「……冗談でしょ?」

 ブリッジに入った僕たちの耳に入ったのは、艦長の呆れ返った声だった。

「どうしたの?」

 一番近くにいたトールに問いかける。

「レジスタンスの奴等がバギーで、バクゥおっかけてったんだよ」

「はぁっ?」

「ちゃんと説明しろ、ケーニヒ二等兵」

 レガール中佐の言葉に、トールは順を追って話してくれる。……時々横から補足が入ったけど。

「むちゃくちゃです、自走砲で敵う相手じゃないわ」

「フラガ少佐、止めなかったのか?」

『無理言わんでくれ。下手に止めたらこっちと戦争になりかねなかったんだぜ。
 あのカガリとかいうお嬢ちゃんが率先して出ていったよ』

 艦長は大きなため息の後。

「ハウ二等兵、ストライクに出てもらうよう指示を出して。
 中佐とヤマト少尉が戻ってきたのだから、一緒にいた少尉も戻っているはずよ」

「わかりました」

 ミリアリアがマイクに向かうのを見ながら、僕もいつもの席に着いた。





「……お願いだから間に合って。
 罠もなしに正規軍に戦闘を仕掛けるなんて馬鹿な真似はやめて、私が行くまで無事でいてね」

 手袋越しの操縦レバーを、きつく握りしめる。
 もう嫌、誰も目の前で死んでほしくない。
 命を捧げることでそれが回避できるのなら、喜んで差し出す。だからおねがい。無茶はしないで。
 ハッチを飛び出したと同時にPS装甲を展開、私は彼女等が向かった方向へとストライクを急がせた。


 追いついたとき、1台のバギーが蹴り飛ばされ、乗っていた人影が投げ出されるのを見た。
 『間に合わなかった』という後悔と『まさか』という嫌な考えが、私の背筋を凍らせる。
 その半瞬後、微かに聞こえた少女の声に一旦安堵の息をついて、再びレバーを握りしめる。

「今度は守る、これ以上はやらせないっ!」

 その上を飛び越えて、私はビームライフルをバクゥにむけ、そのトリガーを引いた。
 しかし、1発目も2発目も大きく逸れた。

「熱対流のせいだ」

 すぐに理由がわかって、私は即座にキーボードを引き出し、叩き始める。
 朝の光が差し始めたこの時間、夜に冷やされた大気は、太陽によって暖められ始めた空気とぶつかり動き始める。
 そして、エールストライカーの主装備はビームライフル。宇宙戦仕様のままでは直接影響を受けることは必死。
 うまく設定できるかどうかわからないなんて、今は言ってられない。
 その場しのぎのお粗末なものでも組み立てなければ、次に死んでいくのはカガリたちかも知れないし、AAの皆かも知れない。
 何もできなかったせいで守れなかった命が落ちていくのはもうたくさん。私ができることをやらなければ、ますますできなくなる。

 そう考えた瞬間、頭の中で何かがはじけたような音がした。

 同時に、さっきまで考えつかなかった複雑な数式が自然に浮かんできて、私は片っ端から打ち込んでいく。
 3度目の跳躍時には修正プログラムは完璧にできていた。
 今度は当たることを確信して、ターゲットスコープ越しにトリガーを引いた。
 バクゥのミサイルポッドに命中する。切り離されてダメージは当たられなかったものの、ポッドは爆散した。

「これで大丈夫、行ける!」

 モニターの隅に写るカガリの姿。彼女たちから引き離なすべく、私はストライクを操る。
 この場には3機のバクゥがいるが、動いているのは2機のみ。だから、動かない機体には注意はしていなかった。






、横!」

 外部モニターから戦闘を見ていた僕は、さっきまで動かなかった機体がわずかに動いたのに気がついた。
 とっさにCICのマイクを奪い取って叫ぶ。
 この行動に驚いたミリアリアが僕を見上げているが、その半瞬後、横からの攻撃を受けたストライクが見えた。

「まだ動けたのっ?」

「戦力外だと思って油断した。しかもあの機体が入ってから、奴等の動きが変わったぞ」

 ばらばらに動いていたバクゥが、一気に統制が取れたかの様。続けざまにストライクを襲うミサイル。
 そのうちの1発が頭部に命中したらしい。
 バランスを崩したストライクの胸部に一撃。
 寸でのところでバーニアをふかして倒れ込むのは避けたが、続けざまの攻撃に、思うように反撃できないらしい。
 僕はその様子をしばし見ていたが、とうとう堪え切れなくなった。

「ヤマト少尉、どこへ行くつもりなの!」

「階級剥奪でも銃殺でもあとで何でもして下さい。僕は出ます!」

 勢いよく立ち上がった僕は、自動ドアに駆け寄る。

「勝手に持ち場を離れるな!」

 ドアを潜る前に、襟首を捕まれ。勢いのついていた僕は一瞬息が詰まった。

「ヤマト少尉、勝手な行動は慎め!
 一時の感情で戦闘中は持ち場を離れるべきじゃないことぐらい、わかっているだろう」

中佐の言われるとおりよ。おとなしく戻りなさい。
 これは艦長命令です。あなたも軍人である以上、上官の命令には逆らえません」

「それでも僕は!」

「キラ、あなたの気持ちはわかる。私だって同じ気持ちだもの。
 でも、私たちは志願して地球軍に入ったの。以前みたいな民間人じゃなくなったの。……お願い、この場は堪えて」

 ミリアリアにそう言われて、僕は唇をきつく噛んだ。



黒マント製作機から
  また切りました。タッシル編は次で終わらせます。


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