住宅施策を考える/日本建築学会東海支部都市計画委員会 住宅部会

第29回部会 「幸田町の中心市街地について」    [2004. 6.23]

参加者:10名

1 幸田町の中心市街地活性化への取り組み
1 幸田町の概況
     幸田町は愛知県の中南部に位置し、中部圏の中心都市である名古屋市から45km圏内にあり、北は岡崎市、西は西尾市、南東は蒲郡市などと接しており、面積は56.78q2を占める。JR金山駅までの所要時間は28分であり、名古屋のベッドタウンになっている。
     H16.5.1現在の人口は34,508人、世帯数11,113、高齢化率は14.23%であり、昼間人口は105%である。持家率は73.3%と高い。平成15年度の財政力指数は1.24(11位)である。
     自動車電子部品の基盤や高級車標準装備用カーナビなどを製造するデンソー幸田製作所(総売上:4000億円、従業員数:5000人、敷地面積20ha)やビデオカメラやデッキ、パソコン(バイオ)などを製造するソニー幸田製作所(総売上:5000億円、従業員数:6000人、敷地面積23ha)などの有力企業やシステムキッチン・浴室などを製造する松下電工、制癌剤などを製造するブリストルマイヤーズ、フタバ産業などの将来発展型企業がある。
     町の交通網としては、中央にJR鉄道が縦断し、道路は国道248号、23号線、県道41号線が走っている。 

     「感性豊かなきれいなまち」を目指し、以下の目標を掲げている。
      ・ 企業城下町の維持継続(職住近接、企業誘致、育成)
      ・ 西三河南部交流人口確保(通勤、消費、文化、観光)
      ・ 緩やかな持家人口増
      ・ 食料自給率の向上
      ・ 教育環境の向上(育児支援)
      ・ 緑地保全
     町には凧揚げまつり、しだれ桜まつり、彦左まつり、夏祭り、産業まつりの5つの祭りがある。
2 土地利用計画
    ・市街化区域について
       昭和45年に決定した当時は380haであったが、何度か見直しをして平成15年には577ha(44%増)となっている。市街化区域編入に際しては以下のような財政省力型整備手法をとっている。地元の人達による市街化区域への編入要望に際しては、組合施行型区画整理事業の実施を条件とした。地区計画による市街化区域への編入に際しては、地区内の道路拡幅用地の寄付を条件とした。
    ・用途地域について
       住居系56.3%、商業系11.4%、工業系32.2%であり、ものづくりの町であるといえる。
3 市街地開発事業
    ・土地区画整理事業について
      施行済地区 7地区:47.5ha・・・・全て組合施行で実施
      施行中地区(相見地区および野場地区)の2地区:49.15ha・・・・組合施行で実施
      計画中地区(幸田駅前地区)1地区:18.20ha・・・・公共施行で実施
4 幸田町のまちづくり基本方針について
     基本方針として、
      (1)町の拠点を形成する核づくり:3駅プラスワン構想
      (2)都市構造の確立:R23およびR248を軸とする骨格的道路の整備
      (3)市街地水準の向上:土地区画整理事業や景観整備
      (4)産業機能の育成:工業団地整備や産業地整備
     の4つを掲げている。
     このうち、(1)の3駅プラスワン構想には次の4つがある。
      @幸田駅周辺の再開発整備、中心核としての魅力づくり
         幸田町役場周辺の環境整備事業に取り組んでいる。三菱レーヨンの跡地を30億4500万円で購入し、中央公園を整備している。この公園は防災公園としての機能(防災井戸の設置)やウォーキングができる森としての機能を有するように整備中であり、風力発電や太陽光発電の装置もある。中央公園周辺には平成12年にトヨタ自動車が宅地開発したパークサイドアベニュー桜坂(6ha)がある。1区画約3800〜5000万円で218戸が販売され、坪単価は約35〜40万円と高いにもかかわらず、ほぼ完売となっている。トヨタ関連企業の人が購入している。クルドサックや共用庭を設けたりして、綺麗に整備されたまちになっている。
      A三ヶ根駅周辺の地域拠点、観光資源の育成
      B(仮称)相見駅設置による副次核の整備
         現在JR東海に新駅(仮称相見駅)設置を要望しているが、駅を設置する場合には名古屋までの所要時間が増えることになるため、難色を示している。幸田相見特定区画整理事業(事業区域面積:45ha→2期には55ha(H18)に拡大、事業費:80億9600万円)と岡崎からの交流人口もつかむ目的で平面駐車場のある大規模商業施設(24時間ショップなど)を計画している。
      Cハッピネス・ヒル・幸田周辺の町民文化や健康の創造拠点の整備
         ハッピネス・ヒル・幸田の敷地面積は7haあり、現在の投資額は200億円で、町民会館(1000人、500人、300人収容の3つのホールがあり、稼働率は75%)、図書館、プール・トレーニングジム(岡崎の住民がかなり利用、順番待ちもある)がある。今後、総合体育館、総合グラウンド、武道場、弓道場、美術館、数奇屋会館、博物館、科学館を建設し、一極集中型で整備する予定である。
5 幸田町中心市街地活性化計画について
     幸田町では平成12年3月に中心市街地活性化計画を策定している(愛知県内では6番目に作成)。
     活性化基本計画のコンセプトは「安心でにぎわいのあるまち。中心としての顔づくり」とし、景観整備及び中心商業地としての新生を目指すとしているが、中心商業地としての新生は難しい。
     重点事業として「街なか再生型の土地区画整理事業と市街地再開発等共同化事業」、「TMOおよびまちづくり会社による事業」の2つをあげている。後者については商工会議所に行ってもらっているが、活動はしていないのが現状である。中心市街地エリアの面積は55haである。
     街なか再生型土地区画整理事業=幸田町駅前土地区画整理事業については平成3年より具体的になり組織化をして活動し始めたが、なかなか進展していない。この事業を検討している期間中に、2地区の区画整理事業に着手し、推進されている(山添地区H8〜、8.6ha、相見地区H10〜、46.5ha)。
     JR幸田駅は1階建ての駅舎で、1日当たり乗降客数は8000人ある。幸田町としては駅前の道路拡幅を行いたいが、都市計画決定された20mの道路幅は必要でないと考えている。むしろ、交通弱者等を守るための歩道の整備や駅前の商業施設(飲食店や日用品販売店等)および共同住宅の整備を行いたいと考えている。

