住宅施策を考える/日本建築学会東海支部都市計画委員会 住宅部会

第30回部会 「田原市の中心市街地活性化への取り組み」    [2004. 9.18]

参加者:9名

1 田原市の中心市街地活性化への取り組み
1 中心市街地の現況と整備の状況
     田原市の中心市街地では、かつて5,000人いた人口が最小時2,550人まで減少した。その後、中心市街地への住宅供給等により、2,750人程度まで回復してきている。
     午前中、田原まつりを見学したが、区域内の3つの町内から、からくり山車が巡行され、多くの氏子と見学者が繰り出していた。
     田原市では中心市街地で3つの活性化策を講じてきた。(1) 図書館の整備、(2) 渥美病院跡地整備、(3) 再開発事業 である。
     また併せて、豊橋鉄道渥美線田原駅周辺の都市計画整備が進められている。田原駅前通り線は再開発ビルの完成に伴い、残り区間300mほどとなり、加えて新しい駅前広場とそこへのアクセス道路である田原駅南線の整備等が残るだけとなっている。ただし、既成市街地内を通るため、これからもまだある程度の時間は要するとみられる。残事業費は約40〜50億円と見込んでいる。
     駅前広場は現在の北側から南側に変更する。広さ4,000m2は現在の利用状況からして過大ではないかという意見もあるが、これが補助採択上の最低基準である。またアクセス道路も基準上整備せざるを得ない。

2 再開発事業について
     再開発事業は約30年前から取り組んできた。区域約1.6ha、市施行で、第1街区約7,900m2に複合施設棟(セントファーレ)、銀行棟(UFJ銀行)、信用組合棟が、第2街区約280m2には既存地権者の歯医者と広場が計画され、加えて都市計画道路3本と区画街路1本を含む。この7月に複合施設棟(セントファーレ)がオープンし、残事業は広場整備のみとなっている。
     再開発構想当初には41名の地権者があったが、説得と話し合いの結果、権利変換時には15名となり、権利変換後は、田原市、UFJ銀行、信用組合、地権者1名の4名となっている。従前地権者のうち商業者は駅南の新興区画整理地である田原赤石地区を始めとする周辺地区へ、居住者は蔵王山周辺の住宅地等へ移転した。
     複合施設棟(セントファーレ)は、土地所有は田原市で、定期借地により建物はTMO「(株)あつまるタウン」が所有している。譲渡金額は約20億円。ただし、うち18億円は国庫補助も含め市から補助金が交付され、1億円は無利子融資、残る1億円がTMO自己資金となるが、仮払い消費税として9000万円が還付される見込みである。
     TMO「(株)あつまるタウン」は資本金1億円で、うち5,000万円を市が出資、商工会が100万円、残りは市内の中小企業等が負担している。田原市の豊富な財政力は埋立地に進出したトヨタ自動車等に依るところが大きいが、これらの大企業は全く関わっていない。TMOの運営・指導も地元企業の有志がリーダーとなり取り組まれている。
     セントファーレは地上3階地下1階。1階は地元資本の食品スーパーと書店他の物販専門店、2階には各種教室とスポーツクラブが入る。実質キーテナントはスポーツクラブだが、昨年12月に急遽予定していたスポーツクラブが自社都合により撤退の意向を表明。この時点では既に建物は建築中であり、相当な大事件であったが、スポーツクラブの担当者が代替企業の紹介を約束し、一方、市担当者も東奔西走した結果、代わりのスポーツクラブの出店が決まり、事なきを得た。
     スポーツクラブには20mプールとスポーツジム、温浴施設が入り、一般会員の月会費7500円。現在会員2000名(推定)で好調なスタートを切った。温浴施設があるというのが前出店予定クラブの売りであったが、それを引き継いだことが好評の要因の一つでもある。
     田原市は新エネルギー施策を旗頭に、菜の花エコプロジェクトや風力発電を進めているが、その一環として、この建物にもガスコージェネレーションシステムを導入、また雨水・地下水利用を行っている。
     駐車場は、地下に136台、地上に51台を確保した。また施設名称「セントファーレ」は一般公募により決定した。
     TMOの床賃料収入は年約5,000万円、純利益は1,000万円を見込んでいる。一部区画を除き全て利用されている。

