ルーファウス社長専用ベンツ内

『シンラー』の社屋から、阪神ドームに向かう車の中で、ツォンはルーファウスから一枚の紙を渡され、目を通すよう言われた。
「ここに書かれている選手の名は野球スカウトマンレノの手腕によって集められた強力な選手達だ、ツォン…」
 スカウトマンのレノはルーファウスがどこからか連れてきたうさんくさい赤毛の男で過去に何名も有能な選手をプロ野球界に送り込んだらしいが、その真偽はさだかではない。
 選手の採用については秘書のツォンに知らない場所で二人によって進められていたようである。彼にとってこれは初耳だった。
「これがあの『モーグリズ』の新メンバー」
ツォンは書類に目を通す。
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(新生、阪神モーグリズ選手)

【1軍】
ザックス(前 パリーグ ゴンガガファイターズ所属)
シド (前 セリーグ 中日ハイウインズ所属)
バレット(前 社会人野球 コレルマインズ所属)
ルード (前 セリーグ 広島タークス所属)
ティファ (前 米国女子プロ野球チーム プリティーズ所属)
エアリス (ティファと同じ)
イリーナ (現 ミッドガル家政短期大学部 硬式野球部所属)
ユフィ (現 ウータイ女子学園硬式ソフトボール部所属)
レッド13(昨年度全米フリスピーコンテスト優勝犬)

【2軍】
クラウド (前 パリーグ ゴンガガファイターズ(2軍)所属)
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「………」
 ツォンは眉間に3本の縦じわを寄せると、隣に座っている若社長の顔を見、力なく言った。
「社長〜〜〜〜〜〜〜〜」
低く美声と呼ばれるツォンの声から力が抜けている。
「しゃちょおおおおおお………」
ルーファウスがツォンを見る。
「何?」
きょとんとした顔を向けた。
「これ…選手…エアリス…あたりまでは大目に見ましょう。問題は……それ以下……イリーナは素人ではないですか」
「でも、女子大学野球ではかなり強いチームらしいぞ、そこ」
「じゃあ、そのユフィという……高校生も?」
「そう」
ツォンの書類を持つ手が震えた。
「社長……ソフトと野球ではジャンルが違うでしょう」
「似たようなものだ、球の大きさとなげ方が違うだけだ」
 ルーファウスはツォンの動揺を全く無視して車窓から、大阪の街を眺めた。
「このレッドですが……野球経験者ではない上に……人間ではないじゃないですか!!!!」
「レッドをはずしちゃだめだよう!!」
 突然ルーファウスが叫んだ。
「プロ野球のシーズンになったら、各選手のキャラクターグッズを売る予定でいるんだよ、キャラクターものに動物ってのは外せないんだようう!基本だろうう!!」
「あの、でも、」
「レッドがセフィロスの次にキャラクターグッズにしやすいんだ。これ、試作品…」
ルーファウスはアタッシュケースの中からがさがさと音をたててオレンジ色の犬の形をしたグッズをとりだした。
「『かみつきレッドくん』…これはレッドのプラ人形の口のところにステープラ(ホッチキス)の機能をつけたもの、OL向けね。そしてヤングなリーマンの皆様には『燃えよレッドくん』しっぽのところがライターになっている人形…」
「あーあ……」
「これは売れる……」
 鼻息荒く、自信ありげにルーファウスは言った。
『チョコボっち』のキャラクターで当ててから、これが彼の口ぐせとなっていた。
 ツォンはため息をついた。
「でも、グローブがつけられません」
「口でキャッチするさ」
「バットも握れません」
「口でくわえる形のミニバットを特注した」
「くああああー」
 ツォンは髪をぐしゃぐしゃと乱した。
「何を混乱しているんだツォン……」
「で…何故、人間のクラウドが犬に負けて2軍なんですか!!!」
「…2軍がいなければプロ野球とは言えないだろう。」
「2軍の選手をレッドにしてもかわらないでしょう!!」
ツォンの混乱につられたようにルーファウスの声がエキサイトしていく。
「だーかーらー、レッドはキャラクターものとして売り出すんだから、メディアに露出しなくてはならないんだ。試合に出ない2軍のキャラクターグッズなんて誰が買うのかい?ツォン……」
「しゃちょおおおおお」
 社長の暴走を止めることのできないツォンの悲痛な叫びだった。
 たまりかねたようにそれを聞いていた運転手が口をはさんだ。
「もうすぐ阪神ドームですよ」

 阪神ドーム.オーナールーム

 まだかすかに壁紙の接着剤の香りが残る広々とした新しいオーナールームの応接室にセフィロスとレノはいた。
玩具メーカーらしく、応接室のスウェーデン製のキャビネットの中にはその会社の製品であるキャラクターグッズが並んでいる。
「さすがは『シンラー』だな、自社のキャラクターを大切にしている。お、これは3年前に流行った『チョコボっち』だな」
「そうだぞ、と」
 セフィロスは展示されていた携帯用ペット育成ゲームを手にとった。
「あんたも知っているんだな、と」
「知っているとも……懐かしい…」
「彼女に頼まれておもちゃ屋の前で徹夜してゲットした組か?」
 セフィロスは首を横に振った。
「そんな馬鹿なことはしない。これにずいぶん稼がせてもらった」
 セフィロスはパッケージをはがし、『チョコボっち』の本体を取り出した。
スイッチを入れる。
ピー
 高い電子音がした。
「お……おい、展示品を勝手に……」
『チョコボっち』の液晶ディスプレイにはぶち模様の卵の絵が浮かびあがった。
セフィロスは口元をほころばせる。
「知り合いの玩具問屋と結託してこれを大量に買い占め、1980円税抜きの商品を露店で若いのに4980円で売らせた。東京、大阪、名古屋で大量にさばいてね……高い値段で即日完売して安全なブツっていうのはこれぐらいしかなかった。流行モノでこれだけ美味しい思いをさせてもらったのはこれが最初で最後ではないかな……あの頃は中古でも新品と同じ値段で需要があったからな……」
「……」
ぴぽぴぽぴぽ
 3分ほどたつと、卵から黒いひながかえる。それを知らせる電子音がした。
レノは目の前にいる白いスーツを着た男が暗い世界にいる人間であることを思いだした。
「あんたはワルだな、と」
「知っていて、こんな明るいところに誘い出したのはお前だろう?」
「………」
 すぐに飽きてセフィロスはそれをキャビネットの上に戻す。
また別のものに興味を示した。
「これは……『洒落ぱんだ』…最近、女子供に人気のあるキャラクターだな」
指をさす。
「まさか買い占めていないだろうな……」
「関連グッズが多く出すぎて『チョコボっち』のように買い占めはできないな」
セフィロスはキャビネットの上にずらりと並べられた化粧コンパクトを片手に持つパンダのぬいぐるみの一群を見ると、ひとつだけかわった形のぬいぐるみをつまんだ。
「それは試作段階で量産してはいない……『洒落ぱんだ』のぬいぐるみ帽子だ、と社長…この球団のオーナー、ルーファウス様が自ら型紙をデザインし、ミシンで縫って作った試作品だ、と」
 バレーボールくらいの大きさのパンダのぬいぐるみだが、腹の部分が空洞になっている。そこに頭を入れるようになっているらしい。
セフィロスは前髪を押さえつけるようにしてその帽子をかぶり、鏡に自分の姿を映した。
ぽろ
すぐに押さえつけられた前髪がもとに戻ろうとする力で押しやられ、帽子は彼の頭から地に落ちた。
「ぷー、くくくくく」
 レノが笑いをこらえているとセフィロスは鋭い目つきで彼を威嚇した。
 仕方がないので後頭部を覆い隠すようなかぶり方で帽子をかぶった。
 満足げに鏡の中の自分を見ると、セフィロスは振り向いた。
 レノは笑いを再びこらえながら言った。
「セフィロス……かぶりものが似合うな、と」
 セフィロスの頭上には振り落とされないよう、しがみついているように見えるぬいぐるみのパンダの姿があった。
「くだらない」
セフィロスはそのパンダをすぐに外した。
「オーナーは遅いな……」
 その言葉が終わるやいなやルーファウスが入ってきた。
「初めまして」
 ルーファウスはセフィロスの腕をつかまえ、手を握った。
「私がここの球団のオーナーのルーファウスと申します」
「…」
 セフィロスは何も言わない。
「今回、貴方をここにお呼びしたのは…」
 ツォンとルーファウスが見守るなか、二人の会話が始まった。
「……今回の新生『阪神モーグリズ』の監督になっていただきたいのです」
「……断る…」
 セフィロスは間髪入れずに言った。
「どうしてですか?」
 ルーファウスは問いかける。
(あれ、と?)
 レノは首をかしげる。
 あの赤い瞳の黒髪の男を見て、セフィロスは言っていたではないか。
(ここのチームの監督になる……)
 その決心は早くも崩れ去ったのだろうか。
「こんな弱小球団では、監督のギャラもたいした額を出せないだろう」
「な………」
 ルーファウスは口篭もる。
「俺のような監督未経験の人間を雇うのだ、金額も低めに設定するつもりでいたのだろう。そんな金額では俺は監督をしない……」
「そんな!」
(図星………)
 レノははああとため息をついた。
 実はザックス、シド、バレットといったギャラの高い選手を獲得するために予算の金額のほとんどが投じられ、監督のギャラは低めに設定してあったのだ。
「あんな人選をするから……」
 秘書のツォンが耳元でルーファウスにささやく。
「監督の年棒を全選手の年棒をたした金額と同額で手を打とう。そのかわり、その金額を払ってくれたら、どんな手を使っても阪神を優勝させてみせる」
「自信があるのか、未経験のくせに……プロ選手としての経験も浅かったのに……」
 ルーファウスは叫んだ。
 セフィロスは余裕の笑みをもらす。
「ふん………経験がものをいう世界ではないことは俺がよく知っている。別に俺が信じられないのなら、いい、今のカジノ経営でも十分すぎるほどの生活はできる」
「待て、話をしよう、話しのできない人間ではないだろう…セフィロス」
 ルーファウスが後ろを向いて出ていこうとするセフィロスに声をかけた。
「選手の年棒全部とあなたの年棒と同額というわけにはいかないが……」
「駄目だ」
 ツォンはルーファウスとセフィロスのやりとりを見ていた。
 監督経験のない人間と、プロ野球チーム運営に慣れていない新オーナーの無謀すぎる会話……。
 はなからこんな買収話に手を出さねばよかったのだ。
 自分がこの話に最初から加わっていればこんなリスクはたやすく避けられたのだ。
 しかし、ルーファウス社長が自分の知らないところで、勝手に進めてしまった。
「あのう……」
 ルーファウスは言葉につまる。
「譲歩案を考えましょう、セフィロス……」
「俺に譲歩案なぞない」
 すべてが社長の独断が悪いのだ。
 ぷち
 ツォンのかなり丈夫だったはずの堪忍袋の緒が切れた。
 ツォンが拳を握り締めた。
「社長」
 彼の言葉は二人の喧騒の中に消えていった。
「社長」
 彼は声のトーンを上げた。二人が彼を見る。
「何、ツォン、交渉の邪魔をするな」
「後のことはすべて社長に任せます、ですので、私とこのレノを退出させてください」
「な………」
 ツォンはつかつかとルーファウスに近づき、言った。
「いつもそうだ、社長あなたは、私の知らないところでプロジェクトを推し進め、それがやばくなると、私にすがりついてくる」
「あの………」
「もう、私はあなたの尻をふいてまわるのは嫌です」
「ツォン」
 くるりと踵を返すとツォンは出て行く。
 その後ろにレノも従った。
「ちょっと」
 ルーファウスは叫んだ。
「ふふふふふふふ」
 不気味な笑い声が聞こえてきた。
「社長………」
 立ち尽くすルーファウスの背をセフィロスがはがいじめにした。
「はう」
どう
 二人は三人がけの革のソファに倒れた。
「お前みたいな毛色の人間は嫌いじゃない」
「……」
 セフィロスはルーファウスの白いスーツの上着を剥ぎ、床に捨てた。
「理性が駄目だったら、体に交渉してみよう」
 ルーファウスがその下に来ていた黒いセーターをはがす。
「年棒の交渉をね……」
「やあああ!!!!」

 同じ頃、ツォンはオーナールームのドアにぴったりと耳をあてて、中の様子を聞いていた。
「しくしくしく、ゆ……許してください社長…これも試練です。あなたが成長していくための……」
 厚さ2センチの間からわずかに聞こえてくるものはルーファウスの悲鳴のみで、ツォンはその悲痛な声に涙をこぼした。
「そして、大人になってください…決して怪しい人間に近づいてはいけないと、ルーファウス様」

 ルーファウスの白い肢体がセフィロスによって弄ばれる。
 あまりにも、張り上げる声が大きいため、セフィロスは彼の口の中に自分の人差し指と中指をつめた。
 すぐにその指をつたい、彼の唾液が落ちた。
 ルーファウスを後ろに向かせ、まだ何も知らない、秘所を探し当てると、何の予兆もなく、セフィロスは自分の体を前に乗り出した。
「んんんんんんん」
 尋常ならぬ鋭痛にルーファウスは顔を歪ませた。
 体を引き、再び、乗り出す。
 その波のような振動にルーファウスは苦痛とともに快楽を覚えた。

 一時間経過…。
 オーナールームの扉が開き、セフィロスが出てきた。
 洒落ぱんだの帽子を手でもてあそぶ白いスーツの非合法カジノのオーナーの姿をツォンが恨めしそうにながめる。
「決定」
 セフィロスはタバコを取り出し、火をつけた。
「俺の年棒は全選手の年棒の合計額と同じ金額、『阪神モーグリズ』のチーム名を改名、本日より、『阪神セフィロス』にする」
「んな、無茶な……」
「社長兼オーナーに聞いてみろ、彼もそう言うだろう、そして一部人事異動在り」
「人事異動?」
「モーグリズの着ぐるみマスコットを廃止、中に入るはずだった、人間をマスコットガールの集団の中に異動する」
「はあああ?」
 驚くツォンにセフィロスは自信あるげな笑みをもらす。
「今日から…俺は『阪神セフィロス』の監督だ。よろしくな、ツォン」

 ドームの中をひととおり、見学した後、マウンドにおりる。
 プロ野球のシーズンが開幕すればここはかなりにぎわうことなるだろう。
 セフィロスは自分の球団のマウンドを見回した。そこには、一人で居残り練習をしている、ヴィンセントがいた。
「遅くまで、大変だな」
 ラジカセの音に合わせてもたもたと体を動かしていたヴィンセントが気がついて、セフィロスの元にかけてくる。
「あの………もう頭……大丈夫です。気にしないでほしい」
 言葉少なげにヴィンセントは言った。
「それならばいいのだが」
 セフィロスはヴィンセントと向かい会う。
「今日から………俺がこの球団の監督になる。よろしく」
「あ、…監督さんでしたか、よろしく」
 ヴィンセントは右手を差し出した。
 セフィロスも右手を差し出し、握り返す。
「格好いい監督さんでよかった」
 ヴィンセントは嬉しそうな顔をして言った。
 セフィロスはヴィンセントの頭に、洒落ぱんだの帽子をのせる。
 キャラクターのパンダが頭にしがみついているような形になるぱんだ帽を見て、セフィロスは笑った。
「かぶりものが………似合うな……」
「?」
 ヴィンセントは首をかしげた。
「まあ、いい、それをお前にやろう」
「ありがとうございます」
 帽子を受け取るヴィンセントに背をむけセフィロスは去っていった。
                                     (終)
次回「メテオ監督伝説」
『伊豆で選手合宿』とうとう、あのアクの強そうな球団メンバーがそろって…

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