岩壁を微かに揺らす振動は、AAの動き出したエンジンがなせる技。
 の手によってのOSが組み立てられた次の日、振って沸いた戦力を当てにするかのように、総攻撃を仕掛けることが決まった。

 「遅かれ早かれこういうことになるとは思っていたんだがな……」

 AAクルーやレジスタンス、タッシルからの避難民も総動員して、戦いの準備に追われている。
 そのさまをまるで他人事のように眺めながら、レガールは1人ゴチた。

 「お前さんの言いたいこともわからんでもないさ。……ほら、AAまで運ぶのを手伝え」

 食料の詰まったダンボールを彼に押し付け、自分も他の箱を手にするフラガ。

 「レジスタンスも、さすがにストライクだけで立ち向かうのは危険だと思っていたんだろ。
  それがもう1機のMSの存在を知ったんだぜ。チャンスだと思っても仕方ないさ。」

 「それはそうかも知れないが……だからって昨日の今日だぞ。まだ慣らしも終わってないっていうのに……」

 「お前、ちょっと離れてた間に、ずいぶんとシスコンになってないか?
  ちったぁの奴を信用してやれよ。あいつなら初めての機体でも十分動かせるさ」

 『MAで一緒に戦ってきた俺が言うんだから間違いないって』と、フラガは笑う。

 「しかしだなぁ……」

 「心配するなって。ちなみにあいつな、ストライクの操縦方法は誰にも聞かなかったんだぜ。
  キラの奴もOSの設定変更については教えたけれど、操縦はぜんぜん教えてないって言ってたんだぞ。
  自分が拒んだせいで乗せることになったけれど、操縦でまごついたらすぐ降ろすつもりだったからって言ってたしな」

 「それじゃ、はいつMSの操縦なんて覚えたんだ?」

 「この前、クルーゼ隊の面々と知り合いだったってカミングアウトしてくれただろ?
  そのあと詳しく聞いたの。もしかしたらと思ったんだが、思ったとおりだったぜぇ。
  プラントにいた約1年の間に格闘技全般、銃火器の扱い方、果てはMA・MSの操縦まで教えてもらったんだと」

 「……なるほどね。だから泣かずにまごつかずに動かすことができたわけか」

 「俺達の記憶の中のって、いっつも泣いてたもんな」

 納得したように言うレガールに、苦笑しながら頷くフラガ。
 ちょうど目的地に付いたこともあって、そこで2人の会話は終わった。が。

 「……しかし赤服隊の奴ら、人の妹に物騒な技術仕込みやがって……」

 そう小さく吐き捨てた言葉が聞こえて、フラガは再びの笑いを噛み堪えた。






 「何を考えてるのかな?」

 MSデッキにて、を眺めていた私の背後からの声。
 振り返ると、そこには予想通りの人物がいた。

 「そんなに露骨に怯えた表情で、後退しないでくれないかい。さすがに俺も傷付くから」

 「……すみません、サイ先輩」

 苦笑を浮かべながら言う彼に、私は素直に謝った。

 「何度も顔は合わせていても、こうやって話したことがなかったね。
  だからちゃんと、お礼も言えてなかったわけだし」

 「お礼……ですか?」

 「あのとき、ポッドを動かしてくれてありがとう」

 思いも寄らなかった言葉。
 それがうれしくて、私は両手で口を押さえ、泣き出しそうになるのを堪えた。
 先輩は軽く頭を下げてくれた後、言葉を続けてくれる。

 「君が壊れたポッドの非常用システムを立ち上げてくれたからこそ、大勢の命が助かったんだから」

 「システムを動かしても見つけてくれなければ無駄でしたし……結局は死期を伸ばしただけです。
  あの人たちの乗ったシャトルは地球に降りる前、デュエルに撃ち抜かれたんですから……」

 あのときのことを思い出すたびに、私は苦しくなる。

 「確かにシャトルは爆散して、君もそれを目の前で見た。
  でも、何も出来なかったって、何も守れなかったって悲観しなくてもいいんじゃない?」

 「え?」

 「少なくとも、俺は君に守ってもらった。
  あの混乱で別れたままのフレイとまた会うことができたのも、君の対処が早かったからだと思ってる。
  だから、ありがとう」

 「……はい」

 そう言えば、あのポッドの件では誰からも『ありがとう』の言葉を聞いていない。
 私がコーディネイターだとわかってから、ポッドの中で向けられたのは感謝よりもあざけりや恐怖の視線ばかり。
 それが嫌で、さっさと1人別室に籠もった。
 AAに救助されてからも、人助けに誇りを持つように言われても、感謝の言葉は聞いていない。
 地球に降りて、折り紙の花と一緒に渡された言葉も人づてからで、直接聞いたわけじゃない。
 ……だから、サイ先輩の言葉がとてもうれしかった。油断すればうれし涙がこぼれそうになる。

