ヤキン・ドゥーエ、メインコントロールルーム。
 壁一面の巨大モニターに現われていたタイムカウンターが、ゼロを示した。


 各所から一斉に始まる爆発、吹き出す炎。可燃物を巻き込んで、その火は大きさを増していく。


 ジェネシス内部でも。
 ジャスティスの核爆発に耐え切れず、内側から壊れていくシステム。





 そして。





「すべては手遅れだというのに! ヤキンの自爆が始まった今、ジェネシスの発射はすぐそこだ。
 そうだ、人類滅亡のカウントダウンははじまったのだ!
 ここで私を倒して何になる? すべては遅いのだよ、業が生み出した罪の光が降りそそぐ!」

 ジェネシスの内部が破壊されていくことを、クルーゼはまだ気がついていないのか。

「あなたを撃てば、その爆発がミラーを壊す!
 僕はもう迷わない! 護りたい人がいる、護りたい世界がある! だから、この剣の先は動かない!!!!!」

 フリーダムのビームソードが、フライトの左腰を貫いた。そしてそのまま横へ動く。

「いっけぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

 キラの叫び声をバネにして、フライトはプロヴィデンスもろとも上下に分断される。とすぐさま、フリーダムはフライトの手を取って上昇した。
 クルーゼもフリーダムの足に縋ろうとしたが、蹴り落とされる。







カッ!!!!!






 蹴り落とした次の瞬間、眩しいほどの光がフリーダムとフライトを包む。






































「宙域のザフト全軍、ならびに地球軍に告げます―――――」

 朗々とした女性の声が響き渡る。
 プラントでは停戦協定に向けて動き始めたこと。
 そして、プラント臨時最高評議会は、現宙域での戦闘行為の停止を地球軍に申し入れること。





「……終わったのですね……」

「それが一時的なものになろうともな……」

 19か月に及んだ争いは、ようやく終結した。しかし、奪ってしまった命も、奪われた命も戻ってこない。

「私たちは本当に何がしたかったのでしょう。何を望んでいたのでしょうか………」

「それを探し出すのが、生き残った俺たちに課せられた問題だろうな」

 その時、呼び出しを告げるアラートがなる。

「ラクス様、クサナギからです」

 開かれた通信はメインに切り変わる。

「……アスランッ……」

 彼の顔を見た途端、ラクスは両手で口を覆って、涙を溢れさせた。

「おいおいラクス。婚約者が生きててうれしいのはわかるが、まだ泣く場面じゃないぞ」

 苦笑しながら言うカガリに、涙を拭っていたラクスは『え?』と首をかしげた。

「キラとが見つからないんだ。
 戻ってくる前に探したんだが、さすがにルージュのバッテリーが切れかかって……」

 アスランが苦しそうな顔つきで言う。

「それでラクス、エターナルで2機の位置を確認できないか?」

「さっきから何度も通信を試みてはいるんだが、どちらからも返事がないんだ。
 もしかしたら、さっきのどでかい爆発に巻き込まれて……」

「私は信じていますもの。もキラさんも、必ず生きていますわ。
 アスランだってカガリさんだって、ちゃんと生きて帰ってきてくださいましたもの!」

「カガリ……ちょっといいか?」

 アスランは隣の彼女に少し耳打ちをして、その場を離れた。
 しばらくしてそれに気が付いたのはバルトフェルド。隣の少女はぎゅっと拳を握り締めて何かに耐えている。

「……アスランはどこに行ったんだ?」

「ルージュの補給が終わるまでの間に、行かなきゃいけない場所があるんだとさ」

「行かなきゃいけない場所?」

 オウム返しに聞き返したバルトフェルドの言葉尻に重なるように、エアーが抜けてドアが開いた音。

「ラクス」

 壁に片腕をついて肩で息をしているのは、先ほどまで画面の向こうで話していた彼。

「アスラン……ッ……」

 顔をクシャクシャにした彼女は、アスランの胸に飛び込んだ。







「……ここ……どこ……?」

 体中が痛い。

「痛みを感じるってことは、私、生きてるのかぁ………」

 でも、周りに見えるのは星の輝き、そして、フライトのものとおぼしき残骸。
 手足を投げ出しているということは、自分はシートから放り出されて漂っているらしい。
 私が覚えているのは、プロヴィデンスを巻き込んでジェネシスが爆発したときに、フリーダムと一緒に吹き飛ばされてしまったということ。
 飛ばされてどれだけ気絶していたのだろう。でも、周りにはフリーダムの影も形も見えない。

「……ははっ。あのまま死んでいられたらよかったのにね」

 そうすれば、最後の瞬間まで、顔を見ていられたから。
 そうすれば、死を迎えるその時まで、微笑んでいられたから。

「たった1人で死ぬんじゃなくて、誰かに見取ってもらいたかったなぁ……」

 もう指先を動かす力も残されていない。呟くことも、目を開いていることすらもおっくうになってきた。

「……おやすみなさい……」

 私は最後にそう呟いて、ゆっくりと瞼を下ろした。





 フライトを引っ張りあげて、もう1機を蹴り落として。そしてジェネシスが爆発して、押し寄せてきた光の圧力に巻き込まれたまでは覚えている。
 気がついた僕は、ボロボロのフリーダムと一緒に漂っていた。
 爆発に巻き込まれた機体は、左足と左手とを失っていた。……そう、フライトを掴んでいた側。

「まさか……!!」

 僕の頭をよぎった、1番あって欲しくない可能性。
 だけど、フリーダムより損傷が激しかったフライトが、核爆発の衝撃に耐え切れたとは思えない。

「探しに行かなくちゃッ……」

 彼女を護る、それが僕の誓い。
 彼女を護る、それが僕が僕らしく生きていくための意味。

「待ってて、絶対に見つけ出してあげる。そして一緒に帰ろう」

 もうボロボロで、動くのがやっとの愛機。でも、もう少しだけ無理させるね。
 僕の大切な人を迎えに行くまでは、自由を冠したMS、お願い耐えて。










「キラくんとさんの行方がわからないですって?!」

 マリューの上げた声に、インカムを外しかけていたトールの手が止まった。ミリアリアもサイも、モニターのアスランとラクスを注視している。

「補給と応急修理が済み次第、カガリとラスティがそれぞれのMSで出てくれることになっている。
 ジャスティスは知っての通り、ジェネシスの中で自爆させてしまったから俺は何もできない。
 AAの方でも捜索に出られるMSがあれば……」

「あのトリィを、トリィを飛ばしてみればっ……」

 アスランの言葉を遮って上がったトールの声に、皆の視線が集中する。

「そうですよ、トリィならきっとキラの元に辿り着くはずです!」

 サイもトールの意見を後押しする。

「その手がありましたわね。アスラン、すぐ用意できまして?」

「もちろん、トリィは俺が作ったものですからね。すぐ真空でも飛べるように改造しますよ」








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