれるか? この受精卵摘出は私1人でやり遂げなければならないんだ」

「……そうだな」

 少し響いた足音は、小さな音がして開いたドアに遮られて消えた――――――。









「あとはさっきの話の通りです。ヒビキ博士の手によって取り出された受精卵は、人工子宮の中に入れられ。
 ヴィアさんのお腹の中にはもう1つの受精卵が残され。
 10ヵ月後、人工子宮からは男の赤ちゃんが、ヴィアさんからは女の赤ちゃんが誕生したんです」

「それが、キラとカガリ……ってわけだ」

 ムウさんの言葉にコクリと頷く

「でも、その話には続きがあるんでしょ。……さっき、あの人が言わなかったことが……」

「はい……」

 少し目を伏せたは自分を落ち着かせるように、1度深呼吸してから、再び語り始める。








「この位置が、奴らにバレただと? ライトバーン、それは本当なのか!」

 研究の成果が出て約2日が過ぎていた。
 病室で休んでいる妻と双子の子供の下を少しだけ訪れ、話し合いの結果、ようやく名前を決めた日の午後だった。

『ユーレン、君は別ルートで逃げたまえ! ヴィアと子供達は私が助け出す!』

「しかしっ……」

『君のいる位置から、彼女達の病室までは逆方向だろう。
 それに、奴らがここの研究内容を知っていたとしたら、1番の標的は中心人物だった君だ!
 実験が成功していると知った彼らは恐らく、プロジェクトの中心である君を殺し、成功体の君の息子を殺し。
 研究所の書類をすべて破棄してしまうつもりかもしれない。
 私はお前を死なせたくないのだ! ユーレン、ここは逃げろ!』

 通信モニター越しの親友の、叫びにも似た言葉に、彼は一瞬迷い、そして。

「ライトバーン、ヴィアを、キラとカガリを頼んだ!」

『わかった、約束の場所で待っているぞ!』





 通信を終えたユーレンが、避難のために向かったのは隠し通路のある研究室の1つだった。

「ユーレン=ヒビキ、だな? 待っていたぞ」

「……待って、いただと?」

「青き清浄なる世界のために……完全なコーディネイターを作り出そうとするお前は必要ない」





「……そうか……」

 乗り込んだ病室で、銃を構えていた男は小型の通信機から流れてきた声に小さく頷いた。

「お前のダンナ、たった今死んだってさ」

 部屋の片隅で双子を抱きしめているヴィアの手に、僅かな力がこもる。

「あ、あなたたちはこれ以上、何をしようというのですか!」

「だからさっきっから言ってるじゃねーか。そのガキを渡してくれたら、お前はころさねーって。
 青き清浄なる世界のために、そのガキはいらないんだよ。
 お前だって、実際に腹を痛めて生んでないんだろう? そんな子が生きようが死のうが……」

「キラは私の……私とヒビキの子供ですッ!
 そりゃあもう1人のカガリとは違って、私は生んであげられなかったけれど……。
 でも、元は私のお腹の中で生まれた命なんですから……2人とも大事な愛しい我が子なんです!」



「お前ら、もうそこでやめておけ」

「しかし……」

 知った声にヴィアは顔を引きつらせた。

博士……、どうしてあなたが……」

「すまんな、ヴィア。何も聞かずに、ユーレンの元へ行ってくれ」

 哀しげな笑顔のまま、ライトバーンは隠し持っていた銃をヴィアの額に押し付け、引き金を引いた。
 引き金を引くたびに、揺れる彼女の体。弛緩した手からは、双子の体が膝の上から床へ落ちる。

「では、博士。その子をこちらに……」

「……必要ない」

 床の小さな体を抱き上げて、ライトバーンはその背に拳を当てた。
 ボキィッと鈍い音が場に響く。

「コーディネイターといえども、背骨を折られては生きてはいないだろう」

「……それはそうだな」

「但し、こいつの死体は私がもらう。
 友を売ってしまった分、この小さな命を奪った分、ちゃんと供養だけはさせてくれ」

「そっちの女のガキは? 生きてるのか?」

「生きている。但しこの子はナチュラルだ。連れて帰っても文句はあるまい?」









「ブルーコスモスの男達に背を向けていた父は、持っていたボールペンを渾身の力で折って。
 その音を彼らに聞かせ、赤ん坊が背骨を砕かれて死んだものと誤解させました。
 そして彼らのシャトルでオーブ本国に帰りついた後。
 事情を話してカガリとあの写真をウズミ様に預け、キラ先輩は子供のいなかったヤマト夫妻に預けました。
 その後、このことを忘れないようにと、自らの娘をコーディネイターにして、妻に産ませました。
 ……自分が運命を狂わせた双子を忘れないように……その子の誕生日が来れば否が応でも思い出すようにして。
 父の日記から私が知ったことはここまでです」

「……じゃあ、僕とカガリの本当のお父さんとお母さんを殺したのは……」

「父がメンデルの情報を洩らしてブルーコスモスを招きいれたせいです……」

 恐る恐る口を開いたキラに、は唇を噛んで俯いた。

「わかったかね、キラ君! 彼女がどうして君に真実を話すことをためらっていたか?
 彼女は人殺しの娘なのだよ。それも君の本当の両親を死に追いやった!
 それに彼女も知らなかった事実を明かそう。ムウ、お前の両親を殺したのも彼女の父親だ!」

「えっ!」

 驚いて目を見開いたムウ。も同じ。

「とはいっても、実際に手を下したのは私だがね。博士は『教唆』というものをしたのだよ。
 あの火事の数日前、オーブで偶然に私は彼と再会した。
 不完全な私はどうすればいいのか、まだ考えあぐねていたときだった。
 そのことを話すと彼は『なら、最初に怒りを発散させて、それから考えればいい』とね。
 だから私はそれを実行に移した。
 私を作り出しておきながらあっさりと捨てたあの男に、そしてその血族を根絶やしにするために。
 放った火はあっという間に大火になり屋敷中を飲み込んだが……たった1人生き残ったものがいた」

「それが俺ってわけか……」

「大きくなったお前が地球軍に入ったと知り、私もそれを追うようにしてザフトに入った。
 フラガの血を根絶やしにする権利が私にはある!
 そして、この業に満ちた世界をも根絶やしにする権利もある!」

「何ふざけたことを言ってるんですかあなたは! 正気じゃないですよ!」

「ふざけてなどいないさ。人の深い業によって作られた私には、その業を止めてやることができるのだ!
 さて……おしゃべりが過ぎた。本来ならここで引導を渡してやりたいところなのだが、この状況は不利だ。
 この場は引くとしよう!」

「まてっ!」

 ムウの構えた銃が火を吹くが、それは逃げていくクルーゼを掠ることもできなかった。





「私たちもここにずっといるわけには行きません。脱出しましょう。2人とも歩けますね?」

「……なんとかな」

 ムウ兄から返事は帰ってきたけれど、キラ先輩は沈黙したまま。それでも、ムウ兄を支えたままで立ち上がってくれたので取り敢えずは、何も言わない。
 MSを置いたところに戻ると、私はフライトに乗ってから、その大きな手でムウ兄の体をストライクに乗せる。

「キラ先輩は先に行っててください。私はストライクとムウ兄をAAに連れて行った後で合流します」

「……わかった」



 帰ってきた短い一言に、彼の受けたショックの大きさを感じ取って、私は胸を締め付けられた。



黒マント製作機から
 写真を見たあとのヒロインがキラを避けていた理由がはっきりしました。
 ……自分の父親が、親友と好きになった相手の両親を殺した。
 そのことに対する謝っても謝りきれない申し訳なさで、彼女は動くことができません。


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