フリーダムとプロヴィデンスが離れていってしまっても、未だフライトを襲い続けるドラグーンの攻撃は緩まない。が、はあることに気が付き、確かめるべく目を閉じて精神を集中させた。

「……1、2、3……1、2、3……」

 小さくカウントを取っていたが、やがて、は目を開いた。それに呼応するかのように、フライトの目も赤く輝く。

「やられっぱなしは性にあわないんです。……だから、終わりにしますねっ!」

 ブゥンとうなりを立てるように。
 それを両手で支えるようにしたフライトを軸にして、シュタウトロッドが回転する。



ズガガガガガァン!!!!!!



 連続した爆発のあと、ドラグーンはすべて破壊されていた。

「よかったぁ……。アレにはフェイズシフトは使われてなかったんだ。
 でも、仮面の奴、人をおちょくりすぎじゃない? 自分が離れたら自動制御にでもしてあったのかしら」

 最初に気が付いたのは被弾位置だった。コックピット内部の自機を示すモニターで、着弾地点が同じ場所ばかりになっていることに気が付いて。
 それから確かめるように数を取りながら聞いてみれば、同じリズムで繰り返される攻撃。
 そこまで判れば、不規則に動いているはずのドラグーンの軌跡が読めてくる。あとは、その予想軌跡の反対方向にロッドを回せば、正面から突っ込んでくる物体を叩くことができたというわけで。

「……さてっと、キラ先輩の援護にいかなきゃなんだけど……ねぇ……」

 シールドとなるはずの羽根はほとんど千切れ落ちてしまっている。それに羽根がないということは、フライトの移動手段を断たれたといっても同じこと。スラスターは積んであるがおなざり程度のものでしかなく、動きの遅くなったフライトは下手をすれば格好の的ともなりうる。

「……だけど、私は行かなきゃいけない。あの日、ヒビキ博士たちのお墓の前で誓ったんだもの。
 キラ先輩にも言ったんだもの。アイツの攻撃は、私が受けるからって。
 満足に動けなくても、弾除けぐらいにはなれる。
 死なせない。もう絶対に、私の目の前で誰も死なせたりしない。
 自分の命を引き換えにしてでも、私は絶対に、キラ先輩は守りきってみせる。
 それが私の生まれた意味だと思うから。私が今まで生きてきた意味だと思うから。
 私はキラ先輩のために生きてきた。……そして、キラ先輩を生かすために死ぬの。
 今度は私がMIAにならなきゃ。そうじゃなきゃみんなが悲しむから。
 私がいなくなって悲しむ人は少ないけれど、キラ先輩はそうじゃないしね。
 フライト……生まれたばかりだっていうのに、こんなにボロボロにしちゃってごめんね。
 でも、あと少し、私と一緒に頑張ってね」

 はモニターの上をそっと撫でた。そこに映し出されているのは、自機の被害状況を表した略図。あちこちに修理を求めるかのように赤く染まっている。そこに手を重ねたは少しだけ目を閉じ、心の底からの謝罪を送った。
 そして、ゆっくりと顔を上げた彼女の顔に、既に迷いの文字はない。
 広げたボロボロの羽根を精一杯はばたかせて、足りない推力をスラスターで補いながら、フライトは2機の向かった先、ジェネシスのミラー前を目指した。







「……おやおや」

 急に動きを止めたプロヴィデンスを不思議に思いつつも、フリーダムはそのままの勢いで突っ込んでいく。
 肩を狙った攻撃は見事に外されたが、ドラグーンのジョイント部分に当たる背中を切り裂かれ、クルーゼは舌打ちとともに爆発前にそれを切り離す。

「キラ君、どうやら君が私を倒そうと必死になっていた理由が1つ消えたよ」

「フライトが、あの攻撃を破ったっていうんでしょう? 彼女を甘く見ないでください」

「ザフトレッド予備軍の嬢を、私は1度も甘く見たつもりはないよ。
 ただ、君の見ていないところで死んだほうが、彼女にとって幸せだと思ったのだが」

 背負っていたものを外した分、機体が軽くなり、少しだけ速度の上がったプロヴィデンス。今度はフリーダムが避け切れずに、動力部を切り裂かれたミーティアをパージする。

「君はなぜそうまでして戦うのかね。
 こんな争いの絶えない世界など、いっそのこと、何もなくなって滅んでしまえばいいじゃないか!」

「そんなことはさせない! 確かに争いはなくならないかもしれない、けど!
 だからって全部をなくしてしまって、それが望む世界になるとは限らないでしょう!」

 フリーダムとプロヴィデンスの、互いのソードが合わさる。距離が縮まった瞬間、フリーダムの腰にマウントされていた砲台がプロヴィデンスの脇をそいだ。

「自分の子を唯の実験材料としか見なかった世界など、必要のないものだろう!
 すべてなくなってしまえば、第2の君や嬢は生まれない。
 そうさ、すべてなくなってしまえばいいのだよ。なくなって無に返ってしまえ!」







「……あれは、ドミニオン? どうしてこんなところに……」

 ふと気が付けば、少し離れた位置に見える、両舷底が前に突き出た特徴的な形の宇宙艦。但し、色は見慣れた白ではなく、グレー。

少尉。聞こえますか?」

 届いた声に私は思わず眉をしかめた。……でも呼ばれたんだから答えないわけには行かない。

「聞こえます。機体はボロボロに見えますけど、私は無事です」

少尉、一旦こちらへ戻れ。補給が必要ないのは判っているが、修理は必要だろう」

 フレイ嬢からマイクを奪い取ったのだろう、聞こえてきたバジルール艦長の言葉。

「お気遣いありがとうございます。……でも、私は行かなきゃいけないんです。
 今度こそ、ちゃんと守らなきゃいけないから。これ以上、目の前で死んでいく人を見たくないんです」

 『では』と去りかけた背中に、『生きて返れよ』と声が聞こえた気がした……。







「……ここだ」

 俺はシャフトの終点で、ジャスティスを滞空させた。そして、アームレストに隠されたテンキーを引き出す。

「今度は生きて戻れない、か……」

 地球で、イージスでストライクに組みついて自爆した時とは違う。あの時は怒りのままにテンキーを押すことをためらわなかった。そして番号を打ち込んでから少しだけ余裕があって、逃げることもできた。
 今回は到底逃げられる距離ではない。

「人間は、死ぬときに走馬灯が走るって本当だったんだな」

 今までのことが頭に浮かんでは消え、消えては浮かび。そして最後に。

『大切なものですから、ちゃんと手渡しで返してくださいましね?』

 綺麗だけれども泣きそうな、壊れそうな微笑みを浮かべて送り出してくれた彼女の顔。

「……すまない、ラクス。君との約束は……守れないな……」

 俺は呟きながら、震える指先で、テンキーを押さえ始めた。
 押す度に感じるのは、それが地球を、そして大勢の命と世界を救うための確かな手応え。
 押す度に鳴る無機質な音は、俺の死へのカウントダウン。




黒マント製作機から
 もう、コメントは最終話まで書けないと思います。


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