部屋を出た僕は、ただあてもなく走り続けた。
 確かあの時に研究室が一番奥だと言っていたから、そちらに向かった可能性は少ない。なぜだか知らないけれどそう思った。

「居住区?」

 温室もどきのようなものがあったのだから、この研究所内に所員の居住していたブロックがあったとしても不思議じゃない。でもその場所は?

「トリィ!」

 その時、僕の肩に止まっていた小鳥が飛び上がり、くるりと1回転して飛んでいく。

「……着いて来いって言ってるのかな?」

 買い主の僕が初めて来た場所なのに、トリィだってわかるはずもない。それなのに、緑の小鳥は迷うことなくいくつかの角を曲がりながら飛んでいく。僕が見失わないよう、時々待つ仕種をしながら。



「トリィトリィッ」

「ここにがいるだろうって?」

「トリィ」

 僕は古ぼけたプレートを指でなぞってみる。

 ―――――L.

 どうやら、ここがの父親の私室だったらしい。

「でもトリィ、どうしてここがわかったの?」

 問いかけに対し、自分でもわからないといった風に首をかしげたトリィ。……とにかくよく理由は飲みこめないけど、それを理解するより先に、僕にはやらなきゃいけないことがある。







 私はゆっくりと目を開けた。何だか、久しぶりにぐっすりと眠れたような気がする。この部屋に入ってPSを脱いでシーツにもぐり込んで……記憶がない。
 体を起こしてPSからデジタル時計を引っ張り出して確かめる。

「ぎゃ」

 思いの外長い時間を熟睡していたことに、思わず声が出た。

「うっわー、連絡の1つもなしで……。
 ごく一部の人たちには、完璧に心配させてるよねぇ……」

 反対側のポケットに手を入れる。しかし、そこにあるべきものに手が触れない。

「ごめんなさい、通信機落としました」

 狼狽えた余り、誰も聞いていないのに謝ってしまう。

「……どこで落としたんだろ……」

 探しに行く必要がある。
 ため息をついた私がパイロットスーツに足を通しかけたとき、小さな電子音とともに、開くはずのないドアが開いた。










「……また、すごい格好だね」

 クスクスと笑う声に、は真っ赤な顔でPSを投げ捨ててシーツを体に巻きつけた。

「何しに来たんだよっ!」

「エターナルではひどいことを言っちゃったから、謝りに来たんだけど……。
 まさかドアを開けたら、下着姿でいるとは思わなかったよ」

「さっきまでPS脱いで寝てたんだ! 今さら何のようだ?
 これ以上俺に関わらないほうが、キラ先輩のためなんだけどな。……俺もせい……」

「もう1人の、出して」

 の言葉尻を遮って言うキラ。は小さく片眉をしかめて、息をついた。

「だめだ。……これ以上お前に何か言われたら、本気でアイツは壊れる。だからだめだ」

「でも、僕はちゃんと彼女と話したい。そしてケジメをつけたいんだ」

「だめだと言っているだろう! お前がアイツに何やったのかわかってるのか?
 キラ先輩のことしか頭になくて、お前を傷付けたくなくて失いたくなくて、弱いくせにずっと頑張って。
 それなのに、先輩はアイツに向かって何を言った? 『近よらないで』だと? 『信じない』だと?
 アイツはな、お前の両親の墓の前で、1時間以上泣いたんだぞ。
 自分たちは出会うべきじゃなかったって。出来るならば自分のことを先輩たちの心から消して欲しいって。
 泣きながらでも相手のことしか心配していないアイツに、お前ができるのは。
 これ以上関わらないでいてやることだけなんだ」

「そんなのはわかってる、わかってるよ。
 がどんなに優しい子か、他人のためなら自分が恨まれようが最善の方法を取るってことぐらい!
 それに対して、僕はわがままで自分のことしか考えてなくて、ひどいことを言って彼女を泣かせた。
 でも今はそれを心の底から悔やんでる。だから、最後にちゃんと謝らせてよ。
 ……そうしたら今は無理だけど……この戦争が終わったら、僕はの前から消えるから」

 キラとの間を流れる沈黙。しかし、それを破ったのは



「お父さんの部屋からすぐに出ていってください。私の前から消えてください」

ッ!」

「私の言葉なんて信じないのでしたら、話し合う必要もないですよね。
 10秒以内に出ていってもらえないのでしたら、私はためらうことなく引き金を引きます」

「何も言わせてもらえないわけ?」

「1……2……3……4……5……」

 キラの問いかけに答えず、は淡々とカウントを取っていく。

「……8……9……10!」

 の構えた銃から発射された弾丸が、キラの右頬を掠める。生まれた筋に手をやると、彼の指先を赤い液体が濡らした。

「……本当に撃つとは思わなかった……」

「私は『ためらわずに引き金を引く』と言いました。それを信じなかったのはキラ先輩です。
 さっきは手加減しましたけれど、今度はどこがいいですか?
 足の甲ですか? 太股ですか? それとも腕ですか、肩ですか? お腹がいいですか? 心臓がいいですか?
 いっそのこと額を打ち抜いて、即死させてあげましょうか? 先輩の希望通りに撃ち抜いてあげますから。
 私の言葉では信じられなくても、自分で決めたのなら信じられるでしょう?
 さあ、ご希望部位を言ってください。確実にそこを撃ってあげますから」

「僕は君に撃ち抜かれるのは嫌だな」

「ではさっさと部屋から出ていってください。信じてもらえない私は、話すことはありません」



黒マント製作機から
 紙面の都合上、分けます。


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