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「……これを……俺に……?」 「はい」 ラクスは首から下げていたチェーンを外し、そして手を伸ばして俺の首に下げた。 「これはシーゲル様の……」 「そうですわ。父が別れ際にくださった指輪です。……これが形見となりましたけど」 「そんな大切なものをなぜ俺に……っ?」 「……大切だから……ですわ。ですからアスラン、あなたにお預けするのです。 大切なものですから、ちゃんと手渡しで返してくださいましね?」 「ラクス……」 彼女が言いたいのは、大切なものを預けるから必ず生きて帰ってこいということ。 「約束する。俺はちゃんと君の元に戻ってくるから」 ここで気の聞いた言葉1つも言えない自分がもどかしい。あの幼馴染みならこんな時、どんな言葉をかけて彼女を安心させるのだろうか。 「アスランは、アスランですわよ。キラさんではありませんわ」 「ラクス、君は俺の考えを読んだのか……?」 「いえ、そうではありませんけれど。あなたならきっとそう考えていそうだなと思いまして」 くすくすと笑うラクス。俺は軽くため息をついた後、細い体を腕の中に納めた。 「ア、アスラン?」 途端にさっきまでの余裕は失われて声の裏返った彼女の耳に、俺は唇を寄せた。 「ちゃんと帰ってきたら、一緒にシーゲル様のお墓参りに行こう。俺もちゃんと報告したいからな」 「……え?」 「月並みだけど『娘さんを俺に下さい』って」 「困りましたわね。アスランが帰ってこなければ、私、結婚できないということですか?」 「心配しなくても、ちゃんと帰ってくるから」 藍色の戦士と桃色の歌姫は、互いに微笑んで、優しい誓いの口付けを交わした―――――。 「隊長」 「ん、何かな?」 エターナル・パイロットシートに座っていたダコスタは、今は隻眼となってしまった敬愛するバルトフェルドを見上げた。 「フリーダムとフライト、AAからもどってきませんねぇ……」 「ハハッ、確かに遅いがね。だけど、野暮なことを言うものじゃないよ。 今、僕たちが迎えようとしている戦いは絶対に負けられない、無理をしなきゃ先は見えてこない。 そんなところへ向かう若い恋人たちだ。互いの心配をして、少しでも別れたくないのが心情だろう」 部下の様子に、笑いながら答えたバルトフェルド。 「ですが、こちらが一応専用艦だってことを忘れてるんじゃないでしょうか?」 ダコスタは軽く眉をしかめて、ゴチるように言った。 「その点は心配ないさ。あの子たちだってそれはちゃんとわかってるだろう。 目標ポイント到達までには帰ってくるさ。……それに」 「それに?」 「キラとはコーディネイターとはいえ、最初はあちらに乗っていたんだ。 いろいろと積もる話もあるんだろうさ」 「そういうモンですかねぇ……。ラクス様とアスランさんも戻ってきませんし……」 「フフ、ダコスタくん。いい加減にお止めなさいな。 あまり追及していると、フリーダムとジャスティスに蹴られてしまうわよ?」 くすくすと笑う声がブリッジに現れる。 「もう起き上がってもよくなったのか、アイシャ」 歩み寄った彼は額にキスを落とした。 「バルトフェルド隊長からも何か言ってやって下さいな。 この人は隙あらば逃げ出そうとするんですもの。うかつに目が離せなくて」 彼女の乗った車椅子を押してきた緑の巻毛の女性は、苦笑を浮かべる。 「ロミナ様にもご迷惑を掛けているようですみませんな。 アイシャ、君の体はまだ本調子じゃないんだから大人しくしていないと……」 「だって、再びベッドに縛りつけられる前に1度ブリッジに来てみたかったんですもの」 肩をすくめながら言う彼女に、『まったく』と苦笑するバルトフェルド。 「アイシャ。もう少しの我慢だから、ちゃんとベッドに寝てておくれ」 「アンディがそういうのなら、もう少しだけ大人しくしてるわ」 人目もはばからず堂々と口付ける彼らを見て、ブリッジにいた何人が『ここで声を出せば、ラゴゥにも蹴られるのかな』と思ったことは言うまでもない。 「残存部隊はヤキン・ドゥーエに集結させろ!!!!!!!」 禁じられた光、禁じたはずの眩い光が、ボアズの軍事要塞を飲み込んだ時、それは見ていたプラントの彼らを呆然とさせ。半瞬後、憎しみという黒い光がそれらを覆い隠した。 本来周りに配置されたNジャマーのせいで不可能な核の使用。しかしそれをやってのけたということはプラントの最高機密、すなわちNジャマーキャンセラーの技術が地球軍に渡ったことを示していて。技術を売り渡したのはプラントから脱走した己の息子や、ラクス=クラインらのせいだということにしか思い当たらないほどに、パトリックは怒りに震えていた。 そしてそれは、彼に1つの決意を迫らせた。 「我々もヤキン・ドゥーエに上がる! ジェネシスを使うぞ!」 ―――――ジェネシス。 このたった5文字の示す意味に、エザリア=ジュールたち各議員の動きは硬直した。 そんな中で、ラウ=ル=クルーゼのみが小さく口端をゆがめた。 ![]() 黒マント製作機から 次からはヤキン戦になります。 To NEXT 連載TOP |