それから1時間ほどが過ぎただろうか。
 疲れたのか、船の中から泣き声は聞こえなくなった。
 ただ1人を除いて。

「そんなに泣いてて、目が痛くない?」

「…ひっ……痛く……ひくっ……ないわよっ……」

 しかし、泣き腫らした目は呆れるほど真っ赤で。
 ……勝手に泣かせておくしかない。
 そう私が達観したとき、鈍い金属音と共に、一斉に落ちる照明。

「いやぁぁぁぁっ!!」

 暗闇の恐怖におびえる声が上がる。
 ……もぅ、何でこの船だけが災難続きかな?
 私はため息をついて、立ち上がった。

「嫌よ動かないでここにいて、私を1人にしないで!」

「別にそんなつもりはないけど。ただ、サブシステムに切り替えてくるだけ」

 「ダメっ!はここから動かないで!」

 私の袖を握りしめて、フレイは涙ながらに訴えてくる。

 事務次官の娘だか知らないが、甘ったれにも程がある。今の状況を把握してない!

 そう思った瞬間、俺は彼女の横っ面を平手打ちしていた。
 小気味よいほどの音に、ざわめいていた船内が静まり返る。
 当のフレイは、驚いて涙を止めていた。

「何いつまでもピーピー泣いてんだ!
 お前より小さい子が泣きやんでるっていうのに恥ずかしいと思えよ!」

「……だ、だって、私はパパに……」

「会いたいんだろ、死にたくないんだろうが。
 そんなこと、ここにいるみんながみんな同じことを思ってんだ!
 それをいつまでも泣きわめきやがって。
 泣いてたら何とかなるってわけじゃねーだろ今の状態はっ!」

「なっ、何よ。それじゃあ、が助けてくれるってわけっ?」

「きっちり助ける保証はできないけれど、ただ泣きわめいている奴よりかは役に立つね」

 俺の言葉に、ぐっと言葉を飲み込むフレイ。

「いいか、他のみんなも黙って聞け。
 さっきの振動とこの停電は、漂っていた隕石か、またはヘリオポリスの欠片がポッドを掠めたせいで、
 何らかのエンジントラブルが起こったと考えるのが無難だ」

「それじゃあ……」

 見知らぬ男から上がる声。

「話は最後まで終わっていない」

 俺はその男の声がした方を睨つけた。
 彼からは見えないだろうに、俺には男が体を震わせたのがわかった。
 しかしそんなことで時間を費やしてなどいられない。

「こういった救命艇ポッドにはメインエンジンのほかに、必ず緊急用のサブエンジンが用意されているはずだ。
 今からそれを立ち上げてくる」

「そ、そんな……ここにいる誰もがこれには初めて乗ったのよ。
 レクチャーも受けていないのにわかるわけないじゃないっ!」

「やらなければ死ぬまで」

 きっぱりと言い放った俺の言葉に、反論してきた女性が黙った。

「メインエンジンが停止したということは、推進力や電源の確保ができなくなったというだけではない。
 おそらく、直結していただろう酸素供給装置も停止し、気密用のドアロックも緩んでいるはずだ。
 こうしている間にも空気はどんどん外に漏れ、救命ポッドという巨大な棺桶の中で死を待つだけになる。
 俺は、そんなのはゴメンなんでね。できることがあるなら、最後までやってやる。
 たとえそれが、悪あがきと言われようとだ」

「し、しかし、サブを立ち上げると入ったって、それだって生半可なものでは……」

「そうよ。はクラスで一番プログラムの組み立てができなかった……」

「できなかったんじゃない。やらなかっただけだ。ああいう公の場で目立ちたくはない。
 それに、あんな簡単なものなど、今更やる必要もない。
 お前たちの習う程度のものなど、とっくに習得している。
 役立たずは引っ込んでろ、邪魔なだけだ」

「な、なによぉ……」

 フレイが悔しそうにしているのがわかったが、それに構っているつもりはない。
 俺はコントロールルームとおぼしきドアを潜った。






黒マント製作機から
 ヒロイン、キレました。
 別人28号(笑)の降臨です。
 何げに、私から俺にモードチェンジ。
 アークエンジェルと合流するまで、彼女のこの状態は続きます。

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