3 渥美病院跡地整備について
     渥美病院の施設高度化等による郊外移転に伴う跡地利用については、図書館案と住宅案が拮抗した。住民集会等でも一時図書館案が優勢であったが、商業者団体から「都心を住いの場に」という意見や、図書館建設候補地選定委員会の委員からも「既存老人保健施設の活用等、福祉の充実を」という意見もあって、少子化・高齢化に対応する住宅等を導入することになった。
     地区全体を「福祉の里」と名付け、特定公共賃貸住宅54戸(3LDK・4LDK)・シルバーハウジング18戸(2DK)から成る福祉の里住宅「セントラルコート築出」、介護老人保健施設、介護サービスセンター、生活支援ハウス(ケアハウス)20名、グループホーム18名、作業所等から成る「あつみの郷」、児童福祉センター、看護婦寮の改築と新築1棟から成る若者向け住宅「市営築出住宅」24戸で構成されている。
     福祉の里住宅は、SRC造8階建てで、田原市が基本設計をした後、愛知県住宅供給公社が公募型性能発注方式により建設したものを市が買い取る買取公営・特公賃併設住宅である。また1階部分には、集会所や高齢者生活相談所等の他、TMOに一部床を貸出し飲食店等が入店している。

4 田原市中央図書館について
     上記の渥美病院跡地利用施設として提案のあった図書館は、病院跡地の北東徒歩5分にある田原文化会館、田原市総合体育館を増築する形で、情報センター等と併せて整備された。床面積は併せて約15,100m2。このうち図書館部分は3,920m2である。建築にあたっては住民参加による関係団体ヒアリングや先進施設見学などを経て、建設懇話会を設置し内容を検討、平成14年8月にオープンした。
     地上3階建てだが、主要の開架図書閲覧スペースは1階にあり、低く見通しの利く書棚、適度に中庭が配された明るい室内、豊富な休憩スペース、研究個室やホール状のおはなしの部屋などの施設などがあり、ユニークなものとなっている。
     また図書館と文化会館とのつなぎに位置するプロムナードには、NPO向けのフリースペースが用意されている。ここでリサイクル・ブック・オフィスを開設する図書館フレンズ田原は、図書館構想時からの住民グループで、この4月にはNPO法人たはら広場を設立した。

5 田原安心・安全住宅計画と安心・安全街づくり推進事業
     田原安心・安全住宅計画を平成15年3月に策定。この計画では、(1) 推進体制の構築<創ろう みんなのしくみ> (2) 支援・助成制度の検討<使おう みんなのささえ> (3) 人材育成と意識の啓発<育てよう みんなのきもち>の3つの基本方針を掲げている。そして「出来ることはドシドシと!」というキャッチフレーズの下、様々な施策に取り組んでいる。
     「安心・安全住まいづくり支援ネットワークの試行」はケアマネージャーや建築士、理学療法士その他の専門家や様々な業種の人がネットワークを組んで住民の総合的な住宅支援を行おうとするもので、県のいきいき住宅リフォーム支援モデル事業の補助(50万円)を得て、平成16年度から試行を始めている。具体的には関係者から成る協議会を設置し、研修会の開催などを予定している。
     「住宅総合相談窓口の設置」は庁内に住宅総合相談窓口連絡調整会を設置し、関係課と協議の上、平成16年1月から建築課内に総合窓口を設置した。しかし今までのところ利用状況は芳しくなく、十分市民に周知されていないことが問題である。
     田原市は木造住宅耐震改修促進事業として設計に対して15万円、改修費に対して130万円の補助を行っており、加えて人にやさしい街づくりリフォーム補助や介護保険も利用すれば180万円近く補助を得ることができる。これらを有効に活用するよう誘導していきたい。

     「安心・安全街づくり推進事業」は田原の中心市街地232haを対象に、(1)防災能力の高い施設整備、(2)近隣コミュニティの再生による皆で守り合い助け合う街づくり、(3)ホッと(HOT)する癒しの空間づくり を目標として、ハード・ソフトを融合した施策展開をめざしている。
     ハード施策としては、防災広場の整備や狭隘道路の拡幅、木造住宅耐震改修等を計画。またHOT空間整備として防災広場の修景整備等を計画している。これらはまちづくり交付金制度を利用して来年度からの事業実施を要望する計画である。また地区内3,000mほどある狭隘道路の拡幅買収については、防災・防犯関係条例の制定が予定されており、これらと調整しつつ、来年度からの制度化をめざしている。


  
住宅部会後、引き続き実施した、見学会の記録です。