補給を終えた僕たちの母艦『クストー』は、オーブのレーダー照射から外れた岩陰に潜伏していました。
 艦内では相変わらずイザークとディアッカが不満を漏らしていましたが、こちらに彼女がいる以上、足付きがここを離れていないというアスランの考えには僕も賛成です。
 艦上に出てくると、プラントでは見られない感じられない、今まで想像もできなかったことにたくさん出会います。今まで僕らが育ってきた場所、戦ってきた理由を否定するつもりはありませんが、それでも、この海に比べたらとても小さいものなんじゃないかって思えてきます。
 人工のものではない太陽、そして作られていない水のきらめき、それを跳ねのけるようにして飛び上がった魚の群れに、僕はしばし言葉を忘れて魅入ってしまいました。そしていつか、戦争が終わったときにはこの感動をピアノで奏でてみたいと思いました。





「招集かかったよ」

「あ、はいっ! 呼びに来てくれてわざわざありがとうございます」

「いいって、気にしないで」

 僕は彼女とブリッジへと急ぎました。するとそこには皆さんが集まっていて……。

「ああ、ニコルもも来たな。って、相変わらずだな、お前たちは」

 苦笑するアスラン。イザークもディアッカも同じみたいで。

「羨ましいですか?」

 僕はちょっと皆をからかってみたくなって、手を握っていたを引き寄せて抱きしめちゃいました。

「……ニコルってば……」

 苦笑しながらも、は僕から逃げようとはしません。その様子を恨めしそうに見ている皆さん。

「こらこら、さっさと始めないと足付きは行ってしまうと思うぞ?」

 やはり苦笑している艦長さん。その一言でじゃれてる場合じゃないことに気がつきました。

「つい先ほど、オーブから北東の海域へ出た艦隊があるそうだ」

「……その中の1隻が、足付きだと?」

 イザークの問いかけに、うなずいたアスラン。

「1隻だけ離脱したからな」

「なーるほどねぇ……。それじゃ、せっかく再会した妹との『びゅーてぃふるらいふ』も終わりってわけね」

「……ディアッカさん、その言い方ってすっごく含みがあるような気がするんですけど……」

「ニコル、一人占めするな」

 次の瞬間、僕の腕の中の彼女はイザークに抱きしめられていました。

「次、次は俺ねっ!」

 ぽかんとしたままのは、ディアッカの腕の中へと移動。

「最後は俺だ」

 ディアッカから渡された彼女を、アスランはぎゅっと抱きしめました。

「……あ、あの……皆さん?」

 解放されたは真っ赤で。思わず顔を見合わせた僕たちは、くすりと笑ってしまいました。

「僕らの可愛い妹への別れの挨拶ですよ。パイロットスーツ越しだと、何となく味気ないじゃないですか?」

「そうだ。これからお前は足付きに戻る。また敵として闘わなければならないしな」

「だからさ、離れていく妹への激励を込めた、俺等なりのケジメってわけ」

「平和になったら、のお兄さんやラクスも交えて、皆で一晩中トランプしよう」

「……それじゃ、妹からもお礼と再会の願いを込めて」

 は僕たちが抱きしめた順番で、頬にキスを贈ってくれました。

「皆さん、本当にありがとうございました。
 ……それに他の方々も、敵軍の私を受け入れてくださってありがとうございました」

 ブリッジクルーたちに深々と頭を下げた。顔を上げた彼女は泣き笑いのようになっていました。

「これからAAに戻る私がこんなことをいうのも何ですけど、……皆様のご武運をお祈りしています」

「……アスランたちに大事にされる理由がわかるな。君の機体も補給は済ませてある。
 無事にあちらに帰りたまえよ」

「ありがとうございます!」

 微笑んだにつられたのか、艦長にも小さな笑みが浮かんだのを、僕は見逃しませんでした。





「準備はいいな?」

 それぞれのMSへと搭乗を済ませ、各計器の確認をしていると、アスランさんからの通信が入りました。

「あの浜で約束した通り、は俺が責任を持って足付きに送る。だから心配するな」

