一体どれだけの時間を泣いたのだろう。こんなに泣いたのは初めてだった。
 お兄ちゃんが死んだときはいろいろありすぎて、十分に哀しむ余裕すらなかったし、お父さんたちのときはこんなに泣いていない。

「目が痛い……」

 それもその筈だった。次の場所へ移動しているときに、鏡に映った自分の顔を見て、私は苦笑を洩らすしかない。

「うわぁ……おまんじゅうが乗ってるよ……」

 ぷっくりと腫れた両瞼は、先ほどから視界の悪さを納得させるには十分な理由。よくもここまで腫らしたものだと、自分でも呆れるぐらいだった。
 仕方がないので行き先変更。私は研究室を目指す。そして見つけた水道で濡れたタオルを固く絞って研究室をあとにした。



 たどり着いた先のドアプレートには、お父さんの名前が刻まれている。開いたドアからふらふらと中に入った私は、ロックをかけてから振り返り、部屋の中を見渡した。
 狭い室内はベッドと小さな机のみ。16年余り人の侵入がなく舞い上がる原因もなかったせいで、埃が積もっている様子もない。
 私はパイロットスーツを脱いで下着だけの姿になると、ベッドに潜り込んだ。16年も使われていないベッドだから気味が悪いとか思わなかった。ただお父さんが昔使っていたものに包まれて眠りたい、それだけだった。
 そして気が緩んだ私は、すぐに眠りに落ちた―――――。










「……混乱しているのはわかるが、またキラの奴も……」

 ラクスの話を聞き終えて、ムウはふかーいため息をつかざるを得なかった。

「お前は……キラと一緒にいたんだろう? 話はどこまで知ってるんだ?」

「どこまでって……全部。キラとお前さんの出生話から、クルーゼと俺の因縁話。
 そして両方に関わってくるの親父さんの話。全部聞いたぜ」

「なら私にも教えてくれっ。……キラももちゃんと知ってるのに、私だけが知らないなんて嫌なんだ。
 キラは『本当の父さんと母さん』って言った。だとしたら、双子の私にも関係ある。
 それなのに私だけ知らされないなんて、そんなの不公平じゃないかっ……」

 泣き出しそうな顔で言うカガリは、今にもムウに掴み掛かりかねない勢い。いや、実際掴み掛かりそうなのをアスランが後ろから羽交い締めにして捕まえていたりする。

「不公平とか何とかいう問題じゃないんだけどなぁ……」

「どういうことです?」

 がしがしと頭をかくムウに、カガリの背後から顔を出したアスランが問いかけた。

「俺はたまたまあの場にいたから知ってしまっただけ。
 ……本当は当事者だけにしか言いたくなかったことなんじゃないか、とお兄さんは思うわけですよ」

「当事者だけに?」

「聞いてたこっちもヘビーだったからなぁ……。
 は親父さんの日記から事実を知ってたんだが、キラの奴はたまったもんじゃなかったと思うぜ。
 詳しくは省くが、何せ、自分が分けられた双子の片割れで、自分のせいで両親が死んだとなればな」

のお父様が殺したのではないのですか?」

「正確に言えば、ブルーコスモスの奴等が研究所に侵入する手引きをした、だ。
 母親のほうは、博士が、直に頭を打ち抜いたらしい。
 がそれは、キラとカガリを守るためだったんじゃないかって、俺は思ってるわけだ」

「……ブルーコスモスの男たちが近寄っていたら、情け容赦なしに殺されていたかもしれない。
 そういうことですか?」

「やっぱり君は頭がいいねぇ。ほんのわずかなヒントで、俺と同じ答えにたどり着いたよ」

「それならば、博士のおかげで私たちは生きてるってことだろ?
 それなのになんでキラの奴は……」

「ゆっくり考えればわかることですけれど、それができないくらいにキラさんの頭は混乱してるんですわ。
 もう少しそっとしておいてあげましょう」

「……ん……」

 ラクスの言葉にカガリは目を伏せた。

「それで……さんはどうしたの?」

「彼女はここでしておきたいことがあるからと出かけました。フライトには乗らず、単身で……」

「それって……」

「大丈夫ですわ。彼女には通信機を携帯させていますし、その電波はメンデルの奥で止まったままですもの」

「じゃあ、こんなやり方はどうかな?」

 ムウの出した提案を聞いた一同は、苦笑を浮かべて頷いた。










「……いつの間に寝入ったのかな……」

 泣き疲れて少しぼんやりした頭を軽く振ったあと、体を起こしてみると、脇の椅子の背には僕のパイロットスーツとヘルメットがかけてあるのが目に入った。そして隣の椅子には制服1式、そして白い封筒。


『キラへ
 詳しくは教えてもらえなかったが、お前に突きつけられた話は簡単に聞いた。
 急に教えられて戸惑ったお前の心情もわからなくはない。
 しかし、いきなり『信じない』なんて言われて平気でいられると思うか?
 今回のことでキラの気持ちがから離れたとしてもだ。
 お前がに対して少しでも謝りたいと思うなら、パイロットスーツに着替えてブリッジに出てこい。
 自分は悪くないと思うのなら、制服に着替えてブリッジまで。      アスラン=ザラ

 私も同じ気持ちです。
 の肩ばかり持つ気はありませんが、弁明の余地すら与えず一方的に怒鳴るなんて最低ですわよ。
 パイロットスーツで来るか制服で来るか、それはあなたの判断におまかせします。
 ですが、これは艦長命令ですわよ。返答を拒否することは許しません。
 ちゃんとどちらかに着替えてから来てください。            ラクス=クライン

 ムウのおっさんからの話だと、は最後まで止めたらしいな。
 それでもお前たちは聞きたいからとすべて聞いて、挙句の果てにはを傷つけた。
 フレイって奴のポッドの件でもそうだ。あいつが人の好き嫌いで動くような奴か、考えたらわかるだろう?
 あいつがあの場でああ言わなかったら、間違いなくAAは沈んでいたんだからな。
 ……頭が冷えたのなら、お前なりに選択して出てこい。
 選んだ結果に、私は何も言わないから。                カガリ=ユラ=アスハ』


「これってズルいと思う。内容を読む限りでは、僕が悪いから謝りに行けって言ってるようなものじゃない」

 グシャグシャに丸めたそれを、部屋の壁に投げつけた。

「僕は……行かない……。これ以上、に近付かない。
 そしたら……彼女が僕のことを気にして泣くことはなくなるだろうから……」



『ごめん、……』

 口の中で小さく謝ったあと、溜まった唾液をゴクリと飲み干して。
 僕は水色の制服に手を伸ばした―――――。



黒マント製作機から
 ……現在コメント不可です。どうすんだ、このあと……。


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