「あらあら、これはお邪魔してしまったようですわね」

 今回はラクス嬢に感謝します。
 乱入してきた声に驚いたのだろう。
 私は力が緩んだ隙に、キラ先輩の体を突き飛ばして、そのまま、力一杯走って部屋に戻った。



「どうしてあなたがここにいるんですか」

「どうしてって、お散歩をしていたからですわ」

「部屋の鍵は掛かっていたはずでしょう?」

「ええ。でも、あの赤い髪の方が私を連れ出しまして。
 戦闘が終わりましても誰も連れていこうとはなさいませんし、
 何より私も部屋の位置を覚えておりませんでしたから、捜すついでにお散歩しておりましたのよ」

「……そうですか」

 僕もラクスさんを盾にしたことは知っていた。
 彼女を連れて出たというのがフレイだということもわかった。

「わかりました、部屋まで送りますから」

 僕が先に歩きだすと、ラクスさんは小走りに追いかけてきて隣に並んだ。

「案内していただけるのはうれしいことですわ。
 でも、キラ様はのことが気になるんじゃありませんの?
 彼女を追いかけなくていいのですか?」

「もちろん追いかけたいですよ。
 でも、あなたをここに置き去りにしていくわけにも行きませんし。
 それに、僕はに嫌われてるみたいだから……」

 僕はそこで口ごもった。

「あの子も変わらないんですのね」

 ほぅっとため息をつくラクスさん。

「あの、ラクスさんはのことを」

「ええ、以前から知っています。
 ほんの1年ほどでしたけど、プラントに住んでおられましたわ。
 その時から全く変わらないのも、悲しいですわね。
 差し伸べられる優しさに慣れていなくて、その手を半ば振り払って、いつもひとりで溜め込んでしまっては、無理して笑って。
 あの子の本当の心を知っているものは、あの子だけですわ」

「それじゃあ、ラクスさんたちにも……」

「完全に気を許してはいないでしょう。
 いつだってあの子は、私たちに上辺しか見せてくれません。
 レノア様も、の心を休ませてあげようとなさっていました。けれど。
 必要以上に頼っていただけなくて、いつも徒労に終わっていました。
 は、今の彼女は、どんなに悲しくても辛くても、誰かにすがりつくことを忘れてしまっているのです」

「本当に悲しいですね、それは……」

 僕にはそれだけしか言えなかった。そして、はたと気がつく。

「あの、ラクスさん。先ほど出てきたレノアさんって……」

「フルネームはレノア=ザラ様です。が一時期住んでいた家の奥様ですわ。
 彼女の息子さんが、私の婚約者ですの」

「え?」

 ファミリーネームが『ザラ』だって?
 聞き覚えのある名前にもしかしてと思ってたんだけど。
 やっぱり、あのときのの叫びを聞き間違えてはいなかったんだ。
 ってことは、隣を歩いているラクスさんって……。

「あなたの婚約者ってアスラン……アスラン=ザラなんですか?」

「まぁ、彼のことをご存じなんですのね。そうですわ、私の自慢の婚約者ですの」

 白い頬をパッと染めた彼女を見ていて、僕は改めて、親友と別れた月日の長さを知った。

「ここで結構ですわ、ありがとうございます」

 ラクスさんの声に顔を上げると。僕たちは、いつの間にか部屋の前まできていた。

「これからお辛いですわね。
 キラ様とアスランの関係は存じ上げませんけど。
 キラ様もそしても、知り合いと戦わねばならぬのですから」

「でも、実際にストライクを動かしているのはで、アスランと戦うのも彼女でっ……」

「そのことをわかっていらっしゃるのでしたら、余計にをひとりにしないであげて下さいな。
 今のあの子に必要なものは心の休息です。でも、それは私ではつとまりませんもの。
 同じ人物を知り、同じ立場のキラ様でしたら、をおまかせできます」

「同じ……立場?」

「はい。キラ様もも、地球軍に身を寄せているコーディネイター。
 言ってみれば、味方の中の同胞というわけです。
 それに私は、プラント側と見なされている捕虜の立場ですもの。
 根本的に今の立場が違いますわ。ですから……」

 やんわりと押された背中に、僕は思わずたたらを踏む。
 振り返ると、開いたドアに消えようとするラクスさんの姿。

のこと、お願いしますね」

 その言葉を残して、ドアは閉じられた。



「親友の婚約者に頼むって言われちゃ、断われないよね」

 しばらくその場に立ちつくしていた僕だったけど、やがてクスクス笑いながら歩き出した。
 もちろん、向かう先は決まっていた。



  黒マント製作機から
   今回はキラとラクスの会話がメイン。
   ヒロインの関係については、あっさり世間話的に流したラクス嬢です。
   でも、ヒロインのことをお願いしたのはいいですけど……、
   キラは嫌われてるんですよねぇ。
   このあとの進み方で、ヒロインがますますキラを避けるようになるんじゃないかと、
   ちょっと心配なほしみでした。

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