「だけど、2人とも出かけさせるなんて、思い切ったな」

 カップを揺らせながら言ったのはレガール。

「まだ知り合って間もないですけど、あの子達、よく似てるんですもの」

「その言葉を聞いたら、なんか必死になって否定するぞ」

 フラガの言葉に『かも知れませんね』と、マリューは笑いながらマグカップに口を付けた。

「普通の民間人だったあの子達を戦争に引きこんだのは私たちですもの。
 せめて、できるときに気分転換ぐらいさせてあげようと思って」

「それでここにいた二等兵達も休息に入らせたわけか?」

 頷いたマリューは『ナタルがいたら、絶対に許してもらえないでしょうけどね』と付け足し、男2人からは苦笑が漏れる。

「でも、ノイマン少尉やパル伍長までブリッジから出したのは、ほかにも理由があってだよね、艦長サン?」

 おどけた口調で問いかけてくるフラガ。

「あの……第8艦隊から預けられたMSのことだな?」

「そうです。おそらく、現時点で詳しいことを聞いているのは私だけだと思うので、お2人にも説明しておこうと思いました」

「副艦長がいないのに?」

「彼女には後日伝えておきます」

 そう言ったあと、マリューは軍服の内ポケットに入れていたケースから1枚のディスクを取り出し、セットした。

「これはあの積み荷を預かったとき、ハルバートン提督から直接手渡されたものです。
 一度自室で開いてみたのですが、プロテクトがかけられていて……」

「おいおい、それじゃあ誰にも読めないってことか?」

「いいえ、ディスクケースに入っていた紙にはこう書かれてありました。
 『このディスクを開くには私に縁あるファミリーネームが必要だ』と。
 考えてみたんですけど、さっぱりわからなくて……。
 レガール中佐、フラガ少佐、何か心当たりはありませんか?」

 見上げてくる視線に、フラガは『すまん』と短く答えを返す。

「要は、ハルバートン提督の交友関係を調べれば出てくるってこったろ?」

「それはそうなんですが……」

「それじゃあ、こいつのファミリーネームを試したか?」

「人を指さすな」

 彼の手をペチンとはたきながら、レガールは眉間にしわを寄せた。

中佐の……ですか?」

「俺が軍に士官する前から、ハルバートン提督は時々両親の元を訪れていたんだ。
 心当たりがあるといえばそれぐらいだし、駄目でもともとだろう。1回やってみたらどうだ?」

 マリューは頷いて、キーボードに指を走らせる。



   ピーッ



 パスワード認証を告げる短い電子音の後、地球連合軍のマークが現れ、その下に文字が流れる。

 General
 Unilateral
 Neuro-Link
 Dispersive
 Autonomic
 Maneuver

「こいつは……」

「見たことあるな……」

「間違いなく……」

 これを手渡されたということは、積み荷がXシリーズであるということを表している。
 本体を起動させる事なく見られるよう、全データをここにコピーしておいてくれたのかもしれない。

「認識番号X−106、個体名はダブル、アイ、ゼット……『ウィザード』?」

「うわ、見たまんまじゃねーの」

 現れた全体図。
 フラガの率直な感想に、マリューもレガールも苦笑を禁じえない。

「主装備がロッド1本だけというのは、やはり接近戦用なんでしょうね」

「いや、そうとも言い切れないみたいだぞ。ロッドの先からビームが……っていうのはライフルと同じだろうさ」

 手を伸ばし、画面をスクロールさせていくレガール。

「……しかし、本当に未完成なOSだな。
 これだと無事にアラスカに持っていけたとしても、実用までに戦争が終わるな」

「そうかもしれませんけど、これが地球軍の、今のナチュラルの限界なんです」

「これを見たら、さすがの副艦長だって、坊主の判断は間違ってなかったって思わざるを得ないぜ。
 で、これを俺たちに見せてどうするつもりだ?」

「え、ですから説明しておこうと……」

「ちょっとキツイことを言うが」

 フラガはコホン、と咳払いをして言葉を続ける。

「データディスクも開いていなかったのに、説明するも何もないでしょ?
 当面の問題として相談したかったんじゃないの?」

 『ん?』といたずらっぽく笑う彼に『参りました』と苦笑するマリュー。

「私もどうすればいいのか、よくわからないんです。
 ハルバートン提督から渡され受け取ったはいいんですが、彼らが近寄らないようにするしかできません。
 かといって、このまま本部へ運んでも、中佐の言われる通り、実用できるのかどうかも怪しいですし……」

「しかし、この機体……つかOSに触らせたくはないんだろう?」

「それがハルバートン提督の遺言であり、遺志ですからね」

「レガールはどうなんだ?」

「俺だってこれ以上あいつらを巻き込みたくない。
 ただでさえも、地球軍の中のコーディネイターとして肩身の狭い思いをしているからな。
 AAの中では平気でも、これから行く先……アラスカではそうは行かないだろう。
 実際、アルテミスのガルシアたぬきに『裏切り者のコーディネイター』なんて言われてたんだぞ。
 アラスカのお偉いさん達とて、これ以上見せつけられたくはないんじゃないか。
 ……自分たちが相手にしている物の実力って奴をさ」

 冷えかけた残りのコーヒーを一息に飲み下し、レガールはマグカップを机に戻した。

「……とりあえず、あの貨物は現状維持。それしかないようですわね」



黒マント製作機から
  ようやく出てきたMSの名前。ですが、デフォルト名のままで変換なし。
  TOPで決めてもらった名前はもう少し後で使用します。


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