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「か、艦内に侵入者あり……」 未だナタルに突きつけられたままのピストル。構えている相手を刺激しないように、フレイが声を上げた。 「そんな命知らずは誰でしょうネェ。……監視カメラの映像は?」 ピースメイカーが動いていることで少し余裕を取り戻したのか、アズラエルの口調は若干、元に戻っている。 「それが……パイロットスーツおよびフルフェイスヘルメット着用のため、顔の判別すらできず……」 「現在地はわかりますね?」 フレイが答える前に、スライドしたドア。そして発射された弾丸がアズラエルの銃を弾き飛ばす。 「侵入者は=。現在地はブリッジ。……これでいいですか?」 「きっ……きさまっ……」 バイザーを上げて言った彼女を、しびれる右手を左手で押さえながらのアズラエルはにらみつけた。 「、助けに来て……」 「誤解しないで。私はフレイ嬢のことなんかどうでもいいんです」 きっぱりと言い切って、はアズラエルに銃を向けたまま。 「あのハゲデブの艦に通信を繋いで。アイツのことだから、どうせこの宙域にいるはずですよね」 ナタルはその言葉に小さく苦笑して。 「アズラエル理事の命を守りたければ、すぐさまドゥーリットルに通信を開け!」 彼女の鋭い声に、慌てて動き始める通信担当のクルー。 「……やっぱりバジルール中尉ですね。私の指しているのが誰か、すぐにわかったんですか」 「アラスカ本部でのことは、私とて忘れていないからな」 「あの時からすでに、ブルーコスモスの息はかかっていたんですね」 「そうではければ、あんな非人道的な方法など誰が思い浮かぶものか。 ……私も、その思惑に気付かずに転属命令に従った挙句、古巣を討つということをしてしまったのだがな。 先ほどからのアズラエル理事の暴挙を見ていて、それがどんなに愚かしいことであったかには気が付いた。 ……ラミアス艦長は、こんな私を見て笑うだろうな」 「そうですね。でも、艦長さんならきっと笑った後でも『お帰りなさい』って言ってくれますよ」 そう言いながら、は後ろ手に構えた銃を発射した。それは、彼女がナタルと話していているからその隙にと、床に落ちたピストルに伸ばされていたアズラエルの右手の甲を打ち抜いた。 「きゃっっ!」 飛び散る血飛沫に、フレイが鋭い悲鳴を上げる。 「通信、繋がりました」 映し出されたモニターの向こうで、『アズラエルさまっ』と声を上げたサザーランド。どうやら、手が撃ち抜かれた瞬間を見たらしい。 『=、きさま、こんなことをしてただで済むと思っているのか!』 「どうするっていうんですか。私の実力は、すでにご存知のはずですが?」 「誰でもいいッ! この銃を振り回すコーディネイターを取り押さえろォ!」 ヒステリックに叫んだアズラエルに向けて撃たれるピストル。弾は彼の頬ギリギリをかすめて床にめり込んだ。そしては、彼の方を向いて。 「普通に暮らしていた私から両親を奪いとったのは誰か、忘れたわけじゃないですよね? 忘れたなんて言えば、あなたの右手から順に指を1本ずつ撃ち抜いて、それで思い出させてあげますよ」 「……少尉、それはちょっとひどいのではないかと思うのだが……」 「抵抗する術を持たない12歳の女の子に、大の大人がよってたかって何をしたか、ここで言いましょうか? 餓死寸前まで食事どころか、水すら与えてもらえないことは何度もありましたし。 猛獣と同じ檻に入れて、こちらが泣き叫ぶ様を見ながら、彼らは悠然とお茶を楽しんでいたり。 時には所員の性欲処理をさせられそうになって、必死で逃げたこともあります。 それらは全部『ナチュラルとコーディネイターの差を調べる実験』のひとくくりだったんですよ。 自分の身を守るため、私に銃を持たせることのきっかけを作ったのは、紛れもないナチュラルなんです。 彼らのせいで私は、両親を目の前で奪われ。 両親の思い出の詰まった住んでいた土地を追われるように去り。 プラントではユニウスセブンの事故に巻き込まれた挙句、2人目の母親と慕っていた人を奪われ。 ようやく落ち着いたヘリオポリスでは、中立を犯して製造していたMSの奪取騒ぎで、またすべて奪われ。 約4年振りに再会した兄は目の前で撃たれ、永遠に奪われた。 私が植えつけられた恐怖と永遠に奪われたものは、もうどうやっても消えませんし帰ってきません。 それに比べたら、手の指足の指撃ち抜かれることくらい平気ですよ。