住宅施策を考える/日本建築学会東海支部都市計画委員会 住宅部会

第28回部会 「豊橋市の中心市街地について」    [2004. 2.27]

参加者:9名

1 豊橋市の中心市街地について
1 都市の概況
     豊橋市の都心活性課は、豊橋駅リニューアル事業の際にして、平成元年に4人体制でスタートした。現在は13名のスタッフがいる。
     江戸時代は城下町として栄え、魚町の魚市場を中心に発展した。豊橋駅と魚町は500mほど離れており、現在は駅前に中心が移っている。明治39年には人口が37,000人だったが、現在は375,000人にまで増加している。昭和20年の大空襲で市街地の90%を消失し、戦後は戦災復興都市計画が進められた。独立圏となっている東三河地域の中核市として、色々な機能が備わっている。外国人が約15,000人と多く、そのうちブラジル人が約10,000人を占めている。人口増加率は0.4%/年で、現在も人口が増加しているが、平成23年頃に減少に転じると予測されている。一般会計1,100億円、財政力指数が0.9、公債比率は11.2%。三河地方の半数が豊橋に住んでいる。
     戦災復興区画整理事業が293ha行われた。道路整備も十分進んでおり、現在は整備の必要がない。商業区域が139haと少し広すぎる。中心市街地は230haを指定した。まちなかでは整備構想を作り、これまで駅のリニューアル事業、道路整備、駐車場の整備などが行われてきた。これまでこの地区に600億円を投入してきており、うち民間が190億円を投資している。
2 駅のリニューアル事業について
     面積20ha。総事業費は285億円。自由通路、駅前広場、ステーションビルなどを整備した。自由通路については、以前、駅の東西を結ぶ地下通路が狭く暗かったので、整備することになった。また、駅前広場についても、以前はバスや車が輻輳していたので、駅のリニューアルに際して整備することになった。ただし、用地買収ができない状況であったため、ペデストリアンデッキを用いた2層式とした。1日の乗降者数は浜松駅よりも多い。駅がリニューアルしてからまだ5年しか経っていないが、すでにステーションビルのリニューアルを行っている。地下に「マツモトキヨシ」を入れ、集客率の最も高い食品関係の店を駅自由通路階である2階に移動し、その上に「無印良品」が入ることになっている。
     自由通路に段差があり批判がある。新幹線と在来線の上に連絡通路がかけられているのだが、新幹線と在来線のホームの高さ制限が異なるため、段差が生じることになってしまった。また、連絡通路と駅前広場のデッキとの間にも段差があるが、これも道路側の高さ制限の関係で生じてしまった。
     駅前広場のデッキでは、音楽イベントが行われている。発表会をやりたいといった個人からの申し出が多数あり、年間100日程度貸し出している。また、豊橋市は路面電車が現在でも走っており、以前は駅と接続していなかったが、駅にリニューアルにともなって路線が少しだけ延長され、駅前広場と接続した。ただし、路面電車は年間5,000万円の赤字の状況にある。1日の乗降客数は約7,000人であり、沿線の女子高の学生や競輪場のお客の利用が減ったことが、乗降客の減少につながっている。
3 駐車場の整備について
     駅東のシンボルロードの下に、地下駐車場800台分が確保されている。50年代に市営の第一駐車場(150台)、第二駐車場(150台)が整備され、その後、第三セクター方式でパーク500(500台)が整備された。その他に、松葉公園に地下駐車場が214台、駅西の県道地下に、もぐらパーク(223台)を整備した。まちなかには民間駐車場も合わせて3,400台の時間貸しの駐車場があり、量的には十分確保されている。しかしながら、中心市街地の活性化には必ずしもつながらなかった。
4 中心市街地活性化基本計画について
     平成12年4月に中心市街地活性化基本計画が策定された。駅東の230haを設定。「とよはし文化」を発信するにぎわいの交流空間をコンセプトに、交流機能の向上、産業機能の向上、生活機能の向上、総合的なまちづくりへの支援、の4本柱で構成されている。

