オーブ艦隊の射撃による弾幕が晴れたあと、4機のXナンバーの機体はなかった。





「……レガール……?」

 オーブ艦隊に発砲を禁じていた。それはストライクにも、スカイグラスパーにも伝わっていて。
 しかし、AAのスレッジハマーの砲門は、旗艦であろう中央の船に向いていて。否、さっきまでそこにいたものに照準を合わせていて。
 目の前で起こったことが信じられないと、カガリが小さく口を開いて。


「俺たちは味方を守るために、救助の手を差し伸べてくれた艦隊を守るために敵を撃った。ただそれだけだ」

「それだけって……お前はを、の機体を撃ったんだぞ!」

「半分はザフトのせい。残り半分はお前のせいだ」

「なっ……」

 冷たい目でにらまれて、カガリはその続きの言葉を失う。

「あのとき、お前が身分を明かしてあんなことを言い出さなかったら、この艦はどうなっていたと思う?」

「わ、私はこの艦を堕とさせたくなかったからッ……」

「確かに領海に寄りすぎていたAAは撃たれる可能性もあったかもしれない。
 しかし、警告を守って変針できていたら、撃たれなかったことも事実だ。
 そしてバスターの猛攻は、お前が領海に突っ込むことを提案したから。それが聞こえていたから。
 今まで追いかけてきた艦を横から出てきたオーブにやらせてなるものかと、意地になったからだろう」

「な、何でそんなことがわかるんだよ!」

「お嬢ちゃんとオーブ艦隊とのやり取り。
 全周波できっちり流れてんだから、それくらいは想像できたと思うぜ」

 自動ドアが開いて、パイロットスーツのままのムウとキラが現れる。

「普通は思うでしょ。相手の中へ突っ込んだら、どうぞ撃ってくださいって言ってるようなもんだって」

「でも!」

 両目に涙を湛え、今にも泣き出しそうな彼女を、キラはそっと抱きしめた。

「……カガリは間違ったことはしてない。だって、カガリなりに考えてこの艦を守るために動いたんだから。
 そしても同じように動いた。やっぱりこの艦を墜とさせたくなかったから。
 だからバスターのライフルがAAを撃ち抜いたとき、周りが見えなくなったんだよ。
 かといって。
 のロッドが振り降ろされるのを黙って見ていたら、オーブに敵と見なされてしまう。
 そうしたら。
 カガリがしようとしたことも、がしようとしたこともすべて無駄になっちゃうでしょ。
 だから……中佐はを撃ったんだ。
 こちらに敵対する意志がないことを見せるためにね」

「あ、く……うぅっ……」

 とうとう泣き出してしまったカガリは、しっかりとキラにしがみつく。

「それに、は……は大丈夫だよ」

「……キラ、お前やけに自信ありげだな?」

 トールの言葉に、彼女を宥めていたキラはクスリと笑って。

「だって、僕は経験者だよ? ですよね、バジルール中尉?」

「え、あ?」

 いきなり話を振られて、ナタルは彼女らしからぬうろたえを見せる。

「わかった、PS装甲ね!」

 声を上げたのはマリューで。その答えに、レガールは『そのとおり』とうなずいた。

「Xナンバーに使われているPS装甲なら、実弾によるダメージはほとんどない。
 俺がスレッジハマーで狙ったのもそのためだ。
 それに、ダメージの量については、砂漠でヤマト少尉とストライクが証明している。
 確か、その時の指示を出したのはバジルール中尉だと覚えているが?」