ね、命令した張本人さん?」 薄ら笑いを浮かべながらのの言葉に、アズラエルは顔を引きつらせる。 「今すぐあの核ミサイル部隊を止めてください。 やったらやり返されることを思い知ったくせに、あなたたち地球軍はまだ戦おうというのですか」 「仕方ないサッ、討たなきゃこっちが撃たれる! 何もかも悪いのはお前らコーディネイターなんだ! お前らさえ生まれなければ、お前らさえ死に絶えていればッ……」 パンッ! 再びの銃声とともに、アズラエルの反対側の頬にも赤い筋が生まれた。 「こっちはアンタの言い分なんか聞いていられない。こうしている間にも核はプラントに近付いてる。 それを止めようするザフト軍に、ダガーが倒されて、命が消えていくんです。 もう一度言います。死にたくなかったら、メビウス隊を止めますか?」 回答を急かせるように、の銃口はアズラエルの額に押しつけられた。 「この男が決められないというなら、そっちのハゲブタでもいい。 停止命令を出しなさい。10数える間に決めて行動しないと、私は本気で引き金を引きます」 カウントを取り始めたに、アズラエルもサザーランドもまたなりゆきを見守っていただけのナタルを含むブリッジクルーたちも顔を青ざめさせていく。 「……8……9……」 『わかったっ! =、ピースメイカーは止める!!』 「サザーランド、きさまッ……」 『今はアズラエル様のお命のほうが大事です!』 「……10」 弾が肉を裂くくぐもった発射音とともに、額中央に弾痕を残したアズラエルの体はゆっくりと倒れていく。その動きを誰もが目をそらせずに見ていた。 ドサリ、と倒れる。それがきっかけだった。 「きゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」 フレイの悲鳴が、呆然としていた一同を正気へと戻す。 『わ、私は止めると言ったはずだっ!』 「言うだけじゃ駄目なんです。私は最初に言いました。10数えるうちに決めて行動してください、と。 聞いてないとか言わないでくださいね。この方法は、昔の私にあなたたちがよく取った方法ですから。 それに、もう遅いんですよ」 通信モニターとは別の外部カメラモニター。 そこに写っているのはブリッツ・バスター・デュエル・オレンジアストレイにストライクルージュ。そしてザフトのジンやゲイツなど。動いているダガー及びメビウスは存在しない。 「補給も増援も受けられなかったナチュラルの負けです。いい加減にあきらめなさい」 『だが、アズラエル様を殺したお前を許すわけにはいかん。ここでドミニオンもろとも沈んでもらおう』 サザーランドの言葉に、サッと色を変えるクルーたち。しかしは慌てるまでもなく、再び呆れたようにため息をついて。 「バジルール中尉、この艦とあのハゲブタの乗ってる艦、どのくらいの距離があります?」 「……え、ほぼ併走しているはずだが」 「じゃ、ハゲデブ大佐、撃てばいいですよ」 「な゛っ!!!!!!!」 一斉に上がる声。それに対し、モニターの向こうのサザーランドはにやりと笑って。 『さすが、自分と異なる存在を巻き添えにするのに心は痛まないようだね。わかった、お望みどおりに……』 「但しドミニオンを撃てば、そちらの艦も確実に落ちますよ。 私の乗ってるMSも核エンジンで動いていることに気が付いていないわけじゃありませんよね?」 『え?』 「フレイ嬢経由で渡された鍵、それはNジャマーキャンセラーについての一連のデータだったんじゃないですか? なら、フリーダムとジャスティスが、核エンジン搭載機だということもわかっているはずです。 そして私の乗るフライトは、あの2機の兄弟機ですから」 『う、撃ち落す前に、お前の機体をドミニオンからひき剥がせば済むことだッ!』 「確かにそうですけどね。見えていないものを捕まえられますか? フライトには追加装備として、ミラージュコロイドの発展形を載せてあるんです。 展開したままにしておきましたから、そちらのレーダーにもカメラにも映っていないと思いますが」 の言葉にサザーランドが悔しそうに唇を噛み締め、当面の命の心配がなくなったクルー達が胸を撫で下ろした、その時だった。 「……AAがッ……」 外部カメラをチェックしていたクルーが、絞り出すような声を上げた。 ![]() 黒マント製作機から アズラエル死去。この辺り、人を殺しても冷酷なヒロインで。 ナタルさんは生きてます。 To NEXT 連載TOP |