抱えているときも似ているとは思ったが、まさか本当にあいつらの忘れ形見だったとはね。
 どうやら、僕にはコーヒーの女神様の加護がついているらしい。
 あの子がどうしてAAにいるのかわからないが、一刻も早くプラントに連れていって会わせてやりたいと思う。
 しかし、あのボディーガードくんと金髪のお嬢ちゃんをどうするかな?

 ピタリと合わせた銃口から、茶髪の彼が金髪の彼女を背にかばっている。
 彼がAAの一員で、彼女がレジスタンスという事実は、どうやら間違いないらしい。
 しかし、身を投げ出してまでかばったのだから、あの子にとって彼らが大事な存在なのだということは薄々わかる。

「本当にどうするかね……」

 口に乗せてしまった僕の呟きに、ビクリと体を震わせる目の前の少年少女。
 こういう風に銃で脅して……なんてのは僕の柄じゃない。あの仮面野郎になら似合いそうな行為だけどな。
 そう考えたら、僕は銃を降ろしていた。そして、時計を見遣る。



「そろそろ、あちらの彼女も目を覚ます時間だ、帰る用意をしたまえ」

「「なっ!!」」

「言っただろう? 僕は人殺しはあまりしたくないんだって」

 引き出した銃の弾倉が空なのを見せると、2人は同時に気が抜けたのか、肩を落とした。

「アンディ、あっちの彼女が目を覚ましたわよ」

 ノックされたドア、するりと入ってきたアイシャが微笑んだ。
 彼女はいつも、こちらが一段落するのを見計らっていたように声をかけてくる。

「わかった、じゃあ迎えに行くよ。君はこっちのお嬢さんを頼む」

 僕は少年の手を掴んで、あの子が寝ている部屋へと向かった。





「あっ、あのっ……」

 引っ張られて付いていくしかできなかった僕には、目の前の人の考えてることがさっぱりわからない。
 最初はケバブのソースのことで近付いてきた。
 そしたら、ブルーコスモスに襲われて、近くにいた僕らも巻き込まれて。
 おわびがしたいからと連れてこられたホテルで、コーヒーをご馳走してくれて。
 話してたら、銃を向けてきた。でもそれに弾は込められていなくて。

「どこへ連れていく気なんですか?」

「目覚めたお姫様のところ。知った顔がなくて、さぞかし寂しい思いをさせてるはずだよ。
 あっちの子の着替えが済んだら、一緒に帰りなさい」

「えっ……?」

 先ほどは『どうしようか』と呟いていたくらいだ。
 てっきり正体のばれた僕たちは撃たれるものと思っていた。
 だからこそ、バルトフェルドさんの言っている意味が飲みこめなかった。

「大丈夫。ここにいる他のみんなは、君たちのことを知らない。
 さっきのダコスタくんだって、僕が連れてきた街の子供だと思ってるはずだよ。
 今回は君たちは恩人だしね。だから今日は戻りなさい。あっちには待ってる人たちもいるんだろう?」

 立派なドアの前に立ち止まり、バルトフェルドさんは数回ノックした。
 すると、ためらいがちに却ってきた声に誘われ、僕たちは部屋に入った。





 ノックに気がついて、私はベッドの上で体を起こした。
 シルクだろうか。柔らかな布地のパジャマが、傷を圧迫しないようにゆったりと着せられている。

「やぁ、気分はどうだい、お姫様?」

「姫じゃありませんけど。……治療してくださってありがとうございます。
 さっきまで居られたお医者様からは、感染症の心配もないみたいだから大丈夫だろうと言われました」

「それはよかった。銃弾は貫通していたとは言っても、君の場合は出血がひどかったからねぇ。
 心配していたんだ。もちろん、君のお友達もね」

 そこで初めて、私は男の人の影になっている人影に気がついた。
 一歩進み出てくると、顔がはっきりわかる。

「……キラ先輩」

「よかった、気がついて。僕もカガリも、本当に心配したんだからね」

「はい……」

 相手がキラ先輩だというのに、私は思わず泣きそうになる。
 目覚めたときに側にいたのは、きれいだけど知らない女の人だった。
 その人が出ていって、入れ代わるようにお医者様が入ってきて、傷口のガーゼを替えてくれた。
 ここがどこだか聞いても、笑いながら何も答えてはくれなくて。
 もしかしたら1人になったのかもしれない、誰も守り切れなかったのかもしれないと思えて。
 再び1人になった部屋は、すごく広い物に感じて。
 怖くて震え出しそうなときに、新たな訪問者がやってきた。キラ先輩を伴って。

「本当によかったよ」

 そんな言葉が聞こえたと思ったら、抱きしめられていた。
 傷に配慮してか、あまり力は込められていない。
 ちらりと見えたアロハシャツの人はちょっと目のやり場に困ってるみたいで、視線を泳がせていた。
 私は驚いたけれど、でも、その腕から逃げ出そうとは思わなかった。

「あのまま目を覚まさないんじゃないかと思って、本当に僕の前からいなくなるんじゃないかと思って。
 本当に、すっごくすっごく心配したんだからね……ッ……」

 自分がよかれと思って取った行動が、これだけ人に心配をかけてしまうなんて。
 改めて認識した事実に、何も言えなかった。
 抱きしめてくれている肩が小さく震えていることに気がついて、私は、先輩のシャツの裾を軽く握った。



黒マント製作機から
  ようやくヒロイン再登場。
  抱きしめられても逃げ出さない、シャツの裾を掴む。
  たったそれだけですが、ちょっとだけキラに心が傾いたヒロインです。


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