 「フレイだって、本当は感謝していないわけじゃないさ。ただ、素直に言えないだけなんだよな。
  今回からこの機体で戦うんだろう? 頑張れよ」

 私が頷くと、先輩が右手を出して握手を求めてきた。少しためらったけれど、私も手を出した。
 その時、サイ先輩がにやりと笑ったのに気がついた。
 ……そして声を上げる間もなく、私の腕は捕まれ体を引き寄せられ、額に口付けされていた。




 「サイッ!!!!」

 すごい勢いで第3者が走りよってきて、サイの腕の中にいたを自分の腕の中へと抱き寄せた。
 ちなみに、はまださっきの驚きが大きくて、抗う余裕もない。

 「あれ? キラに見られてたのか」

 気持ちがいいぐらいに、想像通りの行動を取ってくれた彼。サイは苦笑しながら言ってのける。

 「見られてたのかじゃないだろ、僕が来たのに気づいて見せつけるようにやったくせに!」

 「怒るな怒るな。これでお前とフレイがキスした分は、目をつぶってやるさ」

 その言葉にキラは、途端に語勢が弱くなった。

 「あれは僕のせいじゃ……」

 「でも、キスしたのは事実だ。だから、そのことを今回で忘れてやろうって言うんだよ」

 『じゃ、虎との戦い、お前も頑張れよ』と言い残して、サイはその場から去っていった。





 「いー加減に放してくんないかな。俺もの最終調整に入りたいからさ」

 今回のことは、俺も油断してた。額とはいえ、あんなに簡単にキスされるとは思わなかったし。
 ついでに、キラ先輩が近付いてきていたのに気がつかなかったことも悪いわけだし。
 とりあえずは穏やかに声をかけた。

 「僕とフレイがキスしたって聞いて、は驚かないの?」

 「別に。フレイ嬢が医務室まで報告に来てくれたから、とっくの昔に知ってたし。
  先輩が誰とキスしようがベッドインしようが、俺は興味もないし関係ないから。
  それより、用事あるって言ってるだろ。さっさと放せよ」

 「久しぶりに捕まえられたのに?
  ここのところずっと避けられてて、僕はつらかったんだからね」

 そう言ったキラ先輩の息が、俺のこめかみにかかった。
 俺は眉をしかめて、大きく息をついた。

 「あれ、どうしたの?」

 「結局いつものパターンなのかよ」

 俺の右足のかかとが、彼の足の甲に勢いよく落ちる。痛みで腕の力が緩むと、俺は両拳をみぞおちに叩き込んだ。
 さすがのキラ先輩も参ったらしい。殴られた部位を押さえて、呻きながら膝をついた。

 「……調子に乗らないでくださいね。
  前にも言いましたけど、アスランさんたちからザフト・アカデミーの格闘技の訓練は受けてるんです。
  それに、今までは油断してばかりでしたけど。
  先輩がそういう態度を続けるのでしたら、私も本気になります。
  根本的な体力の差は埋められませんけど、私の力でもキラ先輩を相手に渡り合える技は十分持ってます。
  ですからこれ以上、邪まな心で近付かないでくださいね」

 「邪まな心でなんて……近付いたことなんて……ケホッ、コホッ……1度もないから……コホッ」

 咳き込みながら言うキラに、は冷たい一瞥を投げ。

 「隙あらば抱きついてきたりキスしてきたりする人が邪まな心を持っていないなんて、到底信じられません。
  おまけに地球軍の中の同じコーディネイターだからって理由なら、近付かないでください。
  単なる興味と同情でなんて、迷惑なだけですから。
  それじゃ、私はの調整に入りますから邪魔しないでください。
  まだ十分に左手が治ったわけじゃないですから、サポートプログラムも組み立てなければならないので」

 「なら、僕の力があったほうがいいね」

 「来ないでください!……来たら、撃ちますよ」

 の向けた銃口に、キラは立ち上がりかけて中腰のままで動けなくなる。

 「……君に引き金が引けるわけないだろ?」

 「引けますよ。少なくとも、キラ先輩より銃火器の扱いは慣れてると思っています」

 銃を向けて相手の動きを封じたまま、はあとずさる。そして十分な距離が取れたところで身を翻した。
 そして階段を駆け上がると、開いたままの・コックピットに飛び込んだ。

 「バカやろ、あぶねぇじゃねえか!」

 近くで作業していたマードックが声を上げるが、完全に閉じたハッチの中には届かなかったろう。





 「……お願いだから、これ以上私に近付かないで。甘えることを思い出したくないから……」

 シートに背中を預けて僅かの間、は目を閉じた。



黒マント製作機から
  あー、サイの口調が嘘っぽい。キラとフレイが深い仲にならなかったので、彼もキレませんでした。
  というわけでヒロインとの会話シーンを持たせてみたり。ちょっと仕返しで、キラをはめてみたり。
  ヒロインがキラに冷たい態度を取っていますが、こんな態度をとるのはワザとなんです。
  最後の一言がそれを示しているのですが、わかってもらえました?


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