「隊長!」 「ん?」 ソファに身体を沈めてコーヒーを楽しんでいたバルトフェルドの前に、彼の優秀なる副官は仁王立ちしていた。 「いつまでこうしておられるつもりですか。早くしないとあの船は飛び立ちますよ」 「それはないよ。 この砂漠を抜けて行こうとするなら、こっちを無視できないことぐらいはわかっているでしょ」 ダコスタの勢いをさらりと流し、彼は再びマグカップを口に運んだ。 「だったら何故こちらから撃って出ないんです?」 「前の戦いで落とされたバグゥの代わり、まだ届いていないんだから仕方ないじゃない。 十分な準備もなしで戦いを挑むのは、只の愚か者がすることだよ、ダコスタくん?」 「そ……そうですけど……。でも! こちらの準備が整わないなら、その間にあっちの戦力も奪うべきだったんですよ。 それなのに手当てするだけじゃなく、隊長自ら敵陣に送り届けるなんて……」 「何度も説明したじゃないの、最初は僕も何も知らずに彼らに近付いただけ。 それにあの彼女は、僕を狙った銃弾から友人を守って、そのせいで腕を打ち抜かれたんだから。 僕があの子達に近付かなかったら『ブルーコスモス』のテロに巻き込まれなかったし、 あの少女が腕を撃ち抜かれることもなかったはずだよ。 助けてもらった命の恩人をそれも無抵抗な状態のままで殺すなんて、そんなひどいこと、君は僕にさせたかったのかい?」 『それに』と立ち上がったバルトフェルドは、カップを副官の彼の鼻先に突きつけ。 「君だってあの子達の正体を知らなかったとはいえ、危害を加えなかったんだし。 あの時に何もしなかったという点では、僕と同罪だよ」 『ぐ』と呻いて、ダコスタは言葉に詰まった。 その様子に笑いながら、バルトフェルドは2杯目のコーヒーを注ぐ。 「今回のブレンドはとてもいいねぇ。苦味があるけれど後を引かない、すっきりとした味だよ。 一緒にどうかね?」 「……ご遠慮させていただきます」 「そうかい? 君の口にも合うと思ったんだが……」 バルトフェルドは心底残念そうに言う。 『隊長、補給物資が到着いたしました』 「わかった」 ドア越しの報告に短く返事を返して、中身を一気に飲み干すとカップを置いた。 「ほらダコスタくん。お仕事に入ろうか」 「了解しました……」 相変わらずのバルトフェルドに、ダコスタは小さなため息をつき、その後を追いかけた。 「なんでザウートなんかよこすかね、ジブラルタルの連中は!」 自室での機嫌の良さはどこへ行ったのかと思いたくなるほど、書類を見ながら、バルトフェルドは吐き捨てた。 「バクゥはこれ以上回せない、だからその代わりなんですか、あの2人は?」 「そうなんじゃないの? でも彼ら、地上戦の経験ないんでしょ?」 「……エリート部隊ですからね」 これから交わされるであろう会話を思うと、ダコスタの心労はつきない。 むしろ、ひどくなる一方だと、彼には容易に想像できた。そして、ありがたくないことにその考えは的中する。 「ようこそレセップスへ。指揮官のアンドリュー=バルトフェルドだ」 初めての砂漠の風に辟易していた彼らだったが、近付いてくるバルトフェルドたちの姿を見てぱっと敬礼した。 「クルーゼ隊、イザーク=ジュールです」 「同じくディアッカ=エルスマンです」 バルトフェルドは2人の少年の顔を交互に見て、銀髪の少年・イザークの顔に走った傷に目を止める。 「戦士が治せる傷を治さないのは、その傷に誓ったものがあるから。 ましてや……言い当てられて顔を背けるのは『屈辱の証』だから―――ちがうかね?」 その言葉に一瞬戸惑った顔を見せた彼は、次の瞬間、己の拳を握りながらバルトフェルドに食ってかかった。 「そんなことより『足付き』の動きは!」 『ほらやっぱり』と、ダコスタは肩を落とした。 イザークの取った態度はいただけない。煽ったのがバルトフェルドだといえど、上官の言葉を遮るようにして噛みつくとは。 しかし噛みつかれた本人がそのことを不快に感じている様子はない。 「あの船ならここから西へ180キロ離れたレジスタンスの基地にいるよ。映像、見るかね?」 のんびりと答えた上官に呆気に取られているのか、イザークとディアッカはポカンとしている。 それを知ってか知らずか、バルトフェルドは甲板上のデュエルとバスターを見上げた。 「なるほど、同系統の機体だな」 先日戦ったストライクのことでも思い出しているのか、魅入られたようにバルトフェルドはつぶやく。 しかし上官が何を考えているのか理解できたものは、悲しいかな、その場には誰もいなかった。 黒マント製作機から バルトフェルド隊長と苦労人ダコスタくんのやり取り、好きなんです。 To NEXT |