「やっぱり強がりを言わないで、途中まではフライトで来ればよかったかなぁ……」

 『MSではあっという間の距離だったんだけど』とぼやいてみても、誰も同意してくれる人はいない。
 1人用の移動用ジェットモーターには捕まっているが、そのスピードは遅い。それにフライトは高速戦仕様だから、その速度に慣れ始めている身としては余計に遅く感じられるのかもしれない。



 ようやく入口まで着いた。
 ヘルメットを外してモーターの脇に置いたあと、私はお父さんの日記に書かれていた研究所内の地図を、頭に思い浮かべながら歩んでいく。こんなとき、自分の記憶力のよさに感謝する。

「……ここだ……」

 さっき来たときも思ったのだけれども、ここの電力は最低限に生きている。だから、目的の部屋のドアも難なく開いた。
 そこは、緑あふれる温室。人工の太陽が作り出す光に照らされた木々が植えてある場所。もう鑑賞に訪れる人もいないというのに、自動制御で手入れされた観葉植物はまだ生きていた。但し、伸びすぎた枝を刈る人がいないせいで、ちょっとしたジャングルでもあった。

 私は入口からすぐ左に折れてまっすぐ進む。道が途切れたところで、伸びている枝を分けた。そこに現れたのは少し大きめの石が2つ並べられた、小さな土山。
 それを確認すると、持っていたカバンから、私は折り紙で作った花束を取り出した。そしてそれを土山の石の前において膝を突いた。





「はじめまして、私は。お二方を死においやった、ライトバーン=の娘です。
 ……16年前、父の犯した罪はどんなに謝っても償い切れるものではありません。
 本当ならば、本人がこの場で謝罪すべきなのでしょうけれども、父もまた、4年前に他界しました。
 公式発表では地球軍機の演習中の誤射ということでした。が、。
 私は、ブルーコスモスの息がかかった者の仕業だと聞きました。……皮肉ですね。
 1番の友人だったヒビキ博士をブルーコスモスに殺させて、自分も彼らの手にかかって死んだんですから」

 私は一旦そこで言葉を切った。そして深呼吸したあと、再び言葉を続ける。

「今日、この場所にきたのは、謝らなければならないから……。
 ……ごめんなさい。どんなに謝っても足りないと思います。
 だって私は、あなたたちの大事な息子を傷付けた、あんなにキラ先輩を傷付けてしまったッ……。
 カガリにはまだ詳しいことは知らされていないですが、すべて知った彼女も傷付けることになるでしょう。
 私は出会うべきじゃなかったんです。
 あんなに傷付けてしまうくらいなら、あなたたちの大事な双子と出会うべきじゃなかった……。
 ごめんなさい、本当にごめんなさいッ。
 許してくださいなんて言いません、でもできるならば、あの双子の心の中から私を消してください」

 それだけ言い終えたのが限界だった。
 膝立ちの状態だったのが腰を落としへたり込んで、私はお父さんが作った、ヒビキ夫妻の小さな墓の前で声を殺して泣いた。
 お父さんが犯したヒビキ夫妻の命を奪ってしまったことへの謝罪、そして、キラ先輩とカガリの運命を狂わせた謝罪、出会ってはいけなかった私が彼らの前に現れてしまったことで傷付けたことに対する謝罪。
 謝らなくてはいけないことばかり、それでも謝っても解決する問題でもない。どうにもならなくて、私は無力さを噛み締めながら泣き続けた。










「―――――ひどい話だよな。あいつには親どころか、恐らく自分すら、生まれた意味すらないんだぜ……」

 AA・医務室。
 メンデル最深部で聞いたことあったことのすべてを、ムウはずっと付き添ってくれていたマリューだけに話していた。そして、マリューの膝の上には、あのファイルがある。

「さすがの俺も想像していなかったさ。まさか、ずっと相対していた相手が親父のクローンだったなんてな。
 あの……奴が来たときに感じる不思議な感覚は、肉親であるがゆえって奴だったのかな」

「さぁ……それはわからないわ。でも、生まれたときから先の短い老人と同じだったってわかって。
 その時点で彼は、夢も希望も失ったのね。そして、誰も信じることができなくなった……」

