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パチン。 そんな音が僕の耳に届いた。 白い線の枠の中央で対峙しているのは白い金髪の男の人と、濃茶の髪の小柄な女の子。男の人はナイフを弄び、女の子は両手を縛られて重りをつけていて。 本当なら飛び込んでいって止めさせたい。彼女の白い頬に赤い線が走るのは見たくない。しかし、それは許されないこと。彼女が自分で受けたことを邪魔する権利は僕にはない。 「それでは始めます。両者、準備はよろしいですか?」 バジルール中尉の声にはっと我に返る。 「ああ、俺はいいぜ」 「私も大丈夫です」 見ているしかできない。僕はもどかしさを抱えながら、拳を握り締めた。 「手加減ナシに行くぜぇ?」 「いいですよ。私もさっきよりは本気になりますから」 「言ってくれるじゃないの」 「では、始め!」 号令がかかったと同時に押し寄せた圧力。これはいつも戦闘中に感じているものと同じ。 今まで、から感じたことのなかった殺気に、思わず僕は息を飲んだ。 対峙しているフラガ少佐も、周りで見ている中佐を始めとする艦長たちもわかったんだろう。驚いた表情のままで顔を凍りつかせている。見学していた整備員の人たちも同様で。 ただ、わかってないのはヘリオポリスの学生だった皆だけで。 「キラ、どうして皆驚いてるの……?」 「……の放った殺気のせいだよ。今まではずっと隠していたから誰も知らなかったんだ。 お兄さんである中佐も、艦長も皆……僕だって驚いてる」 「だって、俺達には何も感じられないよ?」 「そりゃ、カズイたちはいつもAAの中で、直接感じたことがないからわからないんだよ」 そう答えながらも、僕は視線を反らせない。 半歩踏み出したのはだった。 床にゴムが擦れて、耳障りな音を立てる。いつもなら気にならないはずの音も、静まり返ったこの空間では高く聞こえる。整備の人たちも手を止めて、行く末を見守っていて。 「来ないなら私から行きますよ?」 トン、と床を蹴る音がして。次の瞬間、鈍い音が響く。の蹴りがフラガ少佐の胸を捕らえた。少佐は咄嗟に腕を組んでかばったおかげで致命傷にならずに済んだらしい。 「せいっ!」 少佐の右手が握り締めたナイフがの眼前に突き出され。はそれを体を背面に反らせて避け。そのまま背後に手を付いて倒立後転を見せ距離をとった。 「たぁっ!」 両手を固定されているは足技に頼るしかない。再び飛び上がった彼女は本当に重りをつけてハンデを背負っているのかと疑わせた。軽々とフラガ少佐の頭上を超え、少佐の背後に着地ざま蹴りを繰り出す。 「ぐっ!」 背中を蹴られて一瞬呻いたフラガ少佐は、振り向きながらナイフを一閃させる。しかし、空を切った刃先はの髪を数本切っただけで。 「遅いッ!」 ナイフを手元に引き戻す、その前に突っ込んだの膝は、鈍い音と同時に確実に少佐の腹部を捕らえていた。フラガ少佐の手から、カラン、と落ちるナイフ。 「そこまで!」 中佐の声に、僕を始めとする皆は息を吐き出し。フラガ少佐は床に転がり、は心配そうに腰を下ろした。 「……ごめんなさい、ムウ兄。最後のはきっちり入ったんじゃ……」 「心配すんなって。なんのかんの言ったって体重がない分、お前の蹴りは軽いからな」 「私、筋肉付きにくいみたいで……こればっかりはどうにもなりませんからね」 「でもさ、お前がザフトの訓練受けてたってのは本当だったんだなー」 「はい、正規じゃありませんでしたけれど。いろいろと教えてもらいました。 実はですね、あのさっきの方法も訓練でやってるんです。そのときは両手両足合計で40キロでした。 だから今回はほとんどハンデじゃなかったんですよ?」 「おいおい、マジかよ……」 走りよってきた艦長に助けてもらいながら体を起こし、フラガ少佐はの頭を撫でた。 僕の方は……動けなかった。彼女が怖い……そんなわけはないのに、なぜか足が動かなくて。 そんな時、重りをはずして両手の拘束を解いた彼女がこちらを向いて歩いてくる。カズイが『ヒッ』と短い声を漏らしたのにも気が付いた。 「……私が怖くなりましたか?」 「そ、そんなことないさ」 「トール先輩。無理しなくていいです。言葉どもってます。 ……もともと、私はここにいるべきではないコーディネイターですしね。 自分と違う存在がいることに恐怖を感じない人なんていません。 でも今は心配しないでください、私は守りたいものがあるからここにいる。 だから請われたり邪魔をしない限り、あなた方に害をなす気はありませんから」 『では』と去って行く彼女の後姿は、ひどく辛そうに見えた。 ![]() 黒マント製作機から またまたキラとの絡み少ないし、フラガ兄貴が出張ってるし。 避けられることを覚悟で、模擬試合を引き受けた。 私の能力に気が付いたのなら、これ以上、私の周りに誰も来ないで。 いるべき場所ではないところに残ることを決めた、異質な私を知って欲しい。 恐れて逃げられるのなら、早いほうがいいから。これ以上深入りする前に、私から離れてお願い。 To NEXT |