3.パ・リーグの球団努力
観客動員数を増やすということを、大きな目標として掲げているパ・リーグの各球団は、どのような努力をしているのでしょう。
まず、入場料に目をつけたのが、オリックスです。1999年末に安価な来シーズンの年間チケットを売り出しました。最も安い席は従来の10分の1以下という安さです。
従来、年間14万円以上した券を、1万円から3万円の値段で提供しました。これを、ホームでの試合数で割ると、一試合平均で500円程度の値段になります。野球に行き慣れている人であれば、この安さは魅力的に感じるでしょう。
結局、売切れには至りませんでしたが、反応は上々でした。
オリックスはこれまで、ビールをサービスする「ビアチケット」や外野席の自動販売機の設置など様々な企画を出してきました。
入場料収入が大きな割合を占めるスポーツビジネスでの価格破壊は下手をすると、自分の首を絞めることにもなりかねません。が、ある程度自分の身を切らなければ、成果は得られないのが現実なのです。
この、年間格安チケットは、2001年度から近鉄も発売しています。(オリックスの人は、近鉄も真似するんですよー、ははは。って言ってた(笑))
他に、オリックスが行っている、入場者数増加を狙う企画は、こんなにあります。
・ 大リーグを意識した、ボールパーク化計画。2000年から内野を総天然芝にし、こけら落としには、巨人とのオープン戦を用意。(外野は既に天然芝化完了)
・ フェンスをバックネット以外全て80センチとし、臨場感溢れる球場に。
・ 全席禁煙(屋外球場では日本初)<本当に、本当に、ありがたい。
・ 花火やドッグレースなどの試合前のイベント。
・ マスコットキャラクターを地元幼稚園に派遣してのイベント。
・ 球場に小さい子向けの遊具を設置。
・ 地元保育園や幼稚園に、マスコットキャラクターを連れての野球教室。(内容は、簡単なボール遊びなど)
・ 日曜日などは、子供限定や抽選でのサイン・握手会。
目立つのは、「子供」というキーワードです。オリックスはターゲットを「家族」とし、さらに、未来のオリックスファンを作る努力をしています。
本来、野球教室などは、既に野球を始めている小学生などが対象となりますが、オリックスは保育園や幼稚園など、まだ野球が分からない子供達にマスコットキャラクターというチームの象徴をアピールしながら、野球の楽しさを教えていこうとしているのです。
小学生などは既に贔屓球団がある場合が多く、ファン開拓の対象にはならないというのが、オリックスの考えです。
本来、野球という事業は流通業などと違い、ターゲットが絞りにくいものです。それは、他球団の営業の方も言っていました。
しかしオリックスはそこをあえて、「家族」と「幼年者からのファン開拓」に絞り、企画をたてています。
全席禁煙という屋外球場では画期的なことも、会社帰りのサラリーマンだけをターゲットにすることからの発想の転換だったといいます。
将来的には、子供が一人で来ても安全で楽しい球場を目指していると、球団事務所の方は言っていました。
短期間での大幅な入場者数の増加は見込まれませんが、現在地元神戸の保育園や幼稚園でのマスコットキャラクターの認知度はかなり高く、この子供達がオリックスを選んでくれれば、球団の狙いは成功したといえるでしょう。
一方近鉄は、藤井寺球場から大阪西区の大阪ドームに移ってから、西区と大正区を中心とした、地域密着のいわゆるノーマルな戦略を行っています。
99年10月新たに監督に就任した梨田監督は、積極的にメディアに出て、チームをひたすらPRしました。
年始には、地元商店街への年始訪問なども監督自らが行っています。
4月4日のホーム開幕戦の先発メンバーをファン投票で決めるという前代未聞のファンサービスも披露し、これには賛否両論あったものの、プロ野球ファンの感心を近鉄の開幕戦に向けささせた功績は大きいと言えるでしょう。
開幕前は、梨田監督や首脳陣ばかりが注目を集めましたが、シーズン途中には、四番の中村選手がホームランを量産。その豪快なスイングとスター性の高いキャラクターから人気を集め、ブレイク。CMに出演するまでになりました。
