宇宙に浮かぶのは、何基にも渡る大きな構造物。 コーディネイター達の本国であるプラントは、その形状から『砂時計』とも呼ばれる。 その中の1つ、アプリリウス・ワンのとある島で、1台のエレカが走っていた。 向かい風になびく髪は艶やかな藍色、助手席ではやはり風に遊ばれる花束。 閑静な住宅街で一際目立つ屋敷へと、そのエレカは向かう。 「認識番号285002、クルーゼ隊所属アスラン=ザラ。ラクス嬢との面会の約束です」 門に取りつけられたカメラに身分証を提示し、彼は取り次いでくれる時間を待った。 「来てくださってうれしいですわ」 アスランが初めてこの屋敷を訪れた2年前と変わらず、ラクスは柔らかな微笑みを浮かべたまま階段を下りてきた。 あのときと違うのは、彼女の回りを跳ね回る色とりどりの丸い物体・ハロの存在だけ。 「すみません、少し遅れました」 「あら、そうでしたか?」 手渡された花束をラクスは心底うれしそうに受取り、顔を寄せて匂いを楽しむ。 そんな彼女の様子が自分の想像していたとおりで、アスランの口許に笑みが浮かんだ。 「ラクス、ちょっと動かないでくださいね」 小さな鼻先についた花粉に気付いて、アスランはそっと指先で払ってやる。 「あ、ありがとうございます……」 伏目がちに礼を言う彼女の白い頬には、薄い紅が広がった。 しばらく庭を散策したあと、片隅の四阿に腰を落ち着けた。 しかし話をしようにも、お供のように付き従ってきたハロの群れが煩くて仕方がない。 「ネイビーちゃん、おいで」 ラクスは隣の彼の色を名指しして、膝の上に飛んできたそれにヒゲを書き加える。 「さぁ、おヒゲの子がオニですよぉ」 逃げ出したネイビーハロを追いかけて去って行くハロ軍団。ようやく、2人の回りは静かになった。 「追悼式典には戻れず、申し訳ありませんでした」 「いいえ、あなたのお母さまのために、私が代わりに祈らせていただきましたわ」 「……ありがとうございます」 アスランが軽く頭を下げると、ラクスはふんわりと笑った。 雑用ロボット・オカピが運んできた紅茶を注ぎ、そのカップを彼の前に置く。 「あっ……」 思わず声が漏れて、アスランは慌てて口を押さえた。 「どうしましたの?」 その様子に首をかしげながら問いかけるラクス。 「いえ、何でも……。気にしないでください」 「それならいいのですけれど……」 カップを置く時に、わずかに前屈姿勢となった彼女。さらりと流れたピンクの髪の隙間から覗いた白いうなじに、目を吸い寄せられてしまったなどと、口にできない。 自分のカップを手に座り直すラクスを横目に、アスランは顔のほてりを取るために、何度か深呼吸をくり返した。 「キラ様やは、今頃どうなさっているでしょうね。あの後、お会いになりまして?」 「……あいつらは、地球に下りたはずです。大気圏ギリギリのところで、足付きと交戦しましたから……」 アスランの脳裏に、単体で落下していくストライクの姿が思い出された。 あのときのパイロットがどちらかはわからない。 しかし、同じXナンバーのデュエルとバスターが無事だったのだから、ストライクも無事に地表に着いたはずである。 「キラ様とは、お友達でいらしたのでしょう?」 「ええ、小さい頃からずっと一緒で、兄弟のように育ちましたから……」 「ハロのことをお話しましたの。そうしたら『相変わらずなんだな』って笑っておられました。 自分のトリィもあなたにもらったものだと。拝見させていただくことができなかったのが残念ですわ」 「あいつ、まだ持ってたんですか……」 「『大切なものだから』と、おっしゃられておりました」 そう話してくれた時のキラを思い出したのだろう。ラクスは小さく笑った。 「それにしても、私も驚きましたわ。 ユニウス・セブン以来、音信普通だったとあんなところで再会できるなんて」 「自分も驚きました。……もしかしたら母と一緒にと思っていましたから」 「でも、これからお辛くなりますわね……」 静かなため息の後のラクスの言葉。 「あなたも私もクルーゼ隊の皆も、彼女のことを知っています。 ましてや、あなたはもう1人のパイロットも知っていらっしゃるのです。 そしてあちらの2人も相手が誰であるかを、既に知っておられる。 友人同士で銃を向けあわなければならない世界を、私達は本当に守らなければならないのでしょうか……?」 悲しそうに言ったあと、目を伏せたラクス。テーブルに置かれている彼女の手に、アスランは己の左手を重ねた。 驚いて顔を上げた彼女のマリンブルーを、彼の斐翠がまっすぐに見つめる。 「俺だって、あいつらと戦うのは嫌です。だから、あのときに戻ってきてくれたらとどんなに願ったか。 キラももいるべき場所が違うんです。 守りたいものがある。ただそれだけで足付きに残ったあいつらです。が。 地球軍の中にはコーディネイターがいることを快く思わない奴等もいるでしょう。 そんな彼らに虐げられボロボロになるまえに、いっそのこと……」 「無理やりにでも連れてきたい。あなたはそうおっしゃるのですか?」 「できるならば……」 「では、残された人たちはどうなるのです? あの船にはキラ様のお友達、のお兄様たちが乗っていらっしゃるのですよ。 仮にお2人がこちらであなた方と共闘の道を選ばれたとき、再び友に銃を向けることになっても構いませんか? それを彼らが悲しまない、そう言い切れますか?」 「そ、それは……」 びくんと強張ったアスラン。重ねられただけの彼の手から自分の手を抜き去って、ラクスはその指を彼の指に絡めた。 「私の友達も何人も志願していきました。今は戦争が大きくなるだけのような気がします。 友が友と、兄弟が兄弟で、恋人が恋人を殺し合う、そんな世界は早く終わらせなければなりませんね……」 「俺もあなたと同じ思いです……」 どちらからともなく指先に力がかかり、しっかりと組まれた手。アスランとラクスはじっとお互いの目から視線を外さない。 カカカカッ 突然の音に驚いて2人同時にそちらを見ると、最初に砕いていたクッキーに小鳥がやってきて啄んでいた。 顔を見合わせて噴き出したが、次の瞬間、2人とも真っ赤になって慌てて手を放した。 「す、すみません!」 「いえ……。私のほうこそ」 公の場で腕を組むことはあっても、2人きりのときに手を握りあったことなど初めてだから、なかなか頬は元に戻らない。 「あ、そろそろ失礼させていただきます」 ちらりと時計を見た彼は、立ち上がった。ラクスも立ち上がり、2人は無言のまま肩を並べて歩く。 「夕食を一緒にしてくださらないのですね」 玄関先でしおれてしまったラクスに、アスランは慌てる。 「すみません、久しぶりの本国なのでいろいろとしなければならないこともありまして……。 でも、今度時間が取れればまた伺います」 「本当ですか!」 笑顔の戻った彼女に安堵しながら、彼はそっと顔を近付けた。 「お、おやすみなさい」 「おやすみなさい……よい休暇をお過ごしになって」 頬にキスしたことも初めてで。 アスランがどもりながら挨拶をすると、ラクスも白い頬を赤く染め上げながら挨拶を返した。 ![]() 黒マント製作機から ふふふふ、アスラク〜〜。力入ってます。ってなわけで、いろいろと捏造。 でも、アスランおとなしいねぇ。手を繋ぐだけで赤くなってるしさ。どっかの紫色魔に見せてやりたい。 To NEXT |