ロッカーを閉めたとき、ドアが開いてキラ先輩が入ってきたらしい。
 カーテンに写る人影の身長は私より少し高いぐらいだから。

「キラ先輩、着替えるのはちょっと待ってくださいね。渡したいものがあるので」

「渡したいもの? 僕に?」

 カーテンをあげると、そこにいたのはやはりキラ先輩で。既に上着を脱いだアンダーシャツ姿。

「忘れ物です。さっき、私の部屋に落としていったの、気がつきませんでした?」

 私が差し出した黒い布。先輩は『あっ』と短く声を上げて。

「気がつかなかったよ。ありがと、拾ってくれて」

「いえ。この軍服は襟が立ってますから、なかなか気がつかないものなんですよ。
 ただ、私は自分のものじゃないものだからすぐピンときただけで。
 でも、キラ先輩。
 これから数日は外さないほうがいいですよ、ちょっとしたおせっかいから忠告しておきますね」

 『それでは、先にデッキに行ってます』と、私はロッカールームから出ていった。





「外さない方がいいってどういうこと?」

 首をかしげながら備え付けの鏡の前に立つ。言葉の意味を確認した途端、僕の顔から血の気は失せた。

「……見ら……れ……た……?」

 喉にくっきりと残る、付けた彼女と同じ赤い痕。はっきりと鮮やかに存在するそれは、付けられて間もないことを如実に表している。

「……うそ……」

 あれだけ騒いで、ようやく好きになってもらえた少女と、昨夜は手を繋いで眠ったというのに。
 眠る前に自分は何と言った? に何と言って誓った?
 それを、僕は1日も守れなかったなんて。
 押し寄せてくる後悔に、足が震える。早く着替えなきゃいけないのに、デッキにむかわなきゃいけないのに。それなのに体は動かない。
 僕は自分がしてしまったことへの大きさに飲まれ、壁に背中を預けていなければ立ってすらいられない。
 は『ちょっとしたおせっかい』と言いながら、どんなことを思っていた?
 からかうような視線の先に、どれだけの侮蔑を含ませていた?
 あれだけ自分が好きだと騒いでいた相手が、自分がつけたものではない真新しいキスマークをつけていることに、本当に平気でいられた?

「やっぱり嫌われたよね……」

 ズルズルと壁を滑り落ちた。
 泣きたくても泣けないほどの後悔を抱えた僕は体を丸めて、その場から動けなかった。



 それからどのくらいの時間が経ったのだろう。

「先輩! キラ先輩ってば! いつまでもやってこないと思ったら……何やってるんですかッ!」

 怒号に気が付いてのろのろと顔を上げた僕の瞳に、頬を膨らませたパイロットスーツのが映った。

「第二戦闘配備かかってるんですよ。私たちパイロットは各MSで待機しなきゃいけないんですから。
 それなのに着替えもせずに座り込んで……。
 ブリッジからの再三の呼び出しにも気が付いていなかったんじゃないんですか?」

 『だから私が迎えに出されたんですけど』と、は僕の腕を掴んで引き起こそうとする。

「触んないで!」

 振り払った手。ぶつかった拍子に、ベンチから落ちるピンクのヘルメット。

「僕は……僕はに触ってもらう資格なんてない。それどころか君に気にかけてもらうことも……」


パシン。


 勢いはなかったが、乾いた音のせいで僕のセリフは途切れた。

「何を公私混同してるんですか。
 キラ先輩がここでうずくまっていた理由はわかりませんけれど、今の私たちは軍人なんです。
 待機命令が出たなら、自分のことより先に、それを最優先するべきでしょう?
 ……それとも、キラ先輩は自分の気持ちが落ち着いていないからって、ここにずっといますか?
 私にはキラ先輩が何を考えていて、何を落ち込んでいるのかは知りません。
 が、そんな集中できないままで戦場に出れば、確実に堕とされます。
 どうしますか、このままここでうずくまっていますか?
 それとも、仲間を守るために、自分の気持ちを落ち着けて銃を取りますか?
 今回はアスランさん達も必死になってきます。生半可な覚悟では太刀打ちできませんよ?」

 真っ直ぐにそらされることのない瞳。

「……ごめん。すぐに着替える」

 僕はゆっくりと立ち上がる。と、優しい笑顔が向けられて。

「ちょっと言い過ぎました。ごめんなさい」

 一礼すると、ぱっと身を翻した彼女は出て行った。まるで伸ばした僕の手から逃げるように……。



黒マント製作機から
 次は戦闘シーンに入れる……かな?

 これでいいと、他の人を見てくれたのを頭では納得しているのに、体はそうじゃない。
 先輩に触られたくない、逃げ出してしまう自分がわからない。 by:ヒロイン

 先輩と後輩、同じ軍のMSパイロットとしてしか、もう君は僕を見てくれないのかな? by:キラ


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