「……月基地が……」

 AAブリッジ。
 マリューは真空中にも係わらずできた巨大なキノコ雲に、目を見開いて呆然と見つめているしかなかった。あの場所には顔なじみである兵も何人もいたはず。軍から離脱したとはいえ、彼女にとってはいろいろと思い出ある地。

「月基地からこちらに向かっていた艦隊、ジェネシスの攻撃により、その約半数が消滅しました」

 ミリアリアの言葉に、マリューは我に帰る。

「……じゃあ、もう補給は望めないということか」

「そういうことに、なります……」

 トノムラの言葉に返したのは、チャンドラ。

「月基地を失っては、もう引くしかないわ。―――――ナタル!」

 地球軍が撤退の意志を見せれば、ザフトとて3射目のジェネシスは撃たないはず。それなのに、怒りに突き動かされるようにして再び進軍し始めたドミニオンに、マリューは叫んだ。







「……アサギ、ジュリ、マユラ……?」

 カガリは目の前で起きた光景から、目を逸らすことができなかった。
 滞空しているルージュの腕にぶつかった破片。気付いてそちらに目をやれば、熱によって変形した、赤と白の装甲板。……アストレイのシールドの変わり果てたモノ。

「うっ……」

 PSの上から、胸に下げている小さな袋を確かめるように手を当てた。
 クサナギの展望ブリッジで交わした約束が、もう永遠に果たされることはない。
 はかなく消えた。……巨大な質量を持った、たった1本の光で。

「うわあぁぁぁぁぁぁぁあぁあぁぁぁ!!!!!!」

 彼女は、自分の中で何かがはじけとんだように感じた。
 目の前で散った友人たちを思い、守れなかった悔しさに叫び続け、向かってくるストライクダガー、そしてシグーの間をすり抜けて、次々と行動不能にさせていく。
 周りから見ていたものが入れば、到底信じられなかったであろう。……パイロットが実戦経験などほぼ皆無のナチュラルであることなど。







「ピースメイカーを出せ!!!!!!」

 友軍艦・ドゥーリットルに通信が繋がり、サザーランドが現れた途端、アズラエルは叫んだ。
 この言葉にビクリと体を震わせたのはフレイを含むクルーだけではない。ナタルも『信じられない』とばかりに彼を見つめた。
 ピースメイカー、すなわち、核ミサイルを搭載したメビウス隊の名前。

「目標はプラント群! あの忌ま忌ましい砂時計、1基残らず叩き落とせ!
 残りのダガーを使って、道を開かせるんだ!」

「それでは地球を狙う驚異の排除の対象にはッ……」

 思わず叫んだナタルに向かって、アズラエルは懐から取り出した小型のピストルを彼女に突きつけた。

「アアッ、モウ、イチイチ、ウルサイんだよ。アンタは!
 あの兵器を堕とさなくても、本拠地のプラントを堕とせばすべて終わるんだ!」

 確かにプラントを堕として、それですべてが終わるのだろう。
 しかしその前に、地球が撃たれてしまってからでは遅いのだ。それをわかっていない目の前の男を、そして上司の命令のままに彼に従ってきてしまった自分を、ナタルは今更ながらに悔やむ。







「……冗談……ですよね……?」

 何とか攻撃は避け切ったものの、新たなミラーブロックの換装作業が始められたジェネシスを見て、ニコルは呆然と呟いた。

「これ以上、どこを狙うって……」

「ザラ議長は本当に、アレの照準を地球に向けるおつもりなのか?」

 やはり呆然としたままのディアッカに、イザークが言う。

「3人とも、ボンヤリしてる暇はないぞ!」

 ラスティの言葉に視線を移せば、転針してプラント群へ向かう地球軍艦隊。

「ジェネシスも止めなきゃならんが、プラントに核を落とさせるわけにもいかないんだ!」

 4機はドミニオンを追いかけて飛ぶ。







「キラ、あっちはラスティたちに任せて、俺たちはジェネシスへ向かおう!
 俺は何としても……父の誤ったやり方を……止めなきゃならないんだッ……」

「アスラン、『何としても』なんて言葉は、軽々しく言っちゃだめだよ」

 通信モニターの先の幼馴染みの顔が少し怒っているように見えて、アスランは少し黙った。

「今の君は、パトリックさんがとった方法を、命をかけて止めさせなきゃいけないと思ってるでしょ」

「そうじゃなきゃ、ジェネシスは今度こそ地球を撃つ……ッ」

 握りしめたグローブの中で、手の平がじっとりと濡れる。

「アスランがおじさんの間違いを正さなきゃいけないと思ってるのもわかるし。
 あの、死の光を生む兵器を絶対に撃たせてはいけないのも、止めなきゃいけないのはわかってる。
 ……でも。でもさ、僕たちはまだ死んじゃだめなんだ。
 『何としても』なんて言わないで、誰も死なないように、死なせないようにがんばらなくっちゃ」

「……キラ……。そうだな、お前の言う通りだ」

「わかってくれてうれしいよ。僕らはちゃんと生きてエターナルへ戻らなきゃ。
 じゃないと、生き残った僕がラクスさんを誘惑しちゃうよ?」

「そっ……そんなことはさせるかっ!
 それならその反対だったら、俺がを誘惑するからな!」

「あれ? は君にとって妹なんでしょ?
 アスランに近親相姦のケがあったなんて、僕は初めて知ったなァ」

「あるわけないだろう! このプログラムバカのロリコン!」

「ロ……ロリコンっ……。アスラン、その言葉の意味わかって使ってるんだろうねっ!」

「知るわけないだろうッ!」

「……イバんないでよ……」

「この前、ラクスが教えてくれた。お前みたいな奴が『ロリコン』だって」

 この瞬間、キラはエターナルに向けてフリーダムの全砲門、最大火力を向けたくなったのを必死で押さえたのは、あえてアスランには知らせない。

「……近親相姦の意味は知ってるくせに、ロリコンの意味を知らないってどうなのさ……」

「何か言ったか?」

「べっつにー。言っとくけどアスラン、僕はロリコンじゃないから。
 いくらラクスさんにそう言われたからって丸呑みにして信じないでよね」

「それじゃ何なんだ?」

「僕は普通なの! 僕がロリコンだったら、アスランはメカオタクの美少女趣味になるんだからね!」

 と、わけのわからない言い合いを繰り広げながらも、フリーダム・ジャスティスの両機は確実にジェネシスへと近付いていく。



黒マント製作機から
 戦闘シーンにちょっと疲れて、息抜きのキラとアスランによるロリコン&美少女趣味談義です。
 ちなみにこの会話は、彼らの間でしか繋がってません。


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