少尉、あなたは一旦デッキへ戻って」

「大丈夫です、私も戦闘に参加します」

「でも……」

「バッテリーの心配でしたら不要です。あちらの母艦を出る前に補給を受けましたから」

「え?」

「避けられない戦闘だから。向こうの人たちもそれがわかっているから、敵軍の私の分も補給してくれました。
 だから、今度は私がそれに答える番です」

 少し悩んでいるような沈黙が流れ。

「わかったわ、それでは……はAA後方へ移動して頂戴」

「了解しました」



 ブリッジとの通信を切って移動しかけたの腕を掴んで引きとめたストライク、触れたことにより接触通信が可能となる。

「戦闘が終わったら、僕はと話したいことがあるんだ」

「……何ですか?」

「モルゲンレーテでのこと。……これはお願いじゃないよ。
 艦長たちの取調べが終わった後、迎えに行くからね。逃げても無駄だよ?」

 そう言いおえて、キラ……ストライクはの手を離した。



「マーカー照射を確認!」

「現船速を維持のまま、取舵5。回避して!」

 5分後に再開された戦闘は、バスターの長距離ライフルによる攻撃から始まった。

「時間を守らない奴も嫌われるけど、あまりきっちり過ぎんのも嫌われるぞーっ!」

 軽口を叩きながらムウのスカイグラスパーが、空を切ってバスターの元へと飛んでいく。

「あっちはフラガ少佐に任せておけ!」

 モニター越しのレガールの言葉に、キラとは頷いた。



 空中を自在に動き回るグゥルを、ピンポイントで狙うのは難しい。その点を考慮したのか、広範囲・連続的に発射できるランチャーストライカーのガンランチャーが選択された。
 ストライクがイージスとデュエルを相手にしている間、は取り付こうとするブリッツを相手に交戦していた。飛べないがロッドを突き上げれば、グゥルはギリギリの高さまで上昇してすんでの差でそれを避け、ブリッツのトリケロスが放たれると、のロッドで叩き落される。
 一見すれば互角に見える戦闘だが、それでもやはり、動きに制限のあるストライク、の2機のほうが不利で。当たらない攻撃に彼らの表情に焦りが見え始めたとき。

「こっのお〜〜〜〜〜!!」

 突然飛び出してきたスカイグラスパーが、ストライクとデュエルの間を割った。

「ト、トール?」

 通信機から聞こえてきた声は、キラのよく知るもの。そしてその声は後方のにも届いた。

「な、どうしてッ……」

 はここ数日、トールがスカイグラスパーのシュミレーターを触っていたことは知らない。だからこそ、あんなMSの間に割り込むなどという無謀な動きをする機体に驚いて動きを止めた。
 本来ならば戦場で動きを止める、そういった隙を見せる行動は死を意味するもの。
 しかし、今回は違った。ストライクとのみならず、イージス・デュエル・ブリッツの3機もいきなりの乱入に驚いたのか、動きを止めていた。
 そんな中でいち早く我に返ったのはキラ。動きを止めたままのイージスが乗ったグゥルを撃ち抜く。

「うわぁぁあぁぁぁっ!」

 XナンバーにはPS装甲があって対したダメージは与えられなくても、グゥルにPSは付いていない。急激に足場をなくしたイージスは、アスランの声とともに小島へと落下していった。

「アスラン!」

 と対峙していたブリッツは慌ててそれを追い。

「ストライクも行きます!」

 トールの操縦するスカイグラスパーからソードストライカーを換装し終えたキラが叫んだ。

「まて、ヤマト少尉! 深追いはするな!」

 ナタルがインカムに怒鳴ったが、その言葉は届いてはいなかった。





 何とかバーニアを使って軟着陸したイージス。その上を通り過ぎようとしたAAに咄嗟に攻撃する。しかしそれは圧倒的な火力の差によって敗れ、機体は激しい衝撃に見舞われることになる。
 機体を立て直したアスランは、イージスのエネルギーが残り少ないことに気が付いた。が、移動手段を奪われているために補給にも戻れない。
 視線を前に戻したとき、前方からトリコロールの機体が迫ってきた。

「くそっ!」

 半ば条件反射で構えたビームライフル。それを、ストライクの長剣・シュベルトゲーベルが一閃した。切り飛ばされる砲身。イージスのライフルはあっという間に無用の長物と成り果てた。

「アスラン、もうやめるんだ。君たちの負けだ」

「な、何を言うんだお前は!」

「わかってるはずだ。このまま戦っても君の機体はじきにエネルギーが切れてしまう。
 そうなってからじゃ遅いんだ、だからこのまま引いてくれ……ッ……」

「バカなことを言うな、俺とお前は今は敵で! お前は倒すべきAAを守っている連合軍のMSに乗ってて!
 逃げろといわれて簡単に止められるわけないだろう!」

 イージスの腕に装備されたビームサーベルに光が入り、これ以上の説得ができないことにキラは気が付いた。が、彼は本気で目の前の相手に向かうことができない。それでも呼びかけるのを止めることはできなかった。

「止めろアスラン、止めてくれお願いだから! 僕は君と戦いたくないんだ!」

「甘いことを言うな! お前が俺達の邪魔をする以上、倒さなければならない相手なんだ!」

 鬼気迫るイージスの猛攻に、ストライクは受けるか避けるのが精一杯だった。しかし、そんな中でも終わりの時は確実に近付いていた。





 無機質な音がコックピットに響き、イージスの鮮やかな赤の機体は、瞬時にくすんだ鋼色へと変わる。ついにメインバッテリーが切れ、フェイズシフトが落ちた。それは同時に、イージスの武装がほぼ使えなくなったことを意味していて。

「くっ、あはははは……」

 自分でもわからない。それなのに、アスランの口からは笑い声が漏れる。
 この機を逃さず、目の前のストライクは自分を撃つだろう。
 それでもいいと思った。戦いたくないと言ってはいても、このまま放置して逃がせば、今度はどういうことになるかわからない幼馴染じゃない、と彼は考える。彼にAAを守るという目的がある限り、自分にAAを堕とすという目的がある限り、昔のように手を取り合うことができないのだから。
 一歩一歩と歩み寄ってくる鮮やかな色彩の機体。

「アスラン、お願いだから投降して……」

「キラ、いい加減しつこいぞ。
 俺はザフトの軍人で、AAを堕とそうとしているイージスのパイロットだ。今さら投降する気はない」

 久しぶりに幼馴染の名前を、本人に向けて呼んだような気がする。
 そう思いながら、ゆっくりと振り上げられていく長剣を眺めていた。あれが降ろされたとき、自分の命も終わるのだと考えると、何の恐れも浮かばなかった。……ただ、親が決めた相手とはいえ、ラクスに何1つ婚約者らしいこともしてやれなかったなとは思う。

 最上段に掲げられた剣は振り下ろされるのを待つばかり。
 少し刃先が動いて、そして、スローモーションのように落ちてくる。



「アスラ〜〜〜ン!!」



 声に気が付いたとき、イージスの機体は跳ね飛ばされていた。そして、さっきまでその機体があった場所にはブリッツの姿。

「ニコルッ!」

「だめですよ、アスランはここで死ぬべきではないでしょう?」

「キラ止めてくれ。キラッ、やめろぉっ!」











 アスランが叫んだのと。











 耳障りな音を立ててストライクが蹴り飛ばされたのと。










 それはほぼ同時だった。



黒マント製作機から
 なんてところで切るんでしょうか、この人。
 はい、蹴り飛ばしなんてマネをしたのはご想像通りの人です。


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