「は、はいっ。そうでありますっ!」

「……そんなにしゃちほこばる必要はないと思うがねぇ……」

 笑いを噛み堪えながら言うムウに、マリューも同感だと言いたげに口元に小さな笑みを浮かべた。

「とはいえ、機体にはダメージがなくても、中のパイロットが無事かどうかはわからない。
 ……おそらく、気絶ぐらいはしてるだろうな」

「だったら、僕が探しに……」

「今はやめておけ。はオーブに刃を向けたMSだ、実害はなかったとはいえ歓迎されない」

「……ですが……」

 なおも反論しようとするキラ。

「大丈夫だって。動かなきゃ、のバッテリーだって消耗しないだろ。
 それに気絶したぐらいで死にゃしないよ。彼女だってコーディネイターなんだし……」

 トノムラの何気なく言った言葉。それに、キラはびくりと体を震わせた。

「……コーディネイターだから大丈夫……だと?」

「ナチュラルの俺たちより丈夫に出来てるのがコーディネイターだろ?
 ミサイルの直撃を食らった振動で気絶程度で済む、だから心配する必要はないってことさ。
 ま、俺たちが同じ衝撃を食らって、同じように済むかどうかは疑問だがな」

 その言葉を聞き終えたキラが動く前に、乾いた音が鳴り響いた。

「ハウ二等兵!」

 ナタルのあげた叱責の言葉を無視して、ミリアリアは言葉を続ける。

「トノムラ軍曹、今の発言は取り消して下さい。
 確かに、気絶したぐらいじゃ死なないのはわかってます。
 でも、コーディネイターだから大丈夫? 自分たちより丈夫だから、心配する必要がない?
 どうしてそんなこと言うんですか!
 少尉は……は、軍人だけどコーディネイターだけど……その前に1人の女の子なんですよ。
 なのにっ、なのに心配しなくていいなんて、そんなことっ……」

 次から次へと溢れる涙。それを拭い去ることもせず、ミリアリアは彼を殴ったままの格好で立っていた。殴られたほうのトノムラも、気まずげに視線を落とす。

「ミリィ」

 いたたまれなくなったトールが肩に手を掛けると、彼女は彼にしがみついて大声で泣き始めた。



「……先ほどのハウ二等兵の行為、平手打ちとはいえ上官に手を上げた行為は軍規に違反するものです」

 沈黙を破ったのは、マリューの静かな声だった。

『艦長!』

 キラを含めたヘリオポリスの学生達が一斉に声を上げる。

「本来ならば、謹慎処分を申し渡すところですが……。今回については不問とします」

「艦長、それではッ……!」

「示しが付かない、とバジルール中尉は言いたそうね。
 それでも、今回のハウ二等兵の行動については衝動的なものだったと思うわ。
 そして、トノムラ軍曹に聞きます。あなたの友人が無事だとわかっていても行方不明だったとき。
 心配する必要がないと周りに言われて、それを素直に受け入れられる? 言った人に憤りを覚えない?」

「そんなことはっ……友人が行方不明になったら心配するのは当然で……」

「でもあなたは、さっき、それと同じことを言ったのよ?」

 指摘されて、トノムラは息を飲んだ。マリューの言わんとしていることに、ナタルも気が付いたらしい。

「……ハウ二等兵の行動には私も同感いたします。ですが、やはり不問というのは……」

「んじゃさ、彼女には反省文でも書いてもらう? 学校のお仕置き第2弾としてさ」

「……第2弾?」

「そっ。以前ピンクのお姫様を逃がしたときにこいつらはトイレ掃除1週間を言い渡されてるしさ。
 トイレ掃除っていったら、学校で先生に叱られたときに一番食らう罰じゃないの。
 ッてことで、今回は第2弾・反省文」

 それを聞いていたナタルとミリアリア、トノムラを除く一同は思わず吹き出す。

「な、なんてことを考え出すんだお前はっ……」

 一生懸命に笑いを噛み堪えながら言うレガールに『いい提案ッしょ?』と笑うムウ。

「……確かに反省文ぐらいが妥当ね。ハウ二等兵、それで納得できるかしら?」

 未だトールに抱きついたままの彼女が小さく頷いたので、それが確定した。



黒マント製作機から
 あー、堂々とキラが浮気してるよー(笑)


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