    ●交流機能の向上
    • 都市文化イベントの実施
       駅前広場のデッキ上でコンサートを行う。プロではなくアマチュアの市民の方に出ていただいて、使ってもらっている。市民にも演奏の上手な方が大勢おり、参加希望者も多い。来年からはFM豊橋に運営していただく。
    • まちなか映画祭の開催
       シネマコンプレックスであるAMC(イトーヨーカドー隣)およびマイカルシネマ(豊川サティ内)の誕生に伴い、過去7つあった映画館が全てつぶれた。広小路にあったつぶれた映画館を利用して、古い映画を中心に上映する映画祭を実施している。民間が実行委員会を作って運営している。現在2年目だが、かなり人が入っており、立ち見がでるときもある。
    • まちなかイルミネーション
       小学生にペットボトルを集めてもらってイルミネーションを製作し、駅前広場のデッキに設置した。広小路通りも商店街が中心となってイルミネーションを飾っている。
    • 夜店
       豊橋公園内で夏に夜店が開催されており、年間40〜50万人が集まる。しかし、商店街と共同歩調がとれないでいる。このような状況では活性化も望めない。
    • フリーマーケット
       市民病院跡地を利用して行っている。市が企画・運営しており、サーカスや陶器市なども開かれている。平成8年に市民病院を郊外に移転させた当時は駐車場の問題などが大きかったが、移転後は近くの商店が空き店舗になってしまうという問題が生じた。移転させるという政策が良かったかは疑問が残る。
    ●産業機能の向上
       現在7地区で再開発が行われている。駅前の西武デパートが去年8月に撤退した。その跡地を中部ガスが17億円で買い取ったが、これはかなり割安だったと言える。敷地面積は、元店舗部分が4600m2、元駐車場部分が1240m2であり、現在、建物を取り壊し中である。
    • 新規公共施設の導入及びリニューアル
       市民病院の跡地には、子供関係の施設を建設予定。駅南側の貨物操作場跡地については、総合文化学習センターを建設し平成22〜23年にオープン予定。公会堂は2年かけてリニューアルした。美術博物館の拡張を予定しており、既存建物の裏に新館を建設する予定。
       渥美線の新豊橋駅を西側に移動し駅前広場を造る。中ブロックの土地は、豊橋市が精算事業団から割安な値段で買収した。図書館、ホール、生涯学習センターからなる総合文化学習センターの建設を予定している。北ブロックはJR貨物の所有地であり、民間開発とする予定。現在、JR貨物所有の土地は有料駐車場になっており、年間2億円の売り上げがあるが、開発に同意してもらった。
       病院跡地は14,000m2の広さであるが、ここに子供関連施設が建設される予定。子育て支援機能、小中学生向け体験機能、つどえる機能、交流文化機能の4つの機能で構成される予定。拡張後の美術博物館については、美術館、歴史館、文化財センター、市民ギャラリーの4つで構成される予定。
    • 空き店舗対策事業
       空き店舗対策として、豊橋創造大学のアンテナショップ、豊橋技術科学大学とNPOの連携によるまちづくり工房などが開設された。なお、後者のまちづくり工房については、去年で終了しており、新たに豊橋技術科学大学のサテライトキャンパスをつくる方向で調整している。
    • トキワパレット
       インキュベーター事業を行っており、すでに5〜6店は軌道に乗ったが、10ブース中、4〜5ブースが空いている状況。
    • サマーカレッジチャレンジショップ
       夏季限定の空き店舗活用事業も行っている。
    • まちなかフェスティバル
       年1回開催される大道芸のフェスティバル。商店街が事業費を払っており、市が補助している。
    • レンタサイクル事業
       空き店舗を活用して、商店街とTMOの連携により車椅子工房を開設している。
    ●生活機能の向上
       広小路三丁目の259号線沿いに老朽化したビルがあり、これを取り壊して分譲マンションに建て替えている。全44戸で既に完売。優良建築物等整備事業として建設されており、補助金が投入されている。間取りは3LDKと4LDKで、最多価格帯は2800円となっている。
       広小路二丁目のダイエー跡地も現在92戸の分譲マンションを建設中。18階建で全92戸。このマンションも優良建築物等整備事業として建設されており、総事業費は35億円で、8億円の補助金が投入されている。中心価格帯は3000万円弱で、1〜2階に店舗とテナントが入る。
       その他に、市民病院跡地の隣にある保育園の改築、福祉センターの改築が行われている。また、高齢者向け優良賃貸住宅(全24戸)を花田町に建設予定であり、3000万円の補助金を投入した。さらに、駅前の新しいエレベーターの設置や電線の地中化も進めている。
    ●総合的なまちづくり支援
    • 共通駐車券事業
       TMOが行っており、年間115万枚の利用、1億4千万円の売り上げがある。TMOの財源になっている。
    • 路面電車の新電停の新設
       丸栄百貨店の前に新電停を新設する予定。路面電車については、サイクルアンドライド、パークアンドライドについても検討している。今後、採算性を改善したいと考えている。
    • まちなか・まちづくり講座
       まちなかについて議論する講演会を開催。大学の先生などに講演して頂いた後、参加者で議論をしたりしている。
    • まちなか再生ワークショップ
       民間やNPOが実施している。
    • 中心市街地活性化フォーラム
       年1回、市で実施している。小学生、中学生の発表も行われている。

