住宅施策を考える/日本建築学会東海支部都市計画委員会 住宅部会
第5回部会 「津島市の中心市街地」 [1999. 9.28]
参加者:19名
1 自己紹介・書記指名
2 前回議事録及び豊田市見学記録について
各自添付資料にて確認、内容に意見があれば後日、MLにて述べることとする。
3 津島市の中心市街地について
●津島市概要
- 津島市は、名古屋市の西方(名古屋駅から15km)に位置し、名古屋市とは名鉄津島線、主要地方道名古屋津島線で結ばれており、名古屋市と至近の位置にある。
- 津島市の歴史は古く、中世以来、佐屋川、天王川の川湊、伊勢路の渡しとして栄え、河川の機能が失われた今日でもその歴史の名残を残し、歴史的町並みと伝統のあるまつり(尾張津島天王まつり、尾張津島秋まつり)を有している。
- 津島市の人口は65,290人で、世帯数は21,812(H11.4.1現在)。海部津島地域の中核都市であるが、人口集積は小さい。人口は高度成長期に急増した後、停滞していたが、平成2年から6年にかけてやや増加した。近年の人口移動は、県外は転出超過、県内は転入超過であるが、佐屋町・佐織町に対しては転出超過である。名古屋市からは年間400〜600人程度の転入で、人口急増の主要因は名古屋市からの転入である。転入者の年齢は、30〜64歳が多いが、平成5、6年については20歳代が多かった。65歳以上の人口比率は14%で、高齢単身、高齢夫婦世帯が増加している。また、単身世帯は増加しているが、県内比率からするとファミリー世帯は多い。津島市の昼夜間人口比率は100%を下回り、流出超過の状況にある。名古屋市への通勤・通学が全流失人口の半数以上を占め、経年的にも昼夜間人口比率は低下し、名古屋のベッドタウンとしての性格が強まっている。
- JR関西本線の利用客は増加しているが、名鉄津島線の利用客はそれほど大きな変化はみられないが、若干減少している。減少要因としては、通学客の減少があげられる。
- 持家率は約70%と高く、また規模は約130m2と大きい。一戸建率は約70%と高いが、近年共同住宅も増加している。このうち6階以上の比率が約50%と高く高層住宅が建てられるケースが多い。平成2年〜6年にかけての人口増加は、これら共同住宅居住者の増加が要因といえる。
- 西部に市街地が形成され、東部には農地が広がっている。既成市街地内に繊維工業の工場が点在しているが、産業構造の変化の中でこれらの工場からマンションやスーパー銭湯等への土地利用転換が進んでいる。
- 地域の魅力的な資源には次のようなものがある。
・尾張津島天王まつり、秋まつり、鯉の包丁式などの伝統行事
・津島神社、貞寿寺、興禅寺、瑞泉寺等の寺社仏閣や堀田家住宅(国重文)、氷室家住宅(市重文)等の伝統的な建造物
・市民の取り組みとして天王文化塾や郷土史研究会(からくり等)、食べリンテーリング、津島ルネッサンスフォーラム等がある
・市民の憩いの場としての天王公園や天王川
・お茶室ロードや古い町並み
・古くからの造り酒屋がある(割田屋酒造、長珍酒造)
・尾張津島藤まつり、桜まつり
・第10回 あなたの街の景観アイデア(津島市中心市街地地区)への取り組み |
● 中心市街地地区
- 市街地は、市民の憩いの場である天王川公園や歴史のある津島神社や町並みが残っている駅西部地区と愛知県海部総合庁舎、市役所等の公共施設が立地している新市街地として開発ポテンシャルの高い駅東地区とがある。
- 東部地区では人口増加、西部地区では人口減少の傾向がある。
- H7年の国勢調査によれば、津島市の高齢化率は12.8%(現在は14%)であり、中心市街地の駅西地区を中心に高齢化が進行している。このため、中心市街地地区では子供会が成立しないところもでてきている。
- 尾張西部では高い商業力を誇っていたが、小売販売額は減少し、周辺都市に比べて相対的に商業力が低下している。