「勝手な理由で法を犯し、自分を作り出しておきながら、不良品だとわかればすぐ捨てた親父も。
 そして、それと同じことをする他の人間も、あいつは見ていられなくなった。
 そのときからだろうな、あいつの心に人間を裁く権利があるなんて思わせるようになったのは」

 ムウは吊り下げられた輸血パックをしばし眺めていた。ぽたり、ぽたりとゆっくりと落ちる赤い滴を見ていると、それがクルーゼの流している血の涙のようにさえ見えた。

「最初は悩んでいたんじゃ……」

「それこそ、博士の『教唆』でフッ切れたんだろうぜ。
 だからあいつは、元凶である親父を殺し、屋敷に火を放った」

「ムウ……、そのことについてあなたは、さんを恨むの?」

「なんで?」

「だって、お父様たちが死ぬ原因を作ったのは、さんのお父様なんでしょう?」

「……そりゃ、クルーゼの話を聞いたときには、少しは憎んだ。憎まなかったって言ったら嘘になる。
 でもさ、親父だって殺されるだけのことやってんだし。因果応報って言葉を知ってるっしょ?
 作った命を簡単に捨てた親父は、あいつによってまた、その命を捨てられたんだよ。
 自分のことしか考えていなかった結果だと思えば納得できる。
 それに、博士が言わなくても、クルーゼの奴は同じ答えにたどり着いてたと思うしな」

「そう。ムウはさんを憎んではいないと、安心していいのね」

 マリューの微笑みに、つられてムウも小さな笑みをこぼす。が、その表情はすぐに曇った。

「キラは……わからんな……」

「むずかしいでしょうね。好きになった相手は、実は両親を殺した男の娘だったなんてね……」

「ただでさえも自分の出生にショックを受けてるのに、それに追加された爆弾だからな。
 おまけに、友人の彼女を助けられず、かっさらって連れていったのがフライトだもんな……。
 ブリッジでは既に一悶着あったんだろ?」

「ええ……」

 マリューは先ほど、チャンドラが報告に来てくれたことを話した。

「……の奴、ますます孤立してないか?」

「GAT−X106・が破壊されて。
 彼女はZGMF−X11A・フライトのパイロットになりましたからエターナルへ移乗しましたけれど……。
 あちらには知り合い……少ないですものね……」

「あいつは人付き合いってものが下手だからな。
 俺が知ってるは、友達と騒ぐタイプじゃない。1人で本を読んでる方が好きな奴なんだ。
 アスランはピンクのお姫様といることが多いだろうし、俺たちも簡単に艦を移動できるわけじゃない。
 それに加えて、キラの奴がを避けるようになったら……」

「引きこもり……ですか……?」

「完全な引きこもりじゃない。呼ばれて求められたことはする。フライトに乗れと言われたら乗るだろう。
 しかし、必要ないことは徹底的に、人と関わることを断つぞ」

「やけにはっきりと言い切りますわね?」

「いや、詳しいことは省くが……昔、レガールと一緒にあいつを怒らせたときがそうだったからなぁ……」

 何をやったのか聞き出してみたい気もしたが、マリューはそれ以上の詮索はやめた。

『艦長、エターナルから通信が入っています』

 会話が切れた瞬間を狙うように、ブリッジにいるミリアリアからの通信が届いた。それを医務室へと回してもらう。





「ご機嫌よう、ラミアス艦長」

「こんにちはラクスさん。一体どうしたのかしら?」

「……あの、これからそちらにお邪魔してよろしいですか? ご相談したいことがありますの」

「キラのことか?」

「ええ……先ほどから、アスランやカガリさんと一緒に話しているのですけれど、よい案が浮かばなくて……」

「こちらでもちょうどその話をしていたところよ。
 ラクスさん、それでは2人を連れてこちらに来てもらえるかしら?」

 頷いたラクスのあと、通信は切れた。





「……時すでに遅し。何かあったな、こりゃ……」

「みたいですわね……」

 ムウとマリュー、AA士官コンビは、揃ってため息を付いた。



黒マント製作機から
 先に行っておきます。メンデルの中に温室があるのかどうかは突っ込まないでください。
 だってね、例の写真の後ろが温室みたいに見えたんで……。
 そして、裏設定。
 事件が終わり、キラとカガリを預けたあと、博士はこっそりメンデルへ。その時に彼らのお墓を作りました。


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