「……で、連れて行かれた先で、そのままお世話になりました。 でも、ただお世話になるだけっていうのも心苦しくて、私はレノアおば様の研究の手伝いをしていたんです。 そして運命のあの日……」 『ユニウス・セブン到着まで、後30分ほどです』 回ってきたガイドロボに問いかけると、そう答えが返ってきた。 「……帰ったら仕事が溜まってるんだろうなぁ」 がっくりと肩を落とすと座り直して、窓の外に目をやる。 白い砂時計がだんだんと大きくなっていく。 私は何となくだけど、この光景が好きだった。 「戦闘機……?」 ふと目に止まった機体。 でも、すごく回りに溶けこんだ見づらい塗装で。 錯覚だと思って両目をこする。 そして手を下ろしてもう一度確認しようとした瞬間。 「目が焼きつくされるんじゃないかと思うぐらいの光と 半瞬遅れた衝撃波が、シャトルを吹き飛ばしました。 降下前の船内では、まだ誰もシートベルトをつけていませんでした。 慣性に流されるまま、私たちは天井や床に何度も叩きつけられました。 そして、その時に何かの破片で……」 「そうか、俺が離れてたばっかりに……」 「別にレガール兄のせいじゃない」 「でも、どうして今まで直さなかった?」 「消すのはたやすかった。 でもそうしてしまうと、思い出までが消えるような気がして……」 私はそこでうつむくしかできなかった。 じっと両拳を握りしめ、落ちそうになる涙をこらえた。 「恐れながら艦長。私は彼女の要求を却下するべきだと思います」 「ナタル、あなた……」 「どういう理由があれ、私服の民間人がブリッジに上がることは許されません」 「そうね、あなたの言う通りね」 副艦長の発言に微笑む艦長の意図が見えず、私たちはその顔を凝視した。 「=!」 「はいっ!」 フルネームで呼ばれて、勢いよく返事を返す。 「明朝0700、ロッカールームまで出頭。そこで地球軍制服を受領せよ」 「……え?」 「然るべきところについて処置が完了するまでの間の特別措置だ。 本来なら認められないだろうが、今は軍の基地にいるわけではない。 いつまでもそんな格好で動き回られてはこちらが困る。 それに……私とて女だ。 あまり口にしたくない過去を話すのは嫌だろう?」 「……なるほどね。少尉もやさしいトコあんじゃん」 ムウ兄が、にやっと笑う。 「=、復唱は?」 レガール兄に促され、私は意味が飲み込めないまま繰り返す。 「今日は疲れたでしょ、自分のベッドに帰って休みないな。 明日の7時にはちゃんと指定された場所に来るのよ」 そのまま、私は部屋を追い出されてしまった。 翌朝。 「これが今日からあなたの制服」 艦長がいつもの微笑を浮かべつつ渡してくれたのは、キラ先輩達が着ている男性用の制服。 「胸の辺りとかサイズが合わないかもしれないけど、そこら辺は我慢してね」 「え、いいんですか?」 戸惑う私に、艦長は両手を置いてくれた。 「いいのよ。あのナタルだって納得してくれたでしょ? それに彼女だって女ですもの。 女の子が大きな傷痕をさらしていることがどんなに苦痛か、ちゃんとわかってるのよ。 私達みたいな仕官はスタート丈も長くなるわ。 あなたはパイロットを引き受けてもらってはいるけれど、形式上は下級兵士扱いですもの。 傷をさらさせておくわけにはいかない、でも、ブリッジに民間人は上げられない。 今回の措置が、彼女にできる最大の譲歩なのよ。 だから、ありがたく受け取っておきなさい。 どうして男物の制服なのかと聞かれたら、動きやすさを重視したナタルからの命令といえばいいわ」 「なるほど、それでは、私だけが彼女に特例を認めたことにしろと?」 その声にさぁっと音を立てて、艦長の顔が青ざめる。 艦長にさえぎられて姿が見えなかったけれど、この声に聞き間違いはない。 「おっ、おはようナタル。あなたも早いのね」 「私は当直明けですから」 『あなた方、昨日お酒飲んでらしたんじゃ……』という突っ込みは、私は何とか胸にしまいこんだ。 「彼女の制服については、後ほど、船内掲示板に張り出す命令書を作成して 艦長のサインを頂きに上がりますので、よろしくお願いします」 ――つまり、艦長もOKしたから自分も認めたって事にしたいんですね。 二人の板ばさみになって、私は思わず苦笑するしかなかった。 ![]() 黒マント製作機から 言わせたかった、書きたかったんデスよ。ナタルさんの「私とて女だ」発言。 このためだけに、ヒロインにでかい傷を持たせたぐらいで<ヲイ ヒロインが暴漢に襲われるネタ、ありきたりかと思ったんですが採用。 襲われる彼女を助けたのがクルーゼ隊という設定にしようと思ってたんで。 あ、タイトル『花が流れた時』というのは崩壊時に虚空に散った花のことですんで。 To NEXT |