「本当にこれでよかったのかな……」

 小さな寝息を立てている少年の。その額にかかった髪をすくい上げる。
 自分がこれからしようとしていることを考えると、そして昨日のクラスメートからの1件を考えると。

 ―――――――本当なら、言うべきではなかったのかも知れない。

 苦しませるだけ、重荷にしてしまうだけの想いなど、伝えないほうがよかったのかも知れない。
 でも初めての感情に戸惑う自分は、いつものように抑制ができなかったのも事実で。気が付いたときには決定的となる一言を叫んでいた。
 一度口にしてしまった思いはそう簡単に取り消せるはずもなく、取り消してもらえるはずも無く。

『その場の感情で動くな。今、自分が取ろうとしている行動が必要なもので最善なものか考えろ』

 お父さんからずっと言われてきたことが、今さらながらに身に染みた。

「……ごめん……なさい……」

 そっとベッドから抜け出して、私は洗面所へ向かった。





「おはよう」

 戻ってくると、キラ先輩は起きていた。

「起きたらいないから、ちょっと探しちゃったよ」

「顔を洗ってたんです。昨夜は泣いたままで寝ちゃったから。
 少しでも冷やして、瞼が腫れぼったくなってしまったのを治めたかったですし……」

「僕はそれでもよかったんだけどね」

「どうしてです?」

 少し首をかしげた私の腕を引いて、キラ先輩は私を自分の隣に座らせた。そして、頭を預けてくる。

「だって瞼の腫れが引かなかったら、のことだから恥ずかしくて、部屋から出ないじゃない。
 そうしたらに乗って出ていかないよね。……僕の前で無茶しないでしょ?」

「……私、そんなに無茶してるように見えます?」

「見えるから不安なんだ。本当は今朝の君が動けないくらいにしたかったんだから」

 その言葉に、私は頬を引きつらせ。

「そういうことはアラスカについて落ち着いてからって言ったはずです!」

「……でも、昨夜は蛇の生殺しだったんだけど……」

「キラ先輩、そんなに聞き分けないことを言うんでしたら、今すぐ部屋から叩き出しますよ?」

「それはヤだ。……でもだって、僕のお願い聞いてくれてないじゃないか」

「…………………キラ」

 こう呼ぶのはすごく抵抗がある。

「なに、?」

「ごめんなさい、わがまま押しつけて……」

「いいよ、僕のほうが年上なんだし、今は我慢してあげる。そのかわり、アラスカについたら覚悟しててね?」

 私は背中に回された手と重ねられた唇、その2つの熱だけにも酔ってしまうのに、これ以上何を覚悟しておけというのだろう。キラ先輩の言葉の意味がわからないわけじゃないけれど、それでも返事を返せない。
 『アラスカについたら』と言うけれど、彼はその言葉の意味がわかっていないのかもしれない。でも、今はそれを指摘する気も起きない。

「そうですね。アラスカにつくまでに覚悟は決めておきます」

 今の私に言えるのはそれが精一杯。
 それでもキラ先輩は満足だったんだろう。どんどん深くなるキスに倒されまいと、私は彼の首筋に力一杯抱きついた。


 アラスカ・JOSH−Aにたどり着くまではあと少し。
 そして最後の戦いまで……もう少し。





「兄としては見たくはなかったんだがなぁ。少々複雑な心境だぞ」

 開いたドアからきょろきょろと辺りを見回して、誰も見ていないのを確認した後走り去っていった背中。それを角から小さなため息とともに見送る。

「仕方ないんじゃないの? あいつもいつかはああなるって覚悟してただろ?
 ってーかさ、お前絶対バージンロードの先にいる花婿に花嫁の手を渡さない系だな」

「……なんだよそれは」

「最後の最後まで、他の男に渡したくないってゴネるだろうってことさ」

 笑いながら、ムウはブザーを押す。中よりの声に自分が誰かを告げ、レガールの腕を引いて、部屋の中に入った。

「……朝早くから、2人とも何をしにきたんです?」

「早ければ今日夕方にでもアラスカに着くだろう。だから、お前の覚悟を確かめにきたって言ったら?」

「クルーゼ隊のみんなとのこと、そして、アラスカに着いての身の処遇について……ですね?」

「簡単に言えばそうだな。……でも、今AAを追いかけてるのはクルーゼ隊じゃないぞ」

「どういうことだ?」

「怪しい仮面の隊長さんはここにはいないってことですよ。
 私がオーブで乗せてもらってた母艦の中に、彼の姿はありませんでしたから」

 に示された2つの椅子に、ムウとレガールは腰かける。彼女はベッドに座ったままで。

「お前、ラウ=ル=クルーゼとも面識があるのか?」

「写真を見せてもらったことがあるんです。
 で、聞きたいのは私があっちの人たちと本気で戦えるかどうか、でしょう?
 ……今度はちゃんと戦います。砂漠でのような行動には出ません、そのつもりで彼らにも別れてきました」

「お前もヤマトを守るっていう目標ができたしな」

「な!」

「さっきこの部屋からあいつが出てきたの、俺たちしっかり見ちゃったからなぁ。
 昨晩は一緒だったんだろ?」

「……確かに一緒だったけど、お兄ちゃんたちが考えてるようなことはなかったもんっ……」

「またどうして?」

 顔を赤くしながらそっぽを向いた妹に、思わず聞き返すレガール。

「2つ目の覚悟のせいっ……。あっちに着いたら、私は実験動物に逆戻りだもんっ……」

「大丈夫だ。させない、俺がさせないから」

「嘘だっ、そういって、お父さんたちが死んだ後……私を一人にしてっ……。
 だからブルーコスモスに連れていかれて、必死で逃げて……捕まって……その繰り返しでッ……」

 ムウはふと違和感を覚える。

、こっち向け」

「……え、泣いてない……?」

 記憶の中にある少女と、目の前の少女に差異がありすぎる。
 目を見開いた彼らに、は目を伏せながら言った。

「……これが実験の結果です……。
 昔はすぐ泣いていたけれど、なかなか泣けなくなったんです……あまりにも怖すぎることが続いたから。
 本当に怖いとき、悲しいときじゃないと涙は枯れたように出なくなったの……」

 『ようやく、偽者の涙は流すことはできるようになりましたケド』と言葉を締めくくった少女を、ムウはきつく抱きしめた。

「よしよし、つらかったよな……苦しかったよな……」

「おいコラ、それは俺の役目!」

「いいじゃないか、久しぶりに大きくなったを抱かせろよ」

「だからそれが危険なんだ! 親父たちと約束してるんだからな、は変な奴には渡さないって!」

「その言い方だと俺が変だって聞こえるぞ」

「聞こえて当然だろう、名指ししなかっただけありがたいと思え」

「……2人とも、何を言い争ってるんですか……」

 兄と幼馴染の言い争いを聞きながら、はため息をつく。が、逃れられない時が近付いてきている事実からは目をそらせなかった。



黒マント製作機から
 両思いになったと思ったら、ヒロインはまだ悩んでます。
 おかげで、キラは悶々とした1夜を過ごす羽目に(笑)
 ここで注意!
 これからフリーダム帰還まで、思いっきりオリジナルになります。


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