次の日の朝。
 私がパンを千切って口に運んでいると、背後が急に暗くなった。

「あのね、……。私、あなたに謝らなきゃいけないと思ってたの……」

 振り返って見上げた先には、ふし目がちなフレイ嬢の姿。

「昨日はひどいことを言ってごめんなさい。
 あのあと、フラガ大尉からの御両親の話を聞いて……」

「そう。でも別に私は気にしてないから、謝ってもらう必要はない。
 モントゴメリを助けられなかったのは、私がたどり着けなかった責任でもあるから」

「でも、でもっ! 私はあなたのことを考えずに、ヒドイ言葉ばかりをぶつけてっ……」

 小さくため息をついて立ち上がると、トレイを手に歩き出す。
 皿の中身がまだ残ってはいるが、食欲なんか一気に失せた。
 すれ違い様、彼女にしか聞こえない声で。

「あのなぁ、いくら謝られても誠意ってものが感じられないんだけど。
 形だけの謝罪を効いてるのって、ただ煩いだけ。
 ごめんなさいって言葉は、相手の目を見据えながら言うべきだぜ。
 そんな基本的なこと、大好きな大好きなパパから教わらなかったのか?」

「なっ、何よ、いきなりっ!」

「心配しなくても、このまま何度でも戦ってやるさ。
 AAを、お前たちナチュラルを守るために、お前の大嫌いなコーディネイターが、同じコーディネイターを敵にしてな」

 俺はトレイを返却して、食堂を後にする。
 フレイ嬢が顔を赤くして睨みつけていたのには気がついたが、気がつかない振りをしてやった。
 あのお嬢さんが何をさせようとしているか、俺には最初っからわかっていた。
 父親を殺された恨みを、コーディネイターを皆殺しにすることで晴らそうと、
 自分が銃を撃つのではなく、その代わりを俺たちにさせるつもりだろう。

「たまにしおらしくしていたと思ったら……」

 フレイ嬢らしい他人まかせの復讐に、呆れて笑いがこみ上げてくる。
 帰りついた自室でキーロックを解除し終えて、俺はふと思い出す。

「……キラ先輩は、たぶん騙されるな」

 またもれたため息とともに、開いたドアは閉まった。





「……ここに残るのかね?」

 ぼんやりとストライクを眺めていたは、聞き覚えのない声に驚いて立ち上がった。

「脅えなくていい、私は第8艦隊司令・デュエイン=ハルバートンだ。そして君は……」

「はじめまして、です」

 横付けしたメネラオスから連絡艇がやってきたことは聞いていた。
 が、知らない人々の中に顔を出すのが嫌で逃げた。
 唯でさえもコーディネイターというだけで疎まれているのに。
 はこれ以上、不必要に敵を作りたくなかった。
 しかし彼からは、彼女はなぜか逃げられなかった。

「少し私の話につき合ってくれるかな?」

 ハルバートンの優しい声と笑顔が、今は亡き父親とかぶる。は素直に頷いた。

「君についての資料は少し読ませてもらったよ。でも、実際に見て驚いた」

「何に……ですか?」

「部下たちが『少女でもコーディネイターなのだから』と非難していてね。
 見せてもらった資料に写真がなかったことも原因の1つなんだが……。
 私も、大柄で自信に満ちあふれている子を想像してしまっていたんだ。
 それが会って、激しい思い込みだったことに気がついたよ」

 ハルバートンは、ゆっくりと頭を下げた。

「君みたいな普通の女の子にまで、我々の戦争を押し付けてすまなかった。
 今までこの船を守ってくれて、本当に感謝する」

「や、やめてください。私はそんなことをしてもらおうと思ってませんから」

 は慌てて駆け寄って、ハルバートンの上体を起こそうとする。
 しかし、彼女の細い腕の力でそれはかなわなかった。

「ストライクに乗ることを決めたのは私の意志ですし、これまで守れなかった命もあったんですから。
 私は感謝されるようなこと、たいしてしてません……」

「しかし、その勇気は誰しもが持ち合わせているものではない。
 誰が好んで戦場に身を投じるものか。それなのに。
 君はこの船を守るため、MSに乗り込みトリガーを引く道を選んでくれた。
 そんな相手に敬意と感謝を述べないのは、最大の失礼に当たる」

 頭を上げたハルバートンとの、互いの視線が絡み合う。
 お互いに何も言わずに見つめ合っていたとき、入り口のほうからハルバートンを呼ぶ声がした。

「やれやれ、もう少し話したかったのだが……」

 彼は苦笑して、手の平での頭を撫でた。

「これからは君が選んだ道を進みなさい。無理して銃を持って、同胞の血で両手を汚さなくてもいいのだから」

「でも、私がストライクで出ないと……」

「このあと、AAには地球に降りてもらう。その先にはアラスカJOSH−Aが待っている」

「地球連合軍本部……」

「そうだ。ザフトとて、アラスカの制空圏内までは追って来まい。
 それに、君の学友達や避難民の皆は先にシャトルで降下する手筈になっている。
 だから安心して、君は君の望む道で生きていきなさい」

 再度呼びかけられたハルバートンは、再度の頭を撫で、MSデッキから去っていった。

「……私の望む、道……」

 は小さく呟いてから、再びストライクを見上げた。



  黒マント製作機から
   はい、読んでお分かりのとおり、ストライク前での会合はハルバートンとヒロイン。
   というわけでセリフ捏造。だってねぇ、キラがパイロットじゃないんですもん。
   ついでに、フレイがヒロインをあおるシーン、軽く流しちゃいました。
   男だったら簡単に引っかかったかもしれないですが、
   この話のヒロインは彼女のことを要注意人物に認定していますから引っかからなかったわけで。
   『謝るときは相手を見て云々』は、ほしみが小さいころ父親に怒られたときの経験からです。

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