「あれは何だ?」

 霧に紛れて、オーブへと上陸した彼らの目に、鋼色の巨人が映った。

「どこかで見たことあるんですけど……」

 着替え終わっていたニコルが数歩足を踏み出して近寄る。

「……これ、足付きにいたMSじゃねーの?」

「みたいだな。……しかし、また何でこんなところに……」

「動く気配もない。コックピットを調べればわかるさ」

 イザークが岩場を渡り、その巨体……ディアクティブモードのへと飛び上がった。そして、あたりをつけた位置を探り、あっという間に開閉パネルを捜し当てた。

「……マジかよ……」

 開いたコックピットを覗いたディアッカは、それだけを口にする。イザークは予想していなかったことに言葉が出ないらしい。が、そこに足を踏み入れて、ぐったりとしているパイロットを抱き上げて、再び外に出る。
 砂浜に戻った彼は、自らのひざの上で抱えたパイロットのヘルメットを外してやった。

がどうして……?」

 ニコルが驚きに言葉を失う。その後ろで、アスランは目を伏せた。
 サラリと流れた濃茶の髪の少女は、血のバレンタインの時に行方知れずになったのではなかったか?
 それがなぜ地球軍にいて、MSに乗っている?
 しかも、よくよく見れば先日戦った機体であることがわかった。

「そーいや、バルトフェルド隊長がに会ったと言ってたな……」

「そんな……。彼女はいつからここに、足付きにいたんですか……?」

「……ほとんど最初からだよ」

 小さく漏らされた言葉に、3人は声のした方を向いた。

「ラクスが1度、足付きの捕虜になっただろう。その時に聞いてきた話を俺に教えてくれたんだ。
 俺たちがヘリオポリスを襲った時、はあそこにいて、脱出ポッドに乗ったらしい。
 しかしそれは破片で壊れて、動けなかったところを足付きに保護されたんだそうだ。
 そして、守りたいと思うもののためにMSで戦うことを決めたらしい。
 ラクスを連れ出してくれて返してくれたのも、その時ストライクに乗っていたのもだ」

「お前がラクス嬢を引き取りに行ったんだろうが。なぜその時に連れて帰らなかった!」

「そうですよ、彼女はコーディネイター。ナチュラルのところじゃなくて、僕たちと一緒に……」

「……私が断わったの」

 目を覚ましたのか、ゆっくりとした動作で彼女は起き上がった。

「皆さん、お久しぶりです」

 頭を下げたに勢いをそがれたのか、一旦4人は黙る。

「あの艦には私の兄が乗ってるんです。……兄といっても、母親は違うんですけれどね」

「それじゃ、その兄貴も一緒に連れて来れば……」

「それは無理です。兄はナチュラルで、地球軍の将校ですから」

「だったら、だけでも来て下さい。僕たちは貴女となんて戦いたくないんです」

「ありがとう、ニコル」

 ふわりとしたその笑みは、彼らだけにしか見せなかったもの。

「私は決めたんです。地球軍に望んで入ったわけじゃない。
 でも、あなたたちに教えてもらった技術を使って、艦を守るって。
 あの艦には大切な兄だけじゃない、友達も乗ってるから……ごめんなさい、そちらには行けません」

「にしてもアスラン! どうしてが足付きにいることを黙っていた?」

「私がお願いしたんです。話さないで欲しいって。
 皆さん、相手が知り合いだとわかったら、知らず知らず手加減してしまうと思って……。
 だからイザークさん、アスランさんを責めないで下さい」

「……フンッ」



「しかし、これで足付きがここにいるっていう確証は持てたんじゃねーの?」

 ディアッカの言葉に、を除く3人は顔を見合わせた。

「……そうだな。の乗ったMSがなぜこんなところに流れついていたのかは知らんが。
 貴重な戦力を放置してここを離れたという可能性は低い」

「じゃ、せっかく着替えましたけどやめますか?」

「いや、もう少し確証が欲しい。潜入はしてみるさ」

はどうするんだ?」

「予備の作業服あったし、それに着替えさせて連れていけばいいじゃん。
 案外、の顔を知ってる足付きの人間がよってくるかもよ?」

「……あの……いったい何の話なんですか。潜入とか確証とか……」

 これから自分がどこへ連れていかれるのか少し不安に感じて、は思わず疑問を口に出した。

「それに『足付き』ってなんなんですか?」

「ああ、足付きっていうのはが乗ってる地球軍の戦艦のこと。俺達はそう呼んでるのさ。
 で、俺達はこれから……」

「ディアッカ!」

 アスランの叱責に、『やべ』と舌を出して、彼は黙った。

「……すみません。今の貴女は志がどうあれ、僕たちザフトと対立している立場ですから……」

「いえ、私こそごめんなさい。つい昔のように軽々しく聞いてしまいました」

 すまなそうに言ったニコルに、も慌てて首を振る。

「でも、お聞きしたいことはもう1つあるんです。
 ……その……作戦上の問題とかだったら返答はいりませんから」

「聞きたいこととは何だ?」

「ここに皆さん、クルーゼ隊の皆さんが勢揃いされているみたいですが……。
 ミゲルさんやラスティさんの姿がないのは何故ですか?」

 その問いかけに、それぞれが悔しそうに顔をゆがめて視線をはずす。そして。

「彼らは……死んだよ……」

「………………え?」

「ヘリオポリスで……ストライクに殺られた」

 の膝の上から、ゴトリとヘルメットが落ちる。

「……嘘っ……だって、あの人たちはとても強くてっ……、
 ラスティさんは笑いながらでも、確実に弱点を攻めてこられるぐらいで……、
 ミゲルさんは、カスタムに乗れるぐらいでっ……」

「ラスティはモルゲンレーテの工場でGの奪取の際、工場の奴に撃たれた。
 ミゲルはD装備で行ったのにっ……それなのにっ……」

 アスランは悔しそうに唇を噛んだ。

「ラスティもミゲルもストライクのせいで殺られた。俺も傷をもらった。……あいつは絶対に俺が堕とす!」

「……イザークさん、その傷をつけられたのはいつ……?」

「足付きが大気圏近くで艦隊と合流する前だ」

 『え』と短く声を飲んだに、4人は怪訝な顔を向けた。

「イザークさん、ごめんなさいっ、ごめんなさいごめんなさいっ……」

 はボロボロと泣き出して、壊れたレコードのように同じ言葉を繰り返す。

「おいおい、どうしてお前が謝るんだ? 悪いのはストライクで……」

「だって、だってその時操縦していたのは私だから!
 助けられてから砂漠でに代わるまで、ストライクは私が動かしていてッ……。
 イザークさんの乗った機体に攻撃したのも、私でッ……」

「謝らなくていいんですよ」

 泣き続ける彼女の腕を引いて、ニコルはその細い体を抱き寄せた。

「イザークも口ではあんなことを言っていますけれど、本当にストライクだけの責任だとは思ってませんよ」

「でも、でも! 私はイザークさんの顔に……」

「女じゃあるまいし、顔に傷があっても気にするか!」

「そーそー。その気になりゃ、プラントの医療ではすぐに消せるんだぜ?」

「それに俺たちは今戦ってるんだ。相手が誰であれ、傷を食らうヘマを犯したのは自分の責任だからな」

「だから、が気にして泣くことはない」

 それぞれの言葉に少しずつ落ち着いてきたは、ごしごしと涙を拭った。



黒マント製作機から
 素直にAAに戻すのも何だかなぁと思い、ここでザラ隊の皆さんと接触。
 次はフェンス越しの邂逅です。


To NEXT