「心配していませんよ。アスランさんはちゃんと約束を守ってくれる人だって知ってますから」

はラクスを無事に返してくれた。だから、今度は俺がそれに答えて、キラの元へ君を送り届ける」

「な、何をいきなりっ! 私とキラ先輩はそう言うんじゃありませんっ!
 っていうより、名前出しちゃダメなんじゃないんですか?」

「大丈夫、これは接触通信。この会話はイージスとでしか繋がっていないよ」

「ならいいんですけど……。でも、本当に誤解しないでくださいね!」

「でも、あいつはのことが好きみたいだぞ? あの時のキラの顔、近くで見せてやりたかったな」

「……もぅ、その話題から離れてくださいよ! 怒りますよ?」

「悪かった悪かった。……それじゃあ発進するからちゃんと捕まってろよ!」

「はい!」





 AAの外では、隠れ蓑になっていてくれたオーブ艦隊が離れていった頃だろう。
 パイロットスーツに着替えて現れた僕に、マードック曹長が声をかけてくる。

「おい坊主、出撃命令はまだ……」

「領海を出れば、ザフトからの攻撃は始まります」

「あぁん?」

 訳が分からないと言った声が聞こえたが、僕はあえてそれを無視してストライクに乗り込んだ。電源を入れてOSを立ち上げ、計器類のチェックをする。
 先日のことは、僕は、誰にも言えなかった。というよりも、無理に忘れようとしていた。
 思い出すのはクルーゼ隊の面々がモルゲンレーテの作業着を着てオーブにいたということよりも、あの中で座っていた少女のこと。自分以外の男に口付けをされていた、その事実を忘れ去りたかった。
 そして、ブリッジより通信が入った。


「レーダーに反応!」


 その次の言葉は聞かなくても、僕にはわかる。向かってきたのはアスランたち。

「キラ=ヤマト、ストライク、行きます!」

 スラスターを使ってAA艦上に降り立ったとき、CICから新たな通信。

「機種特定。イージス、ブリッツ、バスター、デュエル。
 で、イージスのグゥルに同乗しているのは……え、ぉ?」

 声の裏返ったミリアリアに、僕は小さく苦笑する。

「足付き及びX−105・ストライク。聞こえるか?」

 僕の名前を出さないのはこれが全周波だから。彼の声はきっとAAにも届いている。

「……聞こえる」

 呼びかけられているのだから答えないわけには行かない。僕は短い答えを返した。

「これからこのグゥルはそちらへ接近する。しかし攻撃するつもりはない。
 X−106・をそちらに返還したいだけだ」

「なっ!」

 CIC越しにブリッジクルーの驚く声が伝わってくる。僕も驚いてはいたが、それを表情に出すことはしなかった。アスランのことは信じている。攻撃する気がないのはビームサーベルを持っていないことでわかる。だから僕も、構えていたアグニをおろした。

「ヤマト少尉、何をしている!」

「イージスに……今の彼に攻撃する意志がないことぐらいは、見ただけでわかります。
 だったら、こちらもそれなりの対応をするべきでしょう?」

「……ありがとう」

 小さく聞こえた声。それは記憶にあるものと同じ、少し照れながら言う彼の言葉。



 近付いてくる赤い機体の乗った円盤。その後ろにしがみつくようにして藍色の機体がいる。

「さぁ、ここまでくれば降りられるだろう?」

「……ありがとうございます」

 AAの上空20メートルの位置では飛び降り、バーニアを使ってストライクの横に着地。

を連れて来てくれて感謝する」

 中佐の声が通信に流れた。

「彼女にはラクスをこちらに戻してくれた借りがある。それを返したまで。
 こちらが離れて5分後に攻撃を始める……それでは失礼する」

 飛び去ったグゥルからは、もう何の声も聞こえなかった。



黒マント製作機から
 ちょっと無理やり切ります。


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