      ●幸田町駅前土地区画整理事業の概要
        施工者:幸田町
        施工面積:3.3ha
        減歩率:30.66%
        事業費:54億2000万円(うち建物補償約75%)
        事業期間:平成17年〜平成27年
        地権者:18名
      ●駅前推進会まちづくりイベント
         まちづくりを推進していくために「さわやかサーキットライブin彦左(パラパラ・ライブ、ミュージックライブなど)」等、まちづくりイベントを開催している。また、駅前歩行者天国から事業発展した「こうた彦左まつり」もあり、市民にまちづくりに関心を持ってもらう工夫をしている。
6 幸田町住宅マスタープランについて
    基本目標
    @安心して暮せる住まい・まちづくり
      ・住宅困窮者に対する良質な住宅の供給(民間借り上げ住宅の検討)
      ・生活サービスの提供(コミュニティ施設、防犯施設の充実)
      ・気軽に外出できて楽しく過ごせる環境づくり(中央公園を軸とした全町公園化構想、商業及びサービ
      ス業施設の充実)
    A災害に強い住まい・まちづくり
      ・災害時に安全なすまいづくり
      ・住宅地の安全性の向上
      ・災害時に助け合える地域づくり
    B多様なニーズに応える住まい・まちづくり
      ・多様なニーズ(住民)への対応(定期借地権の活用支援)
      ・多様なニーズ(企業)への対応(企業住宅施設との連携支援)
    C地域特性を活かした主体的・自立的な住まい・まちづくり
      ・地域課題への対応(人口減少地区における農村里山郊外型住宅地の検討)
      ・自然環境や景観の優位性の活用(歴史的景観保全及び活用の促進
      ・地域住宅産業の活用(在来型住宅の促進)
    D新エネルギーを活かした、環境にやさしい住まい・まちづくり
      ・環境にやさしい住まいづくり(緑化、水有効利用の促進)
      ・暮らしの中の自然を守り育む(エコライフの促進)
7 相見地区コンパクトシティ構想について
     JR新駅(仮称相見駅)を核にしたまちづくり構想であり、商業施設や生活(就業)支援施設、パーク&ライドなど複合的な都市機能の導入を検討している。新駅をはじめ、環境共生モデル街区、住居系エリア(戸建住宅や集合住宅)、商業系、生活(就業)支援施設エリアなどが計画されている。


