「どうぞ」

「金髪の彼女、連れてきたわよ」

 こ、この格好で虎の前に出るのかっ?!

 私はどうしても尻込みしてしまう。
 確かにソースまみれの服はクリーニング中だから、その間に着る服がいるわけで……。
 でも、何もこんな着替えださなくったって。
 アイシャって奴は笑いながら、楽しそうにしてるし。

「ほら、何を恥ずかしがってるの?」

 軽く手を引かれて、影に隠れていた私は、前に押し出された。
 部屋の中の先客は、男2人。
 虎はニヤニヤしながら、じっと見ている。キラの方は、目を見開いている。……失礼な奴。
 こっちはうっとうしいドレスなんか着せられてるっていうのに!

「おんな……のこ……」

 キラの言葉に青筋がたったのが、自分でもはっきりわかった。

「てっめぇ!」

「いや、だったんよねって言おうとして……」

「どこが違うんだどこが!」

「……ごめん」

 首をすくめたキラに、俺たちのやり取りを眺めていた虎達が笑い出す。
 そして、とんでもないことをさらりと。

「そういう姿も実に板についている感じだ」

「勝手に言ってろ」

「しゃべらなきゃカンペキ」

「大きなお世話だっ!」

 一瞬、本気で焦った。に口止めした意味がなくなるところだった。
 幸い、キラの奴は虎と私のやり取りの意味に気がつかなかったらしいけどさ。



「とにかくこちらに座りたまえよ。もう1人のお嬢さんが目を覚ますには、まだ時間がある。
 その間にコーヒーでもどうかね?」

 私は促されるままにソファに腰を下ろした。キラも隣に座ってくる。
 すると、虎自らコーヒーを入れ始めたのには驚いた。
 てっきり部下にでも運ばせてくるものと思い込んでいたから……。

「これは僕のオリジナルブレンドでねぇ。気に入ってもらえるといいんだが」

 驚いている私に気がついたのか、虎の奴はクスリと笑いながら言う。
 目の前に置かれたカップに手を伸ばし、ごくりと一口。
 ……悔しいけど、美味い。でも、それは口にはしなかった。
 キラの奴はわずかに顔をしかめている。どうやら苦いのは苦手らしい。
 ここにがいたら、本当に美味しそうに飲んでただろうなと思った。


「おい、これも毎度のお遊びか?」

「お遊び?」

「人にこんな服を着せたり、変装して街に出てみたり、住民のいない街を焼き払ってみたり……」

 私の言葉にぎょっとなったキラに気がついたが、あえて無視した。

「パナディーヤへ出るという行為を何度もしているのは認めるけど、君のドレスを選んだのはアイシャだよ。
 街の焼き討ち……この事実を知っているということは、君はタッシルの関係者かな?」

 そう問い返されて、私はびくりと震えた。
 だめだ、私たちの正体に気が付かれたら、きっとこのホテルからは生きて出られない。
 背中を冷たい汗が流れる。

「君はまっすぐな目だ。でも『死んだほうがマシ』な考え方の持ち主なのかな?」

 その言葉にカッとなって、私は奴をにらみつけた。
 こんな奴のせいでアフメドやみんなが死んでいった、こんなおちゃらけた奴のせいで。
 悔しくて悔しくて、拳ははずっと震えている。

「そっちの彼はどう思うかね、MSのパイロットとしては」

「お前、何でそれを!」

 考えるより先に叫んでいた。
 虎は一瞬虚をつかれたような顔になり、そして噴き出した。

「おいおい、まっすぐすぎるのも考えものだぞ」

 はめられたことに気が付いて、私は唇を噛んだ。



「戦争にはスポーツやゲームのような時間制限もルールもない。
 だったら、その勝ち負けをどこで決めたらいい? 敵をすべて滅ぼしてしまえば、それですべてが終わるのかね?」

 ゆっくりと机に向かって歩くバルトフェルドさんを目で追いかけつつ、立ち上がった僕はカガリをかばう。

「今回、僕がタッシルを焼き払った理由に、まったく検討がない訳ではあるまい?」

 小さくうなずいた僕の耳に、カガリが息を飲む音が聞こえた。

「僕はね、人殺しはあまりしたくないんだ。向かってくる相手ならともかく、ね」

「嘘をつけ! パナディーヤに打ち込んだ砲撃はどう説明する!」

「あれはあくまで威嚇だからね。安心したまえ、人は死んでないよ」

 相変わらず笑顔で答える彼に、カガリは返す言葉が見つからなかったようだ。

「昨日のことだって、僕が本気になれば今頃、あの街は地図から消えているさ。
 君がタッシルの関係者、レジスタンス『明けの砂漠』の一員であるなら、十分わかっていることだろう?
 さて、そっちの彼。寝ている彼女を助け出して、逃げ出そうとしても無理だよ。
 ここにいるのは、君らと同じコーディネイターなのだから」

 その言葉に驚いた僕。吸い込んだ息が、喉でヒュッと鳴る。
 カガリは知らなかったのか、目を見開いてこちらを見ている。

「……どう……して……」

「簡単さ。最初の戦いのときの動きを見ていればわかる。
 あんな短時間で接地圧を計算してパラメータを書き換えられるパイロットは、ナチュラルにはいないだろう。
 あっちのお嬢さんはもっと簡単だ。治療の際に十分調べられたよ」

 そう言いながら少しかがんだバルトフェルドさん。立ち上がったときには、銃口を僕たちに向けていた。

「タッシルで追いかけてきたレジスタンスに加勢したときのパイロット、あの時はあの女の子だね」

「……え?」

「攻撃のタイミングやよけ方が最初と異なっていたから、誰か違う子だと思っていたんだ。
 そして、あの船にもう1人のコーディネイターがいるとわかったら、答えはすぐに出たよ。
 さきほどと呼んでいたが……。とすると、彼女は=ザラか」

 思わぬところで出てきた名前に、僕は斐翠の瞳の親友を思い出し、拳を握りしめた。

「違う! あいつのファミリーネームは『』だ。
 『ザラ』だと、プラントの国防委員長の名前じゃないか!」

 カガリの勢いに再び言葉を失って、また笑い出した。

「本当に君はまっすぐだ。どうやら様々な情報にも精通しているようだし。
 いや、実に気持ちいいよ。下手な小細工をされるより、僕は好きだねぇ」

「お前なんかに好かれたくないッ!」

「そうか、やっぱり彼女が博士の娘さんか……」

 今にも噛みつきかねないカガリを押さえる僕の耳に、バルトフェルドさんの呟きが届いた。



黒マント製作機から
  な、長くなってすみません……。
  虎の隊長はヒロインについて何か知っていらっしゃるご様子です。
  それが完全に語られるのがいつになるかは未定ですが。


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