 以上、色々取り組んでいるが、中心市街地がなかなか回復してこない。やっと最近、中心市街地をどうにかしなければならないという認識が生まれてきたところであり、行政内では各課に認識が広まってきている。ただし、外部ではまだまだ意識が薄い。やはり、継続が必要だと感じている。
 商店街からも住み続けられるまちにしようという意見が出てきて、住宅が造られるようになった。市民の自動車依存型のライフサイクルが変わらないと、変わっていかない。人口も回復してこないし、まちなかに来る人も減っている。商店主の高齢化が進み、商店街は開いているが人集めをしようとしていない店が多くなってきている。行政だけでは限界がある。


2.質疑応答・意見交換
■住宅供給と人口動向等
    A:広小路三丁目の分譲マンション全44戸の内、41世帯の入居者について把握している状況を申し上げると、市内からの転居が26世帯で、うち3世帯が中心市街地からの転居である。平均年齢は46.6歳で、年齢的な偏りは見られない。また、平均世帯人数は2.5人で、2人世帯が最も多い。また、前住宅の内訳は、一戸建が15世帯、分譲マンションが3世帯、賃貸住宅が11世帯である。
Q:郊外から便利なまちなかに住宅を求めてきた世帯が多いのか。
    A:そういうイメージだと思う。平成12〜15年には年間約100戸しか分譲マンションが建っていなかったが、最近急増してきており、傾向が変わってきている。
Q:地元企業がやっていないですね。
    A:中部ガス不動産だけです。
Q:中心市街地の人口は減っているのですか。
    A:現在24,000人であり、減少を続けている。マンションの建設に伴い、平成17年の国勢調査の結果が楽しみである。
Q:マップで示している都心住宅供給エリアへ住宅建設を促す方策はあるのですか。
    A:特にはない。広小路のみ優良建築物等整備事業の補助金制度がある。
Q:まちなかに特定優良賃貸住宅はあるのですか。
    A:郊外にはあるが、まちなかにはない。
Q:分譲マンションに活力のある世帯が入居してくるのか。
    A:50歳以上が13世帯、35歳以上が14世帯であり、年齢的にはばらけている。また2人世帯が最も多いことから、夫婦世帯が中心と思われる。購入者の平均年収は2,000万円と高い。
Q:外国人の増加は最近か。
    A:少し前から始まっている。仕事があるからだろう。ちなみに、豊橋は農業粗生産額がずっと日本一。

■市民病院跡地の活用について
Q:市民病院跡地は多目的に使われているのか。
    A:現在も多目的に使われている。
Q:なぜ、子供向け施設に決まったのか。
    A:市長が決めたと思う。当初は跡地を売却しようと思っていたが、バブルの崩壊などにより売れなくなった。市長が替わり、売らない方針に転換して、子供向け施設を造ることになった。
Q:周辺の商店街の人は、子供向け施設で満足しているのか。
    A:満足はしていないが、早く今の状況を何とかして欲しいと思っている。
Q:子供向け施設の建設に伴う駐車場整備の議論は行われているのか。
    A:既にまちなかには十分な駐車場が整備されているので、最低限の駐車場しか造らない。
Q:多目的広場(市民病院跡地)の窓口はどこか。また、利用料はいくらか。
    A:ほとんど無料。利益のでる活動だけ、利用料をもらっている。なお、周辺駐車場から苦情がでるので、駐車場としては使わせない。
Q:子供向け施設建設に対する財政的な問題はないのか。
    A:おそらくあまり問題はない。今後建てられる公共施設については、市が直接運営せず、外部に委託していく予定。
Q:豊橋市は豊かなのではないか。
    A:財政力指数は1.0以下なので、必ずしも豊かとは言えない。
Q:ブラジル人はまちなかに住んでいるのか。
    A:郊外の公営住宅に住んでいる。
Q:子供向け施設に外国人の子供を支援するような施設の整備は含まれていないのか。
    A:特別な施設はない。ソフトな面での対応を行っていくつもりである。

