「キラッ!」

 ブリッジを後にして、ニコルとディアッカのもとへと行ってしまったを待っていた僕に、ミリアリアを先頭にしたヘリオポリスの仲間たちが走ってきた。

「どうしたの?」

「ミリィがお前にどうしても言っておきたいって」

 息を整えている彼女の代わりに、口を開いたのはサイ。

「アラスカでを傷付けた私が言えた義理じゃないんだけど……キラ、あの子を守ってね」

「わかってるよ。僕はそのためにここに帰ってきたんだから」

「……でもね、あの子、さっきブリッジを出ていくときに小さく私に言ったの。
 『今度は私がMIAになるから』って……」

「えっ?」

「キラはから聞いたんでしょ、私があの子に何を言ったか」

 泣きながら訴えてきた言葉に、僕は少しだけ頷いた。

「私があのとき、あんなことを言ったから、だから今度は、はどんなことをしてもキラをかばうわ。
 自分の命を投げ出してでも、キラをここに戻そうとっ……」

「ミリアリア、心配しないで。僕がそんなことはさせない、絶対に彼女も僕も生きて戻ってくるから」

「キラ……俺からも頼むな」

「……サイ……」

 泣き出しそうな顔で笑う年上の彼を、僕は見つめた。

「俺はフレイを勝手にあちらに連れて行った彼女を憎んだ。殺したいとも思った。
 だからって俺が彼女を殺してしまったら、今度はキラが俺を憎み殺したいと思うようになる。
 その時、わかったんだ。あの……ラクスって子の言ってたことはこのことだったんだって。
 誰かを憎んで手に掛けてしまえば、今度は自分が憎まれる側になる。
 その連鎖が続いているから戦争は終わらないんだって」

「そうだよ。その悲しみの鎖を僕たちが切らきゃ、憎しみを重ねた人が増えるだけなんだ。
 今回のサイは、憎むことから何も生まれないことに気がついたからこそ、鎖を切ることができた。
 でも、そんな簡単なことに最後まで気がつかない人たちが多すぎるんだ。
 さっき、ブリッジでトールが言ってたよね」

「……俺?」

 いきなり話を振られたせいで間の抜けた声を上げた彼に、僕は頷いた。

「『偉い人たちは何も知らない気の毒な人たちだ』って。
 彼らはきっと長く生きてきた分、心の奥底が見えなくなっちゃったんだと思う。
 見えなくなって何も気付かずに、間違いだとは知らずに、それが正しいことだと思ってしまった。
 でも僕らはまだ生まれて20年足らず、重ねてきた経験も浅いけど、その分、心の底も浅いんだ。
 知らなきゃいけない事実にも早く気がついて、道を直すことができた。
 サイだって、本当に正しいことが何なのかに気がついたから、見失わなくてすんだんだと思うよ。
 そしてトールもミリィも、ここに集まったみんなはね」

「……な、キラ」

「何?」

「お前がそういう顔をするようになったのって、やっぱりあの子のせいか?」

「言ってる意味がわかんないよ……?」

「トールはね、以前のキラはどこか頼りなくて、ちょっと突付いたらすぐ泣きそうだったけど。
 プラントから帰ってきて、と両思いになって、ちょっとだけ凛々しくなったって言いたいのよ」

「突付いたら泣き出しそうって……」

「いじりがいがあったんだけどなぁ、俺はちょっとつまんないぞ」

 笑うトールに『がしっ』とヘッドロックをかけられて、思わずよろけた。それを見たミリアリアとサイは笑ってて。あの時からとは1人足りないけど昔に、戦争なんか知らなかったヘリオポリス・工業カレッジの頃に戻ったような気がして、僕も笑い出していた。







「キラさんと仲直りしたのに、なんだか辛そうですね」

「お前にしては、浮かない顔してんな?」

 表情を曇らせている私を心配してニコルとディアッカさんが声をかけてくれ、たまたま来ていたラスティさんが『お兄ちゃんたちに話してみなさい』と頭を撫でてくれた。

「……もう少しで、すべてが終わりますよね」

「そうだな、俺達が終わらせなきゃいけないんだ。命を命で洗うこんなバカなことを止めなきゃ。
 コーディネイターにもナチュラルにも、輝いているはずの未来はやってこない」

 ラスティさんの言葉に、私たちは頷きました。

「でも、本当にこれでいいのでしょうか……?」

「何が?」

「私たちは戦争を終わらせるためだけに必死になっていますけれど、本当にそれが最善なのでしょうか?」

「表情を曇らせている原因はそれですか」

 ベッドに座っていたニコルが立ち上がって、ポンポンと頭を叩いてくれる。

「最善かどうかはわかりませんけど、今はそれしかありませんよ。
 ラスティの言うように命を命で洗うバカなことはだめだって、だってわかっているんでしょう?」

「まったく、一緒に暮らしてたからって、考え方までアスランを真似なくていいんだぞ」

「そうだぜ。あんまり悩んでると、あいつみたいに額が後退していっても知らないからな」

「うぇ〜、それは嫌です〜」

 私の反応に、3人は一斉に笑った。

「今は悩むより先に行動しましょう? 悩んで立ち止まっていても何の解決にもなりません。
 望むものがあるから、僕らは今、できることをするんです。
 選んだ道が最善かどうかは、その道を本人が決めることですからね。
 地球連合軍が核を使ったのも、戦争を終わらせるための最善の方法だと考えたのかも知れませんし」

「ザラ議長が『ナチュラルすべてを滅ぼそう』としているのも、彼の導きだした最善の方法かも知れないしな」

「そして今、俺たちがここに集まって戦争を止めようとしているのも、俺たちが導いた最良の方法なんだろ。
 迷って悩んだ末に探し出した答えが間違いだとは、俺は思わないぜ。
 だから、お前ももう悩むな。……本当に第2のアスランになっても知らないぞ?」

「その若さで育毛剤のお世話になっていたら、キラに嫌われるぞー」

「そんなことないもーんだっ!
 でも、みんなのおかげで、最後まで残っていたモヤモヤがふっ切れました。ありがとうございます」

「あと少し、みんなで頑張ろうな」

 ラスティさんの言葉に、一斉に頷きました。







「どうしたの?」

 ちらちらと自分を見ている視線に気がついたのか、椅子から立ち上がったマリューの体は少し漂った。俺は手を伸ばして彼女の足を床につけてやる。

「なあ……俺が君を好きだって言ったらどうする?」

「そうね、私もあなたが好きだって答えてあげるわ。……ただし、今は恋愛対象としてではないけれど」

「嫌われてないのはうれしいけど、恋愛対象でないのね。そりゃ残念」

 腰に回された腕を振りほどこうともせず、小さく肩をすくめた俺を、彼女はクスクスと笑いながら。

「なぁに、キラくんとさんに触発されたの?」

「ちょっとうらやましく思っちゃったかもね。でも『今は』って注釈ついたわけだし、自惚れてみようか?」

「ちゃんと帰ってこられましたら、恋愛対象として見て差し上げますわ」

「こりゃまた頑張って生きのびなきゃなりませんか」

「ムウは不可能を可能にする男なのでしょ?」

「あはは、それが俺のキャッチフレーズだし?」

「それじゃ、信じて待ってますわ」

 AAブリッジで、2つの影がゆっくりと重なった。



黒マント製作機から
 やっぱりムウマリュになっちゃいました……。笑ってごまかそう。


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