2.質疑応答・意見交換 (Q:質問、A:答え、C:コメント)
■幸田町駅前整備について
Q 幸田駅前土地区画整理事業の負担割合はどうか。都市再生費とは何か。
    A 土地区画整理事業の負担割合は国1/2、県1/4、町1/4である。中心市街地活性化基本計画に位置付けており、都市再生費17億円を計上している。費用対効果を考慮し、商業系のツインタワーを計画している。住居系の再整備では事業採択が難しい。
Q 都市計画道路見直しの見込みはどうか。
    A 都市計画道路の拡幅については見直しの必要があると思うが、愛知県があまり見直しを認めてくれない。犬山市の場合については特例といえる。
    C 道路幅員を多少狭くしても、結局建物補償はせざるを得ず、事業費への影響は少ないと思う。
Q 幸田駅前の整備事業に対する地元住民の意識はどうか。
    A 地元住民は建替補償が期待できるので、区画整理事業には賛成している。再開発ビルに参画しようという人は少ない。現在、参画希望者が18名で、東側街区だけなら事業化が可能になりうる状況。年末までに土地利用計画等のさらに詳細な検討を行い、事業推進の可否の判断をすることとしている。
Q 幸田駅前の店舗数はどのくらいか。商業ビル成立の可能性はあるのか。
    A 3.3haのエリア内に18軒あるが、実際に営業しているのは4店舗であり、他はほとんど営業していない。幸田駅の乗降客は8000人いることや、住民を対象に行った意識調査によれば「駅前に繁華街がほしい」という結果がでている。 三菱レーヨンの工場があった当時は女工さんが6000人くらいいたし、町も華やかだった。
     町内企業の知的財産を生かし、地区内の起業育成もしていきたいし、駅前に住宅地が広がるのも悪くないと思う。個人的には、ハワイのオアフ島にあるようなショッピングモールをつくりたい。いずれにしても活きている町並みにしたい。
Q 幸田駅前のまちづくり上の課題は何か。
    A 歩道を含めた道路整備をしたい。町内企業の従業員送迎バスのバス停を駅前に設置できない状況である。また、交通弱者に配慮した歩道も必要と考えている。
Q 防災上の観点から、細街路整備が課題となっていないか。
    A 主要な課題ではない。住宅が密集しているという状況ではない。老朽化した住宅は取り壊すなどして、空地や駐車場になっている。

■相見地区のニュータウン整備について
Q 新駅の可能性はどのくらいあるのか。
    A 駅をつくってからまちをつくる手法はJRが認めないので、まずまちづくりをする必要がある。新駅を設置する場合、工事等の費用は全て町側で負担しなければならない。新駅設置による所要時間延伸にかかる費用請求といった話もある。新駅をつくっても普通電車しか停車しない。パーク&ライドの取り組みは推進していく計画。
Q 新駅の設置とまちづくりとの関係は?新駅ありきなのか。
    A 住宅メーカーは、駅がなければ住宅が売れないとは言わない。それより、24時間営業のショップの有無の方が影響がある。
     幸田町のまちのあり方にとって、まちの真ん中に東海道本線が通っていることは大きな意味がある。駅ありきではないが、駅を中心としたまちづくりは重要と考えている。将来、車に頼る交通弱者を支え、車と鉄道をうまく利用できるまちづくりをしたい。
Q 相見地区の人口はどのくらいか。
    A 2500人くらい。パーク&ライドなど駅を中心にした新しいまちづくりをして、人が集まる交流のまちにしたい。
■幸田町のまちづくり全般
Q 町全体の人口の伸びはどのくらいか。
    A 年間500人くらいである。町としては若い人たちに入ってきて欲しいと思うが、商業施設がないと若い人たちは来ない。できれば企業の従業員の人たちに来て欲しい。駅はつくったけれど人が集まらないようにはしたくない。
Q 岡崎市から高齢夫婦のみ世帯が流入してくるのはなぜか。
    A 幸田町にある古くなったRCの共同住宅に入居してくる。近くにデイサービスがあり、特別養護老人ホームもできたことから、住みやすいと評価されているようだ。
Q パークサイドアベニュー桜坂はかなり高いと思うが、どのような人たちが購入したのか。
    A デンソーなどのトヨタ系列の人が購入している。親子ローンや企業ローンが使えるため、購入しやすい。
    C 第2ベビーブーム以降は売れないのではないか。ここ5年が勝負だ。
Q 市町村合併の動きはどうか。
    A 幸田町は合併しないと宣言した。かといって、今のまま将来とも自立できるかと言えば、不透明なところがある。病院やごみの焼却施設、商業施設についても他の近隣市に依存している。
     現在は合併をしないが、将来的に、岡崎市、西尾市、幡豆、額田、蒲郡市と合併して中三河市(人口約63万人)になるという構想がある。その場合、市の真ん中に位置することになるので、立地をうまく生かした形でまちをつくっていきたいと考えている。
     「持続できるまちづくり」を考えると、駅前整備に着手してよいかどうか、判断に迷う。ある程度の規模の市でないと(財布が大きくないと)大きな事業は無理である。
     道路整備を中心に商業だけではなく住宅や福祉面なども考慮に入れた身の丈にあった駅前再整備をしていくほうがよいのではないか、今まで(20年)待ったのだから30年待ってもよいのではないか、という考えもある。



  
幸田町の見学記録です。