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「第7宙域、突破されます!」 オペレーターの声に、パトリックは舌打ちした。 まだ早すぎる。ミラーブロックの換装は終了していない。 「なんとか持ちこたえさせろ!」 「では、議長閣下。私も出ましょう」 パトリックはその言葉に振り返り、背後に立つ仮面の男をにらみつけながら言う。 「クルーゼ、今までのような失態はもう許さんぞ。 エターナルを撃てなかった責任においても、思い上がったナチュラルに、我らのプラントを撃たせるな」 言いたいことだけを言って前に向き直った彼に、クルーゼは思い出したように言う。 「アスランを撃つことになってもよろしいので?」 その言葉にビクリと、わずかに動いた背中。 「……………………構わん」 ZGMF−X13A・プロヴィデンス。 ジャスティス・フリーダム・フライトの系統を継いだNジャマーキャンセラー搭載機が、クルーゼに与えられた新たなMSである。 パイロットスーツを着込み、いつもの老化を押さえるための薬を飲み下したクルーゼは、地下工廠へと足を踏み入れる。 「クルーゼ隊長はテストの結果でも適正は十分と出ていますから、大丈夫だとは思いますが……」 担当技官としては、慣らし運転も終えていない機体を引き渡すことに少し不安をもっているのだろうか。しかし、クルーゼは彼の話など全く耳に留めず、次々とOSその他を立ちあげていく。そして、なおも説明を続けようとする彼を押し止めハッチを閉じた。 「ラウ=ル=クルーゼだ。プロヴィデンス、出るぞ!」 ザフトで初めて、背中にドラグーンと呼ばれる大小合わせて11門の分離式統合制御高速機動兵装群ネットワーク・システムを装備したMSがカタパルトから宇宙に射出される。爆炎に照らし出されるフェイズシフト展開後の色は、奇しくも、パイロットが身につけている仮面と同じ白銀だった。 「私1人で逝ってやるつもりは更々ないのでね。……さて、一番最初に誰を堕とそうか?」 そうは口にしても、倒したい相手の優先順位はとうに決まっている。クルーゼは自分の感覚が導くままに、プロヴィデンスを駆った。 「へぇ、今度の新型は、針山を背負ってるんですね」 対峙したの第1声。 というよりも、クルーゼはムウを求めてやってきたのだが、たまたま隣にフライトがいたというだけ。 「……もう少し言い方を変えてもらえないか。例えば後光を背負っているとか」 「え、だって針山にしか見えませんし。よくて、ひまわりですか」 あっさりとクルーゼの言葉を否定した。彼らのやり取りに、ムウは必死で笑いを噛み堪える。 「……君と話しているとどうも調子を崩されてしまうのだが……」 「こっちは別にそんな気はありませんよ。流されるのは、仮面が引っかかりやすいだけですよ」 「ほぅ、君は私に何を引っかけているのかな?」 「だから、別に私は意図してませんって。それなのに会話に乗ってくるのは、あなたですよ?」 「なるほど、そうだったのか」 頷いたクルーゼの言葉に重なるようにして聞こえたのは、何かが分離する音。 「ムウ兄!」 その音を耳ざとく聞き取ったは、横に滞空していたストライクを抱え込んで、フライトごと白い翼で機体を覆う。 「何だ、ソイツは!」 フライトから開放されたストライクが叫んだとき、8の発射口を備えた砲門は、プロヴィデンスの背中に納まるところだった。 「フフフ、驚いたかね? このドラグーンがこのMSの最大の特徴でもある武装なのだよ。 本体から離れた位置を攻撃できるという原理は、キサマが操っていたメビウス・ゼロのガンパレルと一緒だ。 しかしあれは有線式で限度があったが、このドラグーンは無線式でね。だからこういったこともできる」 ハッとムウが気が付いたときには、羽根を閉じたフライトの背中を3機のドラグーンが襲っていた。 「きゃあぁぁぁぁぁっ!」 「!」 「大丈夫です。ただちょっと驚いただけですから」 「人のことを気にかけている余裕はないのではないかな?」 今度はストライクを襲う複数の光の筋。助けに向かおうとするフライトにもビームが絶え間なく浴びせられていて、動くことができない。 「楽しいものだな、逃げることも避けることもできない相手をいたぶるというものは!」 「……何がっ……楽しいんだよっ……この変態マゾヒスト仮面がっ……」 「フフフ、まだ言い返す気力があるのね?」 激しくなった攻撃に、叫び声が大きくなる。 「ムウ兄、ムウ兄ッッッッ!!!!!! やめて、クルーゼッ!!!!!」 「ようやく名前で呼んでくれたのはうれしいのだが、簡単にやめるわけにはいかないのだよ。 ……今は、とりあえず中断しておくがね」 「え……?」 突然攻撃が止んで、グラリとバランスを失ったストライクを慌ててフライトがかかえ、その場から離れた。 別の場所では、フリーダムとジャスティスが背中合わせになり、その場を飛んでいた最後の核ミサイルを落としたところだった。 また、デュエルとオレンジアストレイが、後から合流したバスター、ブリッツと共に共同戦線を張りながら、次の場所に向かい始めたところだった。 カラミティに傷付けられた部分を応急修理したストライクルージュが、他のアストレイのもとへ向かい始めたときだった。 ジェネシスから放たれた2度目の光。 まっすぐ伸びた太い光条の先は、地球連合軍月基地・プトレマイオス・クレーターに吸い込まれるようにして消える。宇宙に出てからの本拠地ともいうべき基地は、一瞬のうちに焼き払われて巨大なキノコ雲と共に数千人もの命を奪った。 「……し、支援隊より入電。『先の攻撃により、我、艦隊の半数を喪失!』」 ドミニオン・ブリッジ。 モニターに映し出されていた月基地の壊滅によるショック。それも抜けやらぬままにもたらされた報告に、アズラエルは短く呻いて、浮かしかけていた腰をシートに逆戻りさせてしまった。 「先の攻撃により、カラミティ・フォビドゥン・レイダー、各機の反応も消えました」 「何だと?!」 補給も支援もない、主力MSも失った。 ナタルは負けが確定したことで悔しさも出てくるが、同時に安堵もしていた。 兵としては自軍が負けたことをうれしく思うなどあってはならないのだろう。……がそれよりも、司令官として、艦の責任者として、罪のないクルーたちの命を守れたことのほうがうれしい。そして、地球にその照準が向けられていなかったことにも安堵を覚えた。月基地で犠牲になった者たちには申し訳ないが、自分たちが死んだ代わりに地表の何十万もの命を救えたことに誇りを持って、成仏してほしいとも思った。 ![]() 黒マント製作機から 手足の動かない達磨にされてたGATシリーズ3機は、逃げることができなかったと思って……。 To NEXT 連載TOP |