「あのね、ミリィ……」

「どうしたの? 腕の傷が痛む?」

 左手の使えないの着替えを手伝ってくれたミリアリアは、彼女の太股にある傷について何も聞かなかった。
 ただ『コレ見せたくないから、制服替えてもらったんだね』としか言わなかった。

「ううん、そういうわけじゃなくて……ミリィの目から見て、最近私はどう映ってる?」

「どうって……これといって別に変わらないわよ?
 あ、口数は以前より増えたと思うけど。前は暇な時はずっと一人で本を読んでたでしょ?
 それが今は時々人の集まるブリッジにも来られるようになったし、すごい進歩だと思うわ」

「そう、私もそれくらいだと思うんだけど……」

「他に何かあるの?」

 ベッドに腰かけたままでうつむいてパジャマを握りしめるの横に、ミリアリアも並んで腰を下ろす。
 そして傷に触れないように肩を抱き寄せ、自分の方に頭をもたせ掛けた。

「私でいいんなら、いつでも相談相手になってあげるわよ。何てったって、は私のかわいい妹分なんだし」

「ありがと……。私も、ミリィのこと、本当のお姉さんみたいに思ってる」

「ふふ、うれしいけど何だか照れ臭いな。
 それで早速、おねえちゃん気分にさせてもらうね。……、何か戸惑ってるの?」

「え……どうしてそう思ったわけ?」

 驚きで顔をあげたを、隣で見つめるミリアリアの優しい瞳。

「いきなり自分が変わったかどうか聞いてきたから。
 で、こっちが変わったように思う点を言ったのに、完全に納得していないように見えるしね。
 外見でわからないとしたら、の心境が変わって戸惑っているんじゃないかって思っただけ」

「……あのね……」

 はここ最近、自分が感じている感情。特にキラの前でのことを詳しく話した。
 そして、昼間、自室の前でされたことも。




「ねぇ、って誰かを好きになったことある?」

「私はミリィのことが大好きだし、お父さんお母さんレガール兄、みんな大好きだよ」

 そう答えた彼女を見て、ミリアリアは小さく笑い。

「質問を変えるわね。 誰か1人の異性を好きになったことは?」

「たとえば、ミリィがトール先輩を好きなように?」

「そう」

 ミリアリアの言葉に、首を横に振った

はおとなしくて控えめだって思ってたけど、初恋もまだだったとはね〜。
 今時貴重モノじゃないの?」

「……ひょっとして、呆れさせてるの?」

「そんなことないわ。ただ、一瞬信じられなかっただけ」

「どうして?」

「ほらさっき言ってたでしょ。一時期プラントに住んでたって」

 が頷くと、ミリアリアは言葉を続ける。

「噂で聞いただけなんだけど。
 が知り合ったクルーゼ隊の人たちって格好いい人たちばかりだって言うじゃない。
 だからてっきり、その中の誰かを好きになって、お手付きされたのかと思ってた」

「お、お手付き?」

「うん、お手付き。
 だから、今回の感情なんかとっくに経験済みだと思ってたわけ」

「そ、そうなんだ……。
 でも、ミリィは何で私に好きな人がいたかどうかなんて聞いたの?」

 とりあえず『お手付き』の意味はわからないものの、は先を促した。

「もー、さっきの会話から予想しなさい。
 は初めての感覚に戸惑ってる、それが何かわからない。
 それを聞いた私が誰か好きになったことあるかどうかを聞いた。でも初恋もまだと答えた。
 さてここで問題です。の初めての感情を表すのに、私が初恋の話を引っ張り出したわけは?」

「えーっと……ミリアリアさん、その答えは冗談ですよね?」

 問いかけに少し考えて、答えに行き着いたは頬を赤く染めつつ、認めたくないとばかりに首を振った。

「何回考えても、私がに説明してあげようとすれば、その答えしか出ないの。
 多分誰に相談しても、同じ答えしか返ってこないと思うわ」

「……そんなの困る〜」

「だから、以前言ったじゃない。『認めたくないかもしれないから難しいかも』って」

「あ、あんな前から気がついてたわけ?」

「だって、が誰か1人をじっと見てたって聞いたとき、これはもしかしてって思ったのよね。
 予想がはずれてなくて良かったわ」

 にっこり笑ったミリアリアは、すっと立ち上がる。

「それじゃ、私も自分の部屋に帰るわね。ちゃんとロックかけて寝るのよ」

「……うん」



 『おやすみ』と出ていった彼女を見送って、ロックをかけて、私は部屋の明かりを消してベッドに横になった。
 でも、虎のところで寝ていたせいか、ちっとも眠くならない。
 そのせいで、先ほどのミリィとの会話、彼女の与えてくれた答えが嫌でも頭の中を占めていく。

「……私が、キラ先輩を……嘘だよ、そんなの……」

 でも、視線が合うたびに鼓動が早くなるのも事実なら、握られた手に安心感を覚えたのも事実。
 唇で触れられた頬、異性に初めて重ねられた唇が、熱いのも事実。

「……認めたくないの……弱くなりたくないんだから……」

 考えを追い出そうとして、瞼を無理やり閉じた。
 その時、瞳から流れたものは、あえて無視した。



黒マント製作機から
  ミリアリアに教えられて、ヒロインはようやく自分の気持ちに気付き始めました。
  でも素直に認めることが出来ないでいるのは誰かに甘え、頼る気持ちを忘れてしまったから。
  今のヒロインは初キスに戸惑いを感じながらも、
  『誰かを好きになる→甘える→弱さになる』それだけは避けなければいけないと思っているんです。
  ミリアリアはヒロインが自分から一線を置いていることも、彼女の気持ちも薄々感づいていましたから『難しいかも』の一言が出たんですね。
  でもその反面、頼ってきてくれたことがうれしくて、たまりません。


To NEXT