冷却を科学するぺえじ

冷却を科学する (水冷編)

エンジンというのは熱エネルギーを運動エネルギーに変換して、 仕事を行い、車を動かしたり、発電をしたりと色々な用途に使用できる。 熱エネルギーが完全に運動エネルギーに変換できたなら問題はないのだが、 残念ながら自然界は通常エントロピーの増大(無秩序性)傾向にあるので、 エネルギーの変換率は100%ではない。

詳しくは別の内容で書く予定なので、詳しくは書かないが、 クルマの場合どんなに上手く運動エネルギーを取り出そうとしても、 熱エネルギーのうち30%程度しか動力として取り出せない (もちろんミッションやデフを経て最終的にタイヤを回す時にはもっと減る)。 残り70%は熱となるため、「エンジンは一個の発熱体である」という見方ができる。 当然、そのまま放っておけば高温となり、エンジンとして機能しなくなるため、 冷却する必要が出てくる。

今回は水冷編ということで、水冷式エンジンの冷却方法を説明する。 冷却方法は他にも空冷式、油冷式とがあり、今回は水冷式だけでいっぱいいっぱい(笑)なので、 これらについてはