登山者達の足跡(第5回)
 アルバート ロストギアさんからのレポートです。(00/01/27)

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一夢庵〜名古(屋)山登頂日記第壱巻本編〜
第壱巻〜仇討〜
/プロロ−グ/
(いよいよ、奴との決戦か.........)
俺は、一人小さく呟いた。
「お嬢、無理に俺に付き合わなくてもいいんだぜ。
これは俺自身のけじめなんだからな......」
「何言ってんすか、ギア兄。水臭いですよ。」
そう返事を返してきた人物は、某チャットで知り合った仲間で,
お嬢とよばれている男である。
 ちょうど、前日開催された冬コミ初日にオフライン上で(偶然に)会い,
しばらく話しているうちに意気投合し、今回の登頂に参戦してもらったのである。
本来なら、俺一人で挑戦するつもりだったのだが、今回の登頂の話をしたところ、
「面白そうですね。自分も行っていいですか?」
と、言われつい返事をしてしまった。
更なる被害者を増やすことになるかもしれないと言うのに...。
「それじゃ......行くぜ!」
こうして、名古屋の山への初登頂が始まった。


/本編/
 奴の存在を知ったのは二年前の夏頃のことだった。
 弟が名古屋で開催された某オフ後にかけてきた留守電に残された謎のメッセ−ジ、
「名古屋の山に気をつけろ........」
 その言葉が気にかかった俺はその後の調査で「名古屋の山」と言うのは、
名古屋にある喫茶店の通称であること、そしてその店に存在するスパゲティに
撃沈したと言うことを知った。

 俺の家系は代々麺類好き(自分はラ−メン好き)が特徴なのだが、
その特徴を最も色濃く受け継ぐ弟が玉砕したスパゲティとは、一体......
(弟よ、おまえの仇は俺が取る!)
 そう決意した俺は、独自の調査網によりその店の所在地などの情報を集め、
今回の登頂へと踏み切ったのであった...。


「うーむ、どうやら道に迷った様だな.........」
山への登頂を始めて15分。いきなり遭難してしまった。
 喫茶マウンテンへの大体の道は記憶していたのだが、
詳しい位置までは覚えていなかった俺達は、道に迷ってしまいしばし立ち往生。
「ギア兄、あそこに交番があるから行ってみましょう。」
「ああ。」
 お嬢の言葉に促され、とりあえず道を聞きに交番へと足を運んだ.....。

 道順を聞いた俺達は再び歩き始めたのだが、交番で聞いたあの一言が俺の心に
一抹の影を宿していた。
「山へ行くのか......気を付けな。あそこは............」
(一体、どんな店なんだ?店自体は其程怪しいとは思えないのだが?
最も、今更考えたところで何も始まらない。 行ってみればわかるだろう。)
そんなことを考えつつも歩くこと15分、ようやく目的の店に到着した。

「確かに........山、だな。」
 その店構えを見て疑問に思っていた俺だったが、
店の左側にある看板を見て苦笑してしまった。看板に描かれた山の絵。
これが名古屋の山と言われる所以だったとは、な。


 目的の店の中は薄暗く、造りも喫茶店というより山小屋に近い。
 店内には暖炉があるものの飾りとして使用されていないようであった。
(思ったより、混んでいるな)
 そろそろ午後1時半を回ろうとしているのに、店の中は予想していたより
客がいたことに驚いたものの、とりあえず空席を探す。
(奥の方なら空いてるかもな)
そう思った俺は、店の奥へと足を進めた。予想通り、店の奥にはまだ空席があった。

 とりあえず席に着き、一息ついたところでメニュ−を見回す。
(なるほど、品揃えはなかなかのものだな。しかし....変なメニュ−も多いな)
 噂に聞いていたもののまともなメニュ−の中、変わりダネのものが多く存在している。
 落ち着いた頃、店員が注文を取りに来た。
 俺とお嬢は、ここに来る前から決めていたメニュ−の名を店員に告げる。
「甘口バナナスパと甘口イチゴスパを....」
 店員が注文を取り終えてカウンタ−の向こうに消えていったのを確認した後、
「お嬢、本当に後悔しないだろうな。」
 幾度と無く行った質問をもう一度繰り返す。
「アレに挑戦して撃沈していった人間は数知れない。もし、攻略できても...」
「大丈夫ですって。これでも甘いものは得意ですから。」
俺の発言を遮る様にお嬢はそう告げる。
(頼もしい奴だぜ。全く......)


 注文してから待つこと10数分、ようやく注文した品が運ばれてきた。
(こいつは予想以上に厄介なシロモノだぜ)
 暖かいスパゲティにバナナと一口サイズのチョコがちりばめられ、
さらにその上からホイップクリームがかけてあるというシロモノである。
(確かに匂いがキツいが、勝てねぇ相手では無さそうだな....
 あいつ(弟)なら攻略できそうなものだが.....?)
 速攻で食べれば完食出来る...そう思った俺は一気に畳み掛けるが如く、
そいつを攻略し始めた。
(まずホイップクリ−ムを一気に平らげ(楽勝)、
 そしてバナナとチョコが熱で溶けない内に片付け(余裕)
 残ったスパゲティの麺はのんびり食べればいいだろう
(量はあるが、食べきれない量ではない))
 ここに来る前に、某HPでどういうシロモノかは事前に調査してあった俺は
幾度と無くシミュレ−ションを繰り返していたこともあり、完全勝利を確信していた。
 が、しかし、現実は違っていた。

 ホイップクリ−ムを平らげ、チョコ&バナナを片づけるところまでは
順調だったのだが、ここに来て思わぬ誤算が生じた。
(何じゃ、この麺の甘ったるさ&味は.........)
 そう、麺には砂糖が練り混まれているらしく、シャレにならないくらい甘い。
オマケに麺にはバナナ油(?)が絡まってこの上ない味を醸し出していたのだ。
 食べ始めは勢いも手伝って平気で胃に収めることが出来た俺だが、
1/3を食べ終えた辺りから異変が起こった。
(胃が.....受け付けない.......?)
 本人は何とかして食べようとするが、胃の方が受け付けないばかりか
吐き気までしてくる。口の中で拡がる、暖かいバナナの香りがそれを増大させる。
(なるほど、奴が玉砕したのもこれで納得できるな)
 別のスパゲティを注文したお嬢の進行具合が気になった俺は、そちらに目を向けた。
それほど食べ終わってはいないだろうと思っていたが、その予想は見事に裏切られた。
こちらが、悪戦苦闘している間にお嬢は既に2/3を食べ終えていたのだった。
「あれ、まだ結構残ってますね。大丈夫ですか?」
(う−む、恐るべしお嬢)
などと、考えている間にも時間は刻々と過ぎていく。
(マジで食わなきゃヤバいぜ)
 とりあえず、水を使って胃の中に流し込む作戦で食べ続けていたものの、
残り1/3の時点でかなりピンチになっていた。
 後少しで完食と言うところまで来ているのだが、スパゲティから発せられる
バナナの甘ったるいニオイが俺の残された食欲を削っていく。
(くそ、これまでか.......)
俺の頭の中で敗北の2文字が浮かび上がる。
(ん?待てよ。確か、嗅覚を消せば味覚は麻痺するハズ)
 味覚というのは以外と曖昧なモノで、視覚と嗅覚を無くせば簡単に麻痺させられる。
そのことを思い出した俺は、一嗅覚を一時的に遮断させ、一か八かの賭けに出た。
(これなら........いける)
確信した俺は、残りのスパゲティを一気に胃の中に押し込んだ。


 それから5分後、目の前には空になった皿があった。
(何とか.....攻略........出来たか.......グフッ)
共に登頂していたお嬢も攻略に成功していた。
「やりましたね、ギア兄。弟さんの仇もとれたようですし。」
「ああ....」
お嬢の言葉に俺は力無く頷いた。
確かに俺は弟の仇は討てた。が、しかし完食したその代償はあまりにも大きかった。


/エピロ−グ/
 登頂に成功した俺達は、怪しい足取りで駅に向かっていた。
「何とか、攻略できたな..。」
意識がかなり朦朧とする中、お嬢に向かいそう言った。
(.....さすがに、負担が大きすぎたか.......)
 あのスパゲティを攻略したという事実に目をを向けた場合、俺が甘党だと思われる方も
おられるかも知れないが、俺は甘党と言う訳では無く、むしろ苦手な部類に入る。
その為、体への負担は相当なものだった。
「ええ、何とか。アレ食べた影響で眠気が無くなったというのが、最悪ですけど。」
 冬コミの原稿書き等で2日以上徹夜の続いていたお嬢には厳しいのではないかと
思ったのだが、彼はその予想をいい意味で裏切ってくれた。
「しばらくは、イチゴが食べれそうにありませんね。」
「ああ、俺も一ヶ月はバナナを食えそうにないな。」
正直言って、当分バナナは見る気が起きそうにない。
「でも、自宅に帰った時に丸ごとバナナが買って置いてあったらどうします?」
お嬢のその一言に思わず俺は
「猛ダッシュで逃げる(爆)。つうか、考えたくない。」
の一言で返したものの、余りにも恐ろしい光景が頭をよぎってしまった。
「そういうお嬢こそ、自宅に帰ってイチゴショ−トがあったらどうするんだ?」
との俺の問いにお嬢はただ一言。
「多分、食べます(笑)。」
その返答に思わず苦笑する俺に、気付いたかどうかはわからないが、
「今度はジャンボパフェに挑戦しに行きませんか?もちろん日を改めてですけれど。」
「......考えておこう....」
力無く答えるのが精一杯だった。
「今度、別の人間も連れていきませんか?」
「いいな、それ。で、誰を連れていく?あ、(名前出すとヤバイので放送禁止)達は
却下な。連れていったら後が怖いからな。」
 冗談を交えながら、第二回目の登頂に向けての会議を始めつつ、
考えていたことはただ一つ......
(次は、まともなメニュ−を注文しよう......)
「ギア兄、聞いてます?」
「ああ、済まない。ちょっと考えことをしてたんでな。」
「で、次の登頂の日程ですが.........」


かくして、山の初登頂&仇討ちは終わりを告げた。
が、これからも俺は何人もの遭難者を見ることになるだろう。
そして、仇討ち...(に行くのか?俺)






今回の登頂参加者名簿
参加者:2名(ギア兄(初)、お嬢(初))
登頂メニュ−:ギア兄(甘口バナナスパ)、お嬢(甘口イチゴスパ)
帰還者:2名(ギア兄、お嬢)
遭難者:0名





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2000/01/27 作成 越後屋善兵衛 zetigoya@dream.com