- 商業集積の規模や市民の買い物傾向から、津島の商業の中心は依然として駅前地区にあるといえるが、人口増・開発整備の動向から駅東地区の方に移行していくことになると考えられる。
- 基本的な経営努力を行い、今後も取り組んでいこうとしている店舗は4割あるが、経営が順調な店舗は1割であり、将来の経営に期待している店舗経営者は4分の1にとどまる。
- 津島市第3次総合計画(2001〜2010年)を策定中である。策定の方向性としては、市民参加、職員参加による計画原案づくりを基本とすることや「交流」をキーワードに津島衆とつくる交流の舞台「津島湊」を将来像とし、市民と行政とがパートナーシップをとりながら進めていくことを指向している。このために、新世紀デザイン市民会議(市民の意見や要望を反映させた市民主体のまちづくりを進めていくために、平成10年10月から同11年6月の期間に会議を10回開催し、提言をとりまとめている)や市役所若手デザインチームによる検討会(市役所職員デザインチームが「つながり交縁をつくろう」、「市西部活性化へのシナリオ」の2つの分科会をつくり、市民の交流拠点および中心市街地の特性をいかしたまちづくりのあり方の報告書を平成11年7月にまとめている)が開催されてきた。
- 文化施設が駅西部地区に偏っている。市民の利便性を考慮した公共投資のバランスを考えていくことも重要な課題となっている。
- 町並み保存のあり方や方向性については現在何も検討されていない。何を基準にどのような形で残していくのかを決定し、方向づけをしていく必要がある。
- 住宅施策の位置づけがはっきりしていない。
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4 意見交換
●中心市街地の範囲・現状
○ 中心市街地をかなり広く捉えているが、もっと狭いエリアになるのではないか。
◆ 吸引力のある商業地という観点からこのエリアを中心市街地として捉えている。天王川公園や茶室ロード、寺院や古い町並み等も含めて考えたいという意図から大きめ捉えている。
○ 市街地地図に工場のマークが多いが、現状はどうなっているのか。
◆ 従来は織物や染色工場であったが、現在では廃業して操業していない工場が多い。昔は繊維業がさかんで、この影響で富んでいたため、下水道整備が早くから進んだという経緯がある。廃業した工場跡は、今後難しい問題になってくると思う。 |
●人口・世帯の動向
○ 中心市街地の人口調査はかなりラフにとられていると思うが・・・。
◆ 確かにそれほど厳密なものではない。
○ 人口増加の要因は?
◆ 駅周辺や農地、工場跡地に建設されたマンション居住者によると考えられる。
○ 高齢化が進んでいるのに人口が増えてきているのはどんな要因か。
◆ 西部地区に高齢者が住んでいて、東部地区に他の地域から新しい世帯が入ってくる。彼らはマンション居住世帯であることが多い。
○ マンション入居者はどのような階層か。
○ 名古屋のマンション価格が他の地域に比べて高かった時期(H2、3年)に、名古屋では購入できないが津島のマンションなら購入できるという理由から、名古屋近辺から転入してきたのではないか。人口増加もこの頃と重なる。
◆ 確かにH2、3年頃に蟹江インターのそばに価格的にあまり高くないマンションが建つようになった。これらのマンション居住者は、名古屋から転入してきたと考えられる。しかし、最近駅西地区に建ったマンションの購入者は、津島市内の人が多い。 |
●市街地・商業活性化の方策
○ 観光とあわせて長浜のような商業地としてやっていけないか。それほど難しくないような気がするが・・・。
◆ 駅東地区の商店街について言えば、駐車場がある店はいいが、スーパー(ヨシヅヤ)が移転する予定の駅西地区の商店街は壊滅状態になっている。いろいろ考えないと難しい。
○ 歩いて楽しめるような空間づくりはできないか。
◆ 商業者の力だけでは無理で、商業者・市民・製造業者も含めてみんなで取り組まないとそういった空間づくりはできないと思う。
○ 津島市には魅力的な素材が数多くあるので、これをいかすことはできないのか。生かしていくエネルギーはある気がする。市民が津島市にある文化財を知らないのなら、それを積極的にアピールしていくことが必要だと思う。
○ 津島のまちの発展過程を年代を追ってまとめる(モデル図化)とまちのイメージがふくらみ、今後のあり方を考えるヒントになると思う。
○ お茶室や民家を開放して、そこを地域の拠点(囲碁センター、ボランティアセンターなど)にして各種イベントを行い、多くの人を集めるしくみをつくり、地域住民の活動を活性化していってはどうか。
◆ 現在、天王文化塾が情報発信やコミュニティの場となっており、講演や勉強会等の企画や立案もしているが、これらの案を都市計画課や住宅課などでつくってやっていかなければならない。
○ 小さな活動でもよいから、同時多発的に多くのイベントを設けてはどうか。 |
●景観・基盤整備・住宅政策
○ 道路拡幅が予定されている都市計画道路(名古屋津島線)については、もう少し見直しをしていくべきではないか。このままの計画では、いちばんよい本町ロードを分断してしまうことになる。
○ 津島市の紹介スライドのなかに、民家を町並みにあわせて修復しているケースがあった。個人の考えで行われたとのことだが、このようなケースは次からはでてこないのではないか。こういったケースを広げていくためには、資金を補助したり、無利子で融資したりすればよいのではないか。
○ 基盤整備が進んでいない中で、ベッドタウンとして位置づけをするのはミニ開発が進み、不良住宅化していくことになり、まずいと思う。
○ 商店街に駐車場がないからだめだという話があったが、とにかく基盤整備をしないとだめだと思う。
○ 6階建て以上の共同住宅が多く、これらが景観を悪くしている。計画づくりはよくされているが、土地利用がきちんとしていない。
○ マンションはもうこれ以上売れていかないのではないか。景観を考えて、マンション建設はやめていこうという考えはどうか。このまちの住宅は、マンションよりも低層密集型の方があうのではないか。 |
●高齢者への配慮、福祉政策
○ 高齢者用の施設はどの地区にあるのか。
◆ 西小学校付近に総合保健福祉センターを建設中である(H11年度中にオープン予定)。市全体の位置からすると西側の辺鄙な位置になる。
○ 高齢者が増加している割には、高齢者福祉政策があまりないように思うが・・・。
◆ 現在、介護や福祉に関する地域サービス業務等を検討している最中である。
○ 高齢者が気軽に外出できるしくみづくり(巡回バスなど)は。
◆ 考えていないわけではないが、コストがかかることやその経路(公共性、中立性といった観点)等、難しい点が多い。今年、10月31日に商工会議所の産業フェスタというイベントで巡回バスを試験的に運行する予定である。 |
●そのほか
○ 中心市街地に住んでいる人たちは、そこに住み続けたいと思っているのか。
◆ 住み続けたいと思っていると思う。自分の場合、天王川公園に対するあこがれをもっているので、年をとったら天王川公園の近くに住みたいという気持ちがある。天王川公園付近は、朝散歩をしている人も多く、近くの喫茶店は朝5時から開店してもやっていける。
○ 津島天王祭りや秋祭りは、住民の手だけで行われているのか。
◆ 住民だけでは無理になってきている。まつりの日だけ、遠くから津島に帰ってくる人がいて、彼らとまつりを行っているのが現状である。
○ 津島では住民間に貧富の差が大きいように思う。
○ 貧乏な人の中に、まちづくりを考えていくエネルギーのある元気な人はいないのか。
◆ お金持ちの人の方がパワーがあるように思う。天王塾のメンバーもお金持ちの人が多い。また、町中の人はまちづくりの必要を感じているが、そのまわりに住む人たちはその必要性をあまり感じていない。立地的に名古屋に近いことから、津島の文化等が朽ちても、名古屋にいけばよいと考えている人もある。 |
5 見学会の予定
日時:平成11年10月2日(土) 10時
集合場所:名鉄津島駅改札口
6 施策実験「田原町まちかど交流サロン(仮称)」の実施について
7 次回の予定
特別企画「まちづくり講演会−市民が主役!豊中のまちづくり」 豊中市役所 芦田英樹氏
日時:平成11年10月23日(土) 午後2時から
場所:(社)地域問題研究所 会議室
■ 住宅部会後の感想から ■
●津島市の中心市街地の魅力を知らせよう
津島市の中心市街地の歴史的資産は、歴史的町並みを売り物に観光で食っている多くの地方都市よりもはるかにすばらしいと思います。社寺や文化財などが豊富であるという都市は多くありますが、天王まつりなどの伝統行事やお茶室などは他ではあまりみられません。お茶室ロードなどは、そのネーミングも含めてもっとどんどんPRすべきです。
しかし、名古屋市への近接性ゆえに寂れゆく地方都市のような危機感がなく、名鉄のPRもほとんどない。九州ではJR九州がどんどんPRし、観光客を集める役割を果たしています。行政と鉄道業者、地元が連携し、津島市の中心市街地の魅力を広く知らせることが重要ではないでしょうか。
もっと重要なことは、津島市民にその魅力を伝えること。合併でできた町ゆえに、中心市街地が全市民の愛着の場となっておらず、中心市街地にお金を投入する事に対する不満があるということは問題です。東部の地域は名古屋市に顔が向いてしまっているのでしょう。市民に津島の文化を伝えるという「天王文化塾」のとりくみは津島市の今後を決める大きな役割を持っているといえるでしょう。
●歴史的町並み地区の商業地域は見直しを
歴史的町並みに高層マンションが建設され、景観を阻害しています。天王通り沿いが商業地域に指定されていますが、現状の土地利用から見て、商業地域としておく必要があるかどうか疑問です。
商業地域であると日影規制がかからないため、高層マンションの建設も可能となり、周辺の住環境に与える影響はきわめて大きいものがあります。津島市ぐらいの都市では、中心市街地は商業に特化した場所ではなく、居住の場としてその住環境を良好なものとすることが重要ではないでしょうか。中心市街地の居住支援という点でも、用途地域の見直しが必要だと思います。
●持続的な取り組みの展開を
食べリンテーリングをはじめ、市民のとりくみとしても興味深いものが多くあります。残念なのはそれが継続しないことです。ぜひ食べリンテーリングは復活してもらいたいものです。
持続的な取り組みとするためには、ボランティアばかりでは動かないので、商業者が商売として儲けるしくみをつくることが重要ではないでしょうか。あまり手間をかけずにやれること。大きなものをやって単発で終わってしまうのではなく、小さなものでも継続してやることの方が意味があると思います。
伝統行事に市民の手作りのイベントが加わり、毎月何らかのイベントが行われているようになると、市民や観光客の関心も高まるのではないでしょうか。
●津島市の住宅施策は?
津島市の人口が増加したのは、バブルによる住宅価格の高騰に対して安価な住宅を求めた人が名古屋市から移転したのが大きな要因です。3年間で1,000戸も着工された住宅が津島市の良好な住宅ストックの形成につながっているのか。
バブル期に津島市で供給された分譲マンションの規模は60平米後半から70平米前半であり、決して満足できる規模ではありません。
また、行き止まり道路によるミニ開発が多いと指摘された分譲戸建は土地面積が50坪程度、建物延床面積が30坪程度と名古屋圏の平均よりも小さいものが多いようです。価格重視で供給された住宅が、今後の住宅需要減の中でどうなってしまうのか。市全体の住宅住宅施策としても真剣に考える必要がありそうです。
□ 津島市見学 記録 □
10/2に有志19名余で、津島市の見学に行ってきました。その時の画像と感想・提案などをとりまとめました。
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