■商業活性化対策について
Q:TMOはどこが中心でやっているのか。
    A:商工課。イマイチ動きが悪い。
Q:豊橋には大学があってうらやましい。
    A:大学との連携はよくやっている。
Q:レンタサイクル事業はどのような状況か。安城市ではあまり利用されていない。
    A:豊橋市も上手くいっていないようだ。まちの中心にもう少し観光的なものを見出して、もっと活用すべきだと思う。もっとアピールする材料を見つけて欲しい。
Q:空き店舗は一箇所に集まっているのか。
    A:空き店舗は多くないし、ばらけている。現在、商店街としての活動を行える商店街は3つだけであり、商店主の高齢化がかなり進んできている。商店街の活性化が中心市街地の活性化の全てだとは思っていない。

■優良建築物等整備事業によるマンション建設について
Q:分譲マンションを建てることに周辺住民からの反対はないのか。
    A:反対はある。日照権や電波障害などの問題がある。
Q:ダイエー跡地の分譲マンションが18階建なのは、それだけの高さにしないと採算性が合わなかったからか。
    A:その通り。マンションを建てる場合、権利者にリスクはなく、ディベロッパーがリスクを持つ。
Q:入る店舗はどういう業種か。
    A:広小路三丁目のマンションは、宝石店、靴店、ブティック、化粧品店、定食屋。ダイエー跡地のマンションは、ニット店、酒屋、100円ショップなど。
    Q:補助金を入れた事業で高い建物が建ち問題を発生し、一方でデイベロッパー等が儲けるということに違和感がある。建物を低くするために補助金をいれるというようなしくみができないだろうか。
    A:補助対策は建物に対してであり、補助金をもらっても現在のご時世では建設業者は儲かっていないと思う。広小路に建設されている物件は、3LDKで100m2を上回っており、良い物件だと思う。優良建築物等整備事業の補助金は、国が1/2、県が1/4、市が1/4の負担であり、市にとってはおいしい。補助を予定しているのは、広小路の2物件と他1物件の計3物件のみ。名古屋市ではかなり行われている。都市計画決定を行うより優良建築物等整備事業の方が小回りが利く。
Q:ディベロッパーはどうやって決まるのか。
    A:一つはコンサルタントが決めた。もう一つは大林組が決めた。これは、民間が決めることであって、市はそれをチェックしている。

■ その他
Q:豊橋は郊外での土地区画整理事業やきなハコモノ整備等はあまりやらなくなってきているのか。
    A:市街化区域の中では、既にかなり区画整理を行っており、新規には減歩を払ってまでやりたいという人がいない。まちなかは十分基盤整備ができている。戦災復興都市計画から始まった過去のストックが大きいのではないか。
    ●:豊橋はこれまでずっと造り続けてきた印象がある。目標を見つけて作り続けるのはすごい。
    A:郊外にも、プールやスケート場を造るという大きな箱物の計画もある。公債比率、財視力指数がまあまあ良い。これまで、それほど大きなものは造ってこなかった。
●:まちのセンターとしての機能をまちなかに集中するのは正しいと思う。
    A:最初の10年は駐車場の整備などを行ったが、まちなかは回復しなかった。それで、もっと箱物ではない地道な活動が必要と感じた。
    ●:人口や商業売上高ではない、中心市街地の活性化を評価する別の尺度が必要なのだと思う。
Q:東西自由通路の効果はあるか。
    A:市民には喜ばれている。ただし、西口の開発は進んでいない。開発するだけのポテンシャルがないので、当分は今のままで良いと思う。



  
5月8日(土)に見学をしました。