「ふっ……うっ……」

 2つ角を曲がって遠ざかるのが精一杯で、物陰に飛び込んだ私は、両手で口を押さえた。
 ……そうでもしないと、叫んでしまいそうだったから。
 あそこまで言われた悔しさがあふれ、涙は流れる。
 でも、ここで声を上げてはいけない。こみ上げる嗚咽を必死で堪えた。





 声をかけた途端、肩が激しく震える。
 追いかけてきて正解だった。
 背を向けている彼女が声を殺して泣いているのは、一目瞭然。

「何も、こんなところで隠れて泣くことはないよ。
 君が頑張ってたのは知ってる。だから気に病む必要は……」

「キラ先輩に何がわかるんですか!」

 振り返った濃茶の両眼は、濡れたまま僕を睨つける。

「……すみません。八つ当たりです。別に先輩が悪いわけじゃないのに」

 次の瞬間、反らされた瞳。
 僕は、彼女の腕をつかんで引き寄せていた。

「ちょ、キラ先輩、放して……」

「だめ。泣くならちゃんと泣く。声を殺して泣くのは、男だけで十分。
 が僕を避けているのは知ってる、でも。
 今の状態の君を置いて行けるもんか」

 ――これは相当脅えられてるよなぁ……。
 抱きしめている腕に伝わってくるのは、嗚咽による震えではない。
 でも、本当に言葉どおりの意味で。
 彼女をひとりで放っていくことなんか、絶対に出来やしない。

「大丈夫、我慢しなくてもいいから」

 気休めの言葉でしかないことは知ってる。
 今の自分は彼女よりも非力で無力で。
 それでも、悲しみに疲れた君を抱きしめてあげることはできる。
 ううん、抱きしめさせてほしい。
 言葉を借りるなら『銃を持たない者に権利はない』かも知れない。
 だけど、君を代わりにしてしまった僕の、できる唯一のことだから。


 放っておいてほしいのに。
 お父さんたちが死んで、お兄ちゃんは家にいなくて。
 本当に悲しいとき、本当に泣きたいときは、誰もいなくて。
 いつもひとりでいたんだから、平気。
 構わないでいてほしいのに。

「キラ先輩、離れてください!」

「いや」

 ――どうして離れてくれないの?
   怖いよ、怖いよ、怖いよ。
   抱きしめられても、泣けないよ。
   お願いだから、腕に力を込めないで。
   お願いだから、ひとりにして。
   お願いだから、お願いだから。
   いまさら人に頼るような、弱い子にさせないで――。



  黒マント製作機から
   ヒロインは、いつでも強がってきたんです。
   他人からは一線を置いて接してきて、一番気を許している相手・ミリアリアにも、
   兄に対してさえも、自分の弱さ、本当の気持ちを言いません。
   いつでもひとりだけで泣いて終わらせてしまうこと。
   強がることでしか自分を守る術を知らなかった、そう言っていいでしょう。
   ですから、頼ってしまうということを心底恐れています。
   人にすがってしまってはいけないと、いつも自分を戒めているのです。
   でも自分に寄せてくれている純粋な好意に気がつかないわけでなく。
   その証拠にレノアの死体を目の当りにしたときに倒れてしまったぐらいです。

   ところで。
   ヒロインをストライクに載せた時点から、ほしみの頭の中がずれてきています。
   最初はこんな展開にするつもりなかったのに……。
   砂漠までで軌道修正します……多分。

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