「「で?」」

 違う場所で異なる人物から、違う相手に向けて、発せられた言葉。
 一つは居住区にある男性部屋で、トールからキラへ。
 もう一つは医務室で、ミリアリアからへ。

「「何もなかったってば!!」」

 トールとミリアリアの問いかけに対して、答えるキラと





「そりゃ……、うなされてるが、誰かを捜して手を動かし始めたからさ。
 点滴が外れちゃいけないと思ったし、落ち着かせなきゃと思って、その手を捕まえて握りしめていたけど……」

「それって結構、役得じゃないか?」

 カズイの言葉に、トールとサイは何度も頷いた。

「好きな子の手って、握りたくなるものなんだよなぁ。
 ほら、自分とは違う感触、柔らかさに憧れるし」

「はいはい、彼女持ちは黙る」

「そういうサイにだって、フレイがいるじゃないか!」

 呆れた口調に、噛みつくように返される答え。

「でも、これでAA公認になったんじゃない?」

「へ?」

「ほら、あんなシーンを見せつけてくれちゃったわけだし。
 お兄さんの前で、年頃の男女がベッドの上で体を密着させて。
 しかもの方はタンクトップのインナーという危ない格好でさ」

「あーあ、トールやレガール少佐から聞いただけだってのが悔しいな。
 ぜひとも現場を見ておきたかった」

「レガール少佐、凄い顔で睨んでたんだろ?
 俺の想像で言っちゃ悪いけど、少佐って相当のシスコンだろうな。キラもこれから苦労するよ」

「やめてくれっ!!」

 声を合わせて笑う彼らに、僕は思わず叫んでいた。
 いきなりのことに唖然とした3人の視線が付き刺さる。

「僕は、僕は彼女を……を好きになる資格なんかない……。
 今回のことだって偶然が重なって、そこにトールたちが来てしまっただけだから」

 うつむいてしまった僕の肩に重みがかかる。

「……キラ、お前、何か吹き込まれただろう」

 声から、相手はサイだとわかった。

「吹き込まれたって、誰に?」

「俺の想像だけど……フレイだと思う」

 名前が出た途端、隠し切れないほどに体が強張った。

「やっぱりな……」

「……僕、サイの彼女だって頭でわかってたのに……」

「当事者だけで話を進めてないで、俺たちにも説明してくれよ」

 訴えに僕とサイは少しだけ視線を交わし。
 彼が頷いてくれたので、僕はぽつりぽつりと、すべて話した。
 シャトル前での会話から、自分が残ることを決めたこと。
 制服に着替えるために飛び込んだロッカールームにフレイがいたこと。
 決意を話した僕に彼女がしたこと。
 偽りの好意だとわかっていながら、それでも突き放せなかったこと。

「……軽蔑……するよね」

「ん、まーな。俺たちはあれだけのことで騒いでたお前を見てるわけだし」

 小さなトールの答え。覚悟はしていたけれど、やっぱり胸が痛い。
 でも、これはずっと抱えていかなきゃいけない痛み。
 大切な友達から、一瞬だけでも彼女を奪った罪だから。

「俺はキラを軽蔑する。
 でも……………それ以上に、フレイに呆れた」

 驚いて顔を上げると、やはり驚いたように見つめるトールとカズイ。

「フレイさ、親の敵を打ってくれるなら誰でもいいんだよ。
 たまたま目の前にキラたちがいたから、だから――。
 自分を守らせて、そして代わりに戦わせようとしてるだけだと思う。
 それに、親父さんが死んだ時に言ってた。
 『ザフトなんか、コーディネイターなんか皆死んじゃえばいい』って。
 『ここにもいるんだから、できないことないんだ』って。
 その時はあまり本気にしてなかったんだけど、まさか、こういうつもりだったとはね……」

「それってフレイは、自分が志願したら、俺たちも残るに違いない。
 そうしたらキラもここに残るだろうと考えたってこと?」

「賭だったと思うよ。せっかく志願しても、俺たちが残る確率は半分。
 キラが残る確率はそれより低かったろうし」

「でも、は自分の意志で残ったんじゃ……」

「フレイの望んでいたのは『コーディネイターの皆殺し』。
 それにキラのほうが、扱いやすいと感じたんだ」

 僕はサイの顔を直視しながら、次の言葉を待った。
 彼はそんな僕をじっと見たままで、静かに言った。

「フレイは自分の体を差し出すことで、キラが離れられない理由を作ろうとした。
 敵を打ったって親父さんは戻ってこないのに、本当に馬鹿だよ……」



  黒マント製作機から
   医務室事件その後、男子学生バージョン。
   女子学生バージョンも書きます。

To NEXT