コポコポコポ……

 静かな音を立てて沸き上がるコーヒーを前にするバルトフェルドの表情は、期待に溢れていた。
 その部屋にやってきたダコスタは、あまりの匂いに眉をしかめる。

「……出撃準備、完了しました」

 ようやっとの思いで彼がそれだけを口にしたとき、バルトフェルドはカップに注いだコーヒーを口に含んでいた。

「はい報告ごくろうさん」

 ブレンドが上手くいって上機嫌の上官に、換気を促す言葉を掛けそびれたダコスタ。
 そんな彼の思いなど知る由もなく、バルトフェルドはカップを机に置いて部屋を後にした。
 デッキには出撃可能となったバクゥ3機と装甲車、整列した兵士等が彼らの到着を待っている。

「昨晩はおいたが過ぎた。悪い子にはお仕置きが必要だね」

 ニヤリと笑うバルトフェルド。その姿に異を唱えるものなど、隊の中にはいない。

「目標、タッシル! 総員乗艦!!」

 響き渡った声に、その場は一気に慌ただしくなった。






「空が……燃えてる!」

 見張り台にいた少年の叫び。
 その声は基地内にいたマリューたちにはもちろんのこと。
 あてもなく歩いていたキラにも、談笑を楽しんでいたたちの耳にも届いた。

「あの方角はタッシルの辺りだ!」

 その声に無線をつかみ連絡を取ることを試みるも、返ってくるのは雑音のみ。
 Nジャマーの影響下とはいえ、あまりにも不自然。

 もしかしたら―――全滅?

 重ね合わさったピースにより、最悪のシナリオが作られる。
 武器を手にしてバギーに乗り込むレジスタンスたち。無論その中にはカガリの姿もある。
 しかし、彼女と一緒にいたはずのがいない。
 その疑問を口に出そうとした時、飛び降りてきたのは白と水色と濃茶。
 自分たちに背を向けるように降ってきた人物に、マリューたちは驚きで一旦言葉を失った。

「すみません、最短距離を選んでいたもので……。ぶつかりませんでした?」

 立ち上がった人物は振り返って頭を下げる。そして再び走り去ろうとして、レガールに腕を捕まれた。

「どこへ行く気だ?」

「どこって、タッシルです。見殺しにはできませんから。バギーには定員オーバーで乗せられないって言われました。
 なら、ストライクで出るしかないじゃないですか」

少尉、それは許しません」

「な……どうしてです!?」

「あちらが陽動という可能性がないわけじゃないの。私たちはここを動かないほうがいいわ」

「でも、私は!
 私はあんなひどいことをする奴等が許せないんです。あそこには戦う術をもたない弱者ばかりなんです。
 だから、私がストライクで戦わなきゃ、戦って守ってあげなきゃいけない……」

「落ち着け」

 軽い音がの言葉を遮った。

「フラガ少佐。スカイグラスパーで出てくれるな?
 それと、こちらからもバギーを出して、医者を含む救援隊を向かわせて」

「そうですね、スカイグラスパーが一番早いでしょうし。わかりました」

 うなずいたマリュー、フラガ、ナタルはの様子が気になっていたが、その場を去っていった。




「何で邪魔するんだ!」

 3人の姿が見えなくなってから、はうつむいていた顔をあげた。

「艦長も言ってただろう。お前があそこで出ていっていたら、こちらは手薄になる。
 戦力を分散させるのが相手の目的だったら?」

「それでも俺はっ」

「うぬぼれるな、お前1人が動いて、それで何もかもができるわけじゃない。それに街の中で満足に戦えるか?
 ストライクは汎用型といえ、市街戦を経験させたわけじゃない。
 おまけに昨夜みたいにパラメータを書き換えただけで対応できるわけじゃない。
 すべてはパイロットの操縦にかかってくるんだ」

「あれだけ燃えていて、障害物になるものが残っているとは限らないだろうが。いつまでも兄貴面して説教するな!」

「いい加減にしろ!」

 怒鳴られて、ビクリと体を震わせる

「兄貴だからとかそんなんじゃない、俺は一個人としてお前を止めているんだ。
 俺だってな、それで助けられる命なら今すぐ行きたいさ。
 しかしな、現時点でストライクが出ても何も変わらないことになぜ気付かない?
 焼けて半分崩れ落ちたような場所で、あんなデカい機体が暴れてみろ。
 守りに出たお前が、逆に、街を壊すことになるんだぞ。
 残っていた建物は壊れるかも知れない、瓦礫の隙間で生き残っていた人たちを踏みつぶすかも知れない。
 そのことをなじられた時に『街を守るためだから仕方がなかった』で済まされるか?
 『できるから』『できるかも知れないから』じゃ、望む結果にたどり着けないことだってある。
 『その場の感情で動くな。今、自分が取ろうとしている行動が必要なもので最善なものか考えろ』
 おやじの口癖を、お前だって忘れているわけじゃないだろう」

 唇を噛み締めたまま、はこくりとうなずいた。

「よし、いい子だ。俺の言ったことが理解できたよな、そこにいる奴も早まるんじゃないぞ」

「……ここに誰かいるって、いつからわかってたんですか?」

 岩の影から現れた人物はキラだった。
 声が聞こえるからと思ってきてみれば、その場に現れにくい雰囲気。
 立ち聞きもみっともないからとその場を去ろうとした彼だったが、の一言で歩き出せなかった。

「男か女かわからなかったが、最初からだな。俺の鼻は敏感なんだ。風上から来る匂いに気がつかないわけがない」

 どこか胸を張るレガール。

「犬並み……」

 自分にはさっぱりわからない匂いだけに、から小さな言葉がついて出た。

「ヤマト少尉、お前どこかで香水に触っただろう」

「えっ?」

「あの先輩、さっきアルスター二等兵に抱きつかれてました。きっとその移り香です」

「抱きつかれてないよ!」

「ああ。少なくとも私とカガリが見たときは、腕組んでピッタリ密着してただけでしたよね」

「でもその後すぐ引き剥がし……」

「はいはい、それの続きは後にしろ。それより2人ともAAに帰るぞ、一応第二戦闘配備だからな」

「「戦闘配備?」」

 『なんでそこで同じような顔して聞き返すかな』と苦笑しつつ、レガールは歩き出した。その後を慌てて追うキラと

「確かにさっき俺は、ストライクは街の方へ行くなと言った。
 だが、さっきも言ったように向こうが陽動でこちらに襲撃があるかもしれない。
 だから、第二戦闘配備。AAに帰艦後は速やかにヤマト少尉はブリッジへ、少尉はストライクへ向かうように」

「え、僕がストライクじゃないんですか?」

「正規のシフトに戻して大丈夫そうだと、さっき艦長たちと話して決めた。ということで、ほら、さっさと行った行った」

 背後に回った彼に追い立てられて、キラとはAAまでの残りの道程を走らされた。



黒マント製作機から
  変なところで切ってしまったかも。ごめんなさい。


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