中村選手は、オリンピックにも出場し、認知度は大幅にアップし、来期の近鉄を引っ張る選手へと成長したと言えるでしょう。
セ・リーグにおいては特に、こういった選手を育てていくことが、優勝争いに絡むことと同じぐらいに大切なのです。
それでは、セ・リーグで二年連続優勝をした、福岡ダイエーホークスはどうなのでしょう。
強ければ、入場者数は増え、赤字回復に繋がるのであれば、ホークスは現在理想的な状態にあると言えるはずです。事実、観客動員数はパ・リーグだんとつの1位。
しかし、ダイエーの場合はネックが親会社にありました。
球団の赤字を負担しなければならない親会社のダイエーの方が、御存知の通り、負債をかかえて沈没しそうなのです。
球団身売り説は根強くあり、チームが強い今こそが売り時だという声は各方面から聞こえてきます。
しかし、ダイエーにとっても、ホークスは二連覇によって計算のできる子会社となりました、そう簡単に売るわけにはいきません。
福岡でのホークスの人気はすさまじく、最寄りの駅から徒歩20分という立地条件の悪さも影響なく、人々は球場に通いました。
ホークスは、名実共に福岡の市民球団としての地位を確立したと言えるでしょう。
しかし、それで簡単に球団が黒字に転じるわけもなく、撤退・売却の噂はなかなか消えませんでした。
そんな中、ダイエーが大幅な経営再建の計画を打ち出したのです。
ダイエー再建計画の骨子はこうなっています。
・ 持ち株会社のダイエーホールディングコーポレーション傘下企業を連結化し、優先株発行で1000億円超の資本増強。
・ 赤字店30店超の閉鎖と1000人規模の人員削減。2001年2月期決算で1300億円の最終赤字を計上。
・ 2002年度に経常利益200億円と有利子負債1兆3800億円への削減を達成。
・ 来年2月に臨時株主総会を開催し、高木邦夫顧問が社長に就任。
・ 中内最高顧問や鳥羽前社長らは取締役退任。
再建の決意が見える思いきった計画ですが(中内最高顧問などは、もう退任されてます)、ここに球団の売却はもちろん入っていません。
このダイエーホールディングコーポレーション傘下企業を連結決算の対象にする方針(簡単に言うと、どんぶり勘定にしちゃうわよん、ということ)で、球団とドーム球場、ホテルの三点はそろってダイエーの傘下にしっかりと納まる見通しとなりました。
ダイエー本体の幹部は、記者会見にて「球団はグループの象徴として持ち続ける」と改めて明言しました。
福岡ダイエーホークスは、ダイエーから年間15億円の広告宣伝費を受けるなどして支援を仰いでいます。
今後は初心にかえり、「地元密着」「ダイエーからの自主独立」を掲げていくことになりました。特に、ダイエーからの自主独立は、大きなテーマです。
たとえリーグ二連覇をしたパ・リーグ1の人気球団とはいっても、そのベーシックな考えが黒字転換への近道なのです。
既にダイエーは「地元密着」という方針で89年の球団買収による福岡移転以降、地道な活動を続けてきていました。
第一に、地元九州出身の選手の活用が上げられます。
二連覇を達成したメンバーの中でも、九州出身者は名を連ねています。
秋山(熊本県)、松中(熊本県)、柴原(福岡県)、城島(長崎県)、柳田(宮崎県)、渡辺正(佐賀県)、篠原(福岡県)、田之上(鹿児島県)といった具合で、徹底した印象を受けます。
近年のドラフト戦略でも上位指名には必ず九州出身者が顔を出していますし、福岡ドームでの選手紹介では、大型ビジョンに映る選手の顔写真に合わせて、出身県をアナウンスして、アピールをしています。
同郷であることの親しみを地元ファンに感じてもらおう、ということなのです。
さらに、地元の祭り「博多どんたく」などに連動した企画を行い、さらに地元に密着した九州の球団という姿勢を続けていこうとしています。
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