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「何で、人が覚悟したことに水を指すんだよ」 僕は受信機の光点の位置を確かめながら、見知らぬ廊下を歩いていた。 いや、もしかしたら、本当の母さんに抱かれて通ったことのある道なのか知れない。 それよりも、おせっかいな友人達に腹を立てていた。 エターナルへ帰ってきたときは僕自体も混乱してた。ただ頭の中を占めていたのは、両親と僕とカガリを引き離したことに対する怒り、父さんと母さんの命を奪い取った男に対しての怒りはそのまま娘の方へ向き。そしてフレイを連れ去ってしまったことへの怒りも加わって。だから言葉を選ぶこともせずに心に思いついたことをぶつけてしまった。 部屋から出て行くときに聞こえた声が、微かに震えていたのには気が付いてる。あれはきっと、ラクスさんの言葉のせいだけじゃない。 これ以上僕が近くにいたら、彼女が僕の一挙一動を気にして動けなくなる。ただでさえも脆い感情を壊してしまいかねない。 一旦寝たことで落ち着いた頭で、必死の思いで決めたことを、彼らは簡単に覆そうとしてくれる。 「……本当にのことを心配しているのなら、僕なんかを近付けないでよ。 傷付けてしまうだけの僕なんか、彼女にはいらないんだから……」 本当はこのまま帰りたい。と顔を合わせずに去りたい。 顔を合わせてもどんなことを言えるのだろう、彼女にどんな言葉をかけて上げられるのだろう。 誰よりも好きだと何度も囁いておきながら、何度もキスをして抱きしめておいて。 「信じないって、本当にひどい言葉だよね」 僕はの言葉を否定した。 僕はの思いを否定した。 僕はの存在を……否定したんだ。 自然と足が止まる。 前に進まなくなる。 金縛りにあったように動けなくなる。 ただ動くのは、僕の両目の涙腺だけ。 僕が彼女のことを思って泣くのは、ただの卑怯。 自分から傷付けて突き放しておいて、それなのに恋しくて側にいて欲しくて、涙を見せてしまうことで引き止めてしまう。 頭で理解していても、きしみ続ける心。歯車を動かすには何が必要がわかっているけれど、でももうそれを求めてはいけない。それなのに、君の名前を口の中で紡いでしまうんだ。 ―――――本当に僕は自分勝手で卑怯だ。 「トリィッ!」 迎えに行くのをやめて帰ろうか、本気でそう思った矢先、聞き慣れた声とともに1羽のロボット鳥が舞ってきた。背中の色が彼女の愛機を連想させた。 「……トリィ、よく僕のいる場所がわかったね」 『それはお前が、トリィに帰巣プログラムを組み込んだからだろう?』 「あ、アスラン?」 「トリィ!」 『カガリからだ。トリィの下げている袋に手紙が入っているからな』 それだけ言い残して、通信は一方的に切れた。 「なんなんだ……?」 僕はとりあえず、トリィが持って来てくれた手紙を開いてみる。 『キラヘ は捕獲したか? ……って愚問だな。 受信機を持たせて位置をわかるようにしてやってるのに、まだ帰ってこないということは。 お前はまだ彼女の元に行ってないな。 通信はできるが位置がわからないし、言葉じゃうまく言えそうにないから、手紙にしてみた。 トリィに持たせたのは、以前『トリィは僕がどこにいてもやってくるよ』と言っていたのを思い出してだ。 エターナルブリッジでの爆弾騒ぎ、気付いているとは思うが、あれはラクスの仕掛けたお芝居だ。 だから今すぐに彼女を連れて帰ってこいとは言わない。 キラはが好きなんだろう? それがはっきりしてるのに、何をそんなに悩むことがある? だって、お前のことが好きだから伝えたくなかったんじゃないか。 知った後のお前の態度が変わるのを恐れて言い出せなかった。 写真を見た後のお前や私によそよそしかったのだってそうだ。 自分の近くにいたらそれだけ真実を知る時間が早くなるかも、そう思ったからだと私は考えているんだ。 それにキラ、あの写真を見せたとき……お前、私に言ったよな? 『今さらヤマト以外のファミリーネームを名乗る気はない』って。 だったらそれで答えはでているんじゃないのか? お前は『キラ=ヤマト』として『=』を好きになった。 『ヒビキ』って名前を使わないのなら、『』との接点はどこにある? 何もされていないのに、恨む理由はないだろう? あの救助ポッドの件。 そりゃあ私だって、なんの相談もなしに動いたを手放しでは褒められない。 でも、あのとき、フライトが一番にかばったのがお前なんだぞ。 フリーダムの破損状況については聞いただろう。 後少し遅かったら、フリーダムは大破。助けに行ったはずのポッド諸共、ドミニオンに連れていかれてた。 あのポッドに乗ってた奴はナチュラルだから安心だろうが、お前はコーディネイター。 いくらあの間に以前AAにいた奴がいるといっても、多勢に無勢。 おまけにブルーコスモスの盟主が乗っているとなれば、キラは間違いなく射殺されていただろうな。 そしてが交換条件に出した一時休戦。あれのおかげで、みんなが助かってる。 ドミニオンはAAを目の敵にして攻撃してきていた。だから、一番損害がひどかったのもAAだ。 修理が追いつかずに、下手すれば墜ちかねなかった。それがあの休戦で、何とか持ちこたえた。 はな、あの時私たちの前で言った理由からだけでなく、他のことも考えて行動してたんだ。 それが結果的には、助けようとしていたAAの学生たちからも。 そしてキラ、お前からも責められて、はどんな気持ちだろうな……。 お前が本当に自分が悪くないと思うのなら帰ってきて構わない。 その代わり、これから先、は必要以上にお前に近付かなくなることを覚悟しとけ。 この点に関しては、私たちも同様だ。 ムウの奴が言うには、きっかけがあったら必要外の外部との接触を断つだろうということだからな。 最後にキラ……。お前の考えを無視して、私たちの考えを押し付けてしまって、本当にすまない。 でも私も、ラクスやアスラン、ムウやラミアス艦長。 詳しい事情を知ってる者、知らない者もみんなお前たちのことを心配していること、それを忘れないでくれ。 そしてお前が本当にしたいこと望むこと、しなければならないことを見極めてこい。 私はクサナギの中で、お前の姉として待っているから……。 カガリ=ユラ=アスハ』 3枚の便箋に渡ってしたためられた手紙。読み終えたときには、体が震えていた。 カガリに言われるまで思い出さなかった。僕は『キラ=ヒビキ』としてではなく『キラ=ヤマト』として生きていくって決めたばかりだった。それならば、を憎む必要はどこにもない。 それを忘れていたなんて、本当に僕はバカだ。 恨まなくていいことを恨んで、怒って、誰よりも大事にしたい女の子を傷付けた。最高のコーディネイターなんて名ばかりじゃないか、たった1人の少女の心も守れないのにどこが最高なんだろう。 「……今さら許してもらえるとは思えないけど……」 言葉にして謝ってみよう。許してもらえないならそれでもいい。僕は目先のことに捕らわれすぎて、本当のことを見失いかけていたのかもしれない。 アスランたちはそれに気が付いていたから、無理やりにでも僕を外に出したのか……。 「単なるおせっかいじゃなかったんだね」 僕は大切な少女だけでなく、大事な友人までも失うところだった。 それに気付かせてくれたのは、カガリの手紙。僕のたった1人の『きょうだい』からの不器用な言葉。 カガリ、戻ったらたった1人の血縁者である君に、僕の聞いたすべてを話すよ。だから待ってて、彼女を連れて戻ってみせるから。 「……でも、僕が兄じゃないの? カガリが姉なの?」 肩に止まったトリィは『さあ?』と言いたげに首をかしげつつ鳴いた。 「まあそんなことは後で考えたらいいか。今は先に、に謝らなきゃね」 「トリィ!」 僕はようやく、その場から足を踏み出せた。 ![]() 黒マント製作機から 何とか仲直りに向かって動き始めました〜。多分。 後はヒロインが依怙地にならなきゃ、話はさっさと片付くのですが。 まぁこの後のキラは、予期もしない迷走になるわけなんですが。 今回のMVPは、伝書鳩ならぬ伝書トリィ。 To NEXT 連載TOP |