あの日以来、戦争は終わったのではないかと思わせられるほどに、地球連合軍もザフトもなりを潜めていた。
 しかし何の動きもないことの方が焦燥感を募らせる。停戦協定も休戦協定も流れていないのだから、戦いはいつ再燃するかわからない。
 修理を終えた3隻は、その戦いに備えるために、L4コロニー・メンデルを後にする。








「次からは私も出られるからなっ!」

 クサナギを訪れていたの背中を、カガリがバシバシ叩いて通りすぎようとする。

「ちょっ……何よそれっ!」

 痛みを訴えるより先に驚きが勝り、は慌てて彼女の手を掴んで引き止めた。

「何って……言葉の通りなんだけど。ようやく私の機体・ストライクルージュができたんだ」

「ストライク……ルージュ?」

「そうさ。ストライクを直したときに予備パーツをたくさん作ったんだ。
 それを宇宙に上がってから組み立てたってわけ。あとで模擬戦を頼むから、よろしくなっ!」

「あ、カガリッ?」

「キサカの奴に呼ばれてるから!」

 去っていく彼女を見送って、は小さくため息をついた。

「キラ先輩やアスランさん、ニコルやディアッカさん、ラスティさんたちも、ムウ兄もいるっていうのに。
 何もカガリまで出なくったって……」

「じっとして見てるだけなのは、カガリは嫌なんだと思うよ」

「……キラ先輩。わざわざ後ろから抱きつかなくても話はできます……」

 は再びため息。

「どうして先輩がここにいるんですかね?」

「気にしない気にしない」

 軽く彼女の耳に口付けて、キラは笑う。

「でも、ストライクルージュかぁ……それじゃ、フェイズシフトの色は赤いのかな?」

「そうでしょうね……でもホント、カガリまでMSで戦う必要はないと思うんですけど……」

「僕もそう思うけど、今は1体でも戦力が多いほうがうれしいから。……でも、危ないことはさせないから」

「ちゃんと私たちでフォローして上げないといけませんね」





 その頃のエターナルブリッジでは。

「……本当なのか……?」

『間違いないです、さっき仲間から仕入れた情報によりますとね、ザフトの宇宙要塞・ボアズは堕ちましたよ。
 ……それも、地球連合軍の使った核で』

 受け答えをしていたバルトフェルドの背中にも、黙って話を聞いていたアスランとラクスにも、そして他のブリッジクルーたちにも、冷たい汗が滑り落ちていくのが感じられた。
 そして、同時に悟らざるを得なかった。約2か月の間、地球連合軍が動かなかったのは、核を生産するためであったということを―――――。

 再び渡った『禁忌の光』の使用をためらうことはなかったのだろうか。

 人間が人間を撃つという罪、新たに加えられたその重さを支え切れず、ラクスは少しよろめいた。

「大丈夫か?」

「ええ……」

 アスランの腕に支えられて、彼女は何とか微笑み返した。顔を上げると、情報提供者であるジャンク屋との通信はすでに終わっている。

「バルトフェルド隊長、これで私たちが次に向かわねばならない場所がはっきりしましたわね」

「そうですな」

「AA、クサナギと連絡を取ってください。ここからでは少し距離はありますが、行きましょう」





「……JOSH−Aの後だから、別に驚きゃしないがね」

 エターナルからの通信を受け、航路をプラントへと転針させたAAブリッジ。告げられた事実に皆が愕然としている中で、ムウが吐き捨てるように呟いた。

「お偉いサンが、自軍の犠牲を気にせずに戦果ばかりを追い求めるのは見ただろう。
 ……まして今回の目標は敵の本拠地、周りに環境汚染を心配する必要もない。犠牲は滅ぶべき者だけ。
 核を使うことに何のためらいも示さないだろうさ」

 マリューは、あえてポッドのことを口にしない彼を痛ましく思いながら見ていた。
 地球軍が核を使うことを承諾したのは、救命ポッドに乗っていた少女が持っていた鍵のせい。おそらくそれはNジャマーキャンセラーのデータ。
 鍵の存在を知りながらポッドを渡してしまったのは、彼の親友の妹。彼女がこれ以上傷付かないように配慮しているのだろう。

「……何も知らないんですね。俺……ある意味地球軍の偉い人たちが気の毒に思えてきました」

 ぽつりともらしたトールの言葉に、皆の視線が集まった。

「だって、実際に出て戦ってないから知らないんです。
 ……命を摘み取る行為は、本当は誰にも許されていないんだってこと。
 見ていないから知らないんです。……生きるために傷付き傷付けられても、どれだけ足掻いているか。
 まるで紙屑を燃やすように思ってるから、核という火を投げ込むことをためらわないんでしょう?
 いくらでも湧いて出ると思ってるから、押さえ付けることをためらわないんですよね?」

「僕らも……彼の言うとおりだと思いますよ」

「キラくん、それにさん……」

「ラクス嬢に無理を言って、少しだけこちらにやってきました」

 マリューの言葉に、少しだけ微笑んだが言う。

「あの光は、再び撃たせてはいけないものなんです。
 人だけでなく、その場に生きる動植物、すべての命を奪い去ってしまう禁断の力。
 トールの言ったように、人は誰も、本当は人を裁く権利は持っていないんです。
 それなのに簡単に核攻撃を許してしまえる彼らは何も知らない、ある意味気の毒な人たちなんです」

「……もうすぐ、すべてが終わります。こんな馬鹿げた命の奪い合いは止めさせなければなりません。
 私もキラ先輩も精一杯頑張ります。……ですから、もう少しだけ力を貸してください……」

 深々と頭を下げた、そしてキラ。その姿を、何も言えずに皆見つめていた。



黒マント製作機から
 いよいよ最後の戦いに向けて動き始めました。


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