ドミニオンがこちらの要求を受け入れて引いた後、いつの間にかザフトも消えていた。

「とりあえず、皆さん各艦に戻って、補給と整備を受けてください」

 ラクスさんの通信が流れた。
 僕はフリーダムを反転させて、ジャスティスの後を追いかけるようにしてエターナルへと戻る。が、フライトが後を付いてこない。薄緑の機体は、白亜の戦艦に飲みこまれた。

「アスラン、フライトもエターナルなんじゃないの? 専用艦なんだし」

「身の回りのものを持って、後で来るってさ」

「……そう……」

 意図的なのか、ただそうなっただけなのか。
 僕には何も言わないままで行動している彼女が少し哀しかった。束縛しようとかいうんじゃないけれども、避けられてるのが辛い。







 AAのMSデッキ。片隅にフライトを立たせて、私はラダーを使って降りる。

「お帰り、嬢ちゃん」

 ヘルメットを脱いだ頭を、手加減なしにぐしゃぐしゃとかき回してくれたのはマードックさん。

「帰りました……っていっても、すぐに出ちゃうんですけどね」

「あの、エターナルとかいう艦に移るのか?」

 私は小さく笑ったまま、『そうです』と頷いた。

「……あの、マードックさん。私に怒ってないんですか?」

「何が?」

「フレイ嬢を差し出したこと……」

 国際救助チャンネルでの会話だったのだから、一連のことはこの場所にも届いているだろう。
 その証拠に、他の整備員達はこちらにやってこない。切れ切れに耳に届くのは『やっぱりコーディネイターだから……』とか『自分が助かるためにはナチュラルの犠牲は平気なんだ』とか。
 一瞬きょとんとなった彼は、次の瞬間大笑いしながら、バシバシと私の背中を叩いてきた。

「ちょっ、そんなキツく叩かないでくださいッ!」

 重力が軽く設定されているせいで、私の体は漂っていきそうになる。マードックさんは『すまんすまん』と笑いながら手を引っ張って止めてくれた。

「お嬢ちゃんがあの場で、ああいうことを言い出したのは驚いたが。
 でもそれは、AAを落とさないための決断だったんだろ?」

 今度は私がきょとんとなる番で。

「先の戦闘で、AAは十分に修理が終わってねぇ。簡易的にCNTペーストをはっつけただけだ。
 弾除けの札が効果あるかどうかもわからないしな。そんな箇所に1発でも攻撃を食らったら終わりだ。
 お前さんもストライクを運んできたときに、修理が十分でないことに気がついていたんだろう?」

 まさか、私が考えていたことを読み取っていた人がいたとは思わなかった。

「嬢ちゃんだって知り合いを敵艦に渡すという、嫌な選択をさせられたわけだしな。
 あっちに連れて行かれちまった赤い髪の嬢ちゃんには気の毒だが、お前は俺達を守ってくれた。
 それでいいじゃねーか」

 マードックさんの言葉で、初めてその考えに行き当たったのだろう。さっきまで私たちを遠巻きに見ていた整備員の人達が口々に礼の言葉を言いながら近付いてきてくれる。
 再び頭を撫でられて、私は泣き出したくなるのを堪えるのに精一杯だった。




 私は1度部屋に戻って荷物をまとめ、それからブリッジへ移乗する旨を伝えに行った。が、いたのはヘリオポリスの学生兵3人。艦長さんはいないみたいで、多分医務室だろうと当りを付けた私は、何も言わずにその場を後にしようと、きびすを返した。

「お前、何様のつもりなんだよ」

 グイッと肩を引かれ、私は壁に押しつけられた。手の主はサイ先輩。サングラス越しの彼の両目が、怒りに震えている。

「自分が助かったら、他の誰の奴の命を犠牲にしてもよいのか?
 お前はそれが許されるほど、誰かを踏み台にして生き延びるほど偉いのか?」

 襟足を両手で捕まれたまま、グイグイと壁に押し付けられる。圧迫される気管が十分な酸素を欲して、頭の中で警鐘を鳴らす。……それでも私は、彼の怒りがそれで納まるならばと、抵抗しなかった。それにサイ先輩の行動は予測済みだった。

「……フレイ嬢をあち、らにわたし……た私が……憎い……ですかっ……」

「当たり前だろう!」

「……殺し、たいほど……ですかっ……?」

「ああ、殺したいね!」

「じゃあ……ころして……くれても……いいです、よ……」

「……え?」

 驚いた先輩の手が離れ、支えを失った私は床にへたり込み、咳き込んだ。
 ミリアリア先輩が心配そうな顔をして手を差し伸べてきた。が、もう彼女のことは信じたいとは思わない私はそれを払って、サイ先輩の顔を見上げる。ホルスターから銃を取り出すと、握らせた。

「フレイ嬢を連れていった私が憎いのでしょう。殺して気が済むのでしたら、その引き金を引いてください。
 私は逃げませんし、抵抗もしません。
 あの脱出ポッドを運んでいくと決めたときから、こうなることはあらかた予想してましたから」

 握らせられて、初めて」『人を殺す』ということの怖さに実感が湧いたのか。
 銃をもつサイ先輩はカタカタと震えている。



「お前たち、何をしている!」

 休憩から帰ってきたのだろう。ドアを開けるなりいた私たちを見て、ノイマンさんが怒鳴る。そして、サイ先輩の持っている銃口が私の方を向いていることに気が付いた。

「サイ=アーガイル。お前はそんなにが憎いのか?」

「……わかっているんです。彼女を殺したって、フレイをドミニオンから連れ戻せるわけじゃないって」

 床に落ちた銃が乾いた音を立てた。

「それでもどこかに怒りをぶつけなきゃ、俺はどうにかなりそうなんですよ!」

 膝をついて、何度も何度も床を叩きつけるサイ先輩。
 ただ、憎まれて殺意を抱かれるのは覚悟していた。しかし、それができない悔しさを抱えさせたことに対しては、私はどうやって謝ればいいのかもわからない。

「……。君はエターナルへ移動する挨拶にきたのだろう?」

 黙ってみていたチャンドラさんが静かに聞いてきた。私は小さく頷く。

「じゃあ、もうここから立ち去れ。今はこいつを落ち着かせる方が先だ」

「わかり……ました……」

 立ち上がった私は銃を戻し、そして一礼してブリッジを後にした。



 そして医務室によって、艦長さんに軽く挨拶をした後。
 ベッドで寝かされていたムウ兄の、何か言いたげな視線から逃げるように、私はフライトに戻った。



黒マント製作機から
 何とかサイを悪い奴にしなくて済んだかな?
 ですが、相変わらずヒロインはミリアリアを拒否してます。……仲直りの予定、残念ながら今はないです。
 ミリアリアはね仲直りしてほしいんですよ。ですが、ヒロインがもう依怙地になっちゃって……。

 次はエターナル編。ですが、今度は……。


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