「私ってこんなに足が遅かったっけ?」

 は精一杯足を動かしているつもりなのだが、思ったように前に進まない。
 それでなくても、AAの端から端までを走らなければいけないのに。
 あの角を過ぎればようやく中間地点。
 そう彼女が思ったとき、飛び出てきた相手とぶつかった。




「ご、ごめん。大丈夫?」

「いえ、私こそ急いでて前方不注意でしたから」

 キラはぶつかった相手を難なく受け止めた。
 勢いがそれほどなかったのが幸いしたというか何とか。

「じゃ私はあっちに……」

 再び走り出そうとしたの手首を、キラはしっかり捕まえる。

「今回、ストライクは僕が乗るから。
 はブリッジで、僕の代わりに入ってほしいんだけど」

「もう体も平気です、大丈夫ですから。動かすぐらいちゃんとできます」

「だめ。僕はもう民間人じゃないから、君の言葉には従えないよ。
 それに、これは艦長命令でもあるからね」

「艦長さんの……?」

「そう。だからブリッジへ、ね?」



チュッ



「じゃあ、そっちはまかせたから」

 は最初、何が起こったのか分からなかった。
 体を引き寄せられたと思ったら、掠めるように触れた感触。
 小さいながらもはっきりと聞こえた音。
 キラの姿が見えなくなって、ゆっくりと触れられた位置に指を添える。
 そして、恥ずかしさよりも沸き上がってくるのは、怒り。

「……あの色魔め、帰ってきたら一番に殴る。
 絶対グーで殴る、手加減なしに殴る。先輩だからって遠慮なんかしてやるもんか」



 僕は急いでPSに着替え、MSデッキに走り込んだ。

「こら、遅いぞ! フラガ少佐はとっくに行ったぜ」

「すみません。ストライクもすぐに出ます」

 シートに座ると、急ぎOSを立ちあげる。

『キラ、発進はもう少し待って。今、フラガ少佐のスカイグラスパーが索敵中だから』

「敵が近付いているのは変わらないんなら、僕は出る!」

 そう言いながら、ストライクを歩ませる。

「外部ハッチ、開けて下さい。すぐに出ます」

『ヤマト少尉、もう少し待ちなさい。敵が何かわかってからでも遅くないから』

「どうせ戦わなきゃいけないんだ。
 大丈夫です、全部僕がやっつけてしまいます。
 だからハッチを開けて下さい!」

 何故だろう。
 僕は、あんなに戦うことを嫌っていたはずなのに。
 今は一刻でも早く、敵を倒したい。
 ストライクで、AAを守りたいから。
 ストライクでしか、AAを守れないから。
 今度こそためらっていられない。
 だってAAには……。
 そこまで考えて、僕は自分のしたことを思い出し、顔が赤くなるのがわかる。

「だめだよね、今までみたいに自制ができなかった」

 外部ハッチの開く音で、呟きは誰にも届かない。
 まぁ、届かれても、困るんだけど。
 偽りの好意を突き放せなかった僕。
 冷静になってから溢れてくるのは、心の底からの後悔ばかり。
 情けなくて、自分に人を当てにする弱さがあることを知った。
 すがるよりすがらせてあげなきゃいけないのに。
 心の拠り所として支えてあげたいのに。
 自分が自分で立てないのに、それはできないと思った。
 だからこれ以上、今以上の感情を持ってに接しない。
 そう決めたばかりだって言うのに。
 あまり無防備な顔で問いただしてきたからだと思う。
 気が付いたら、彼女の腕を引き寄せていた。
 滑らかな頬に、唇を寄せていた。


『進路クリア、ストライク発進どうぞ!』

 ミリアリアの声が、思考を断ち切らせた。
 じっと前を見据える。

「キラ=ヤマト、ガンダム、行きます!」

 重力下の発進は、いつもよりGがきつかった。



黒マント製作機から
  キラ、何やってるんですか、と。自分で書いてて思わず突っ込みましたよ。
  キスされたことでうじうじ悩んでたと思ってたら、舌の根も乾かずこれです。
  まぁ、ほしみの中では、キラは手が早いという設定が確立されてます(笑)
  健康な青少年ということで、見逃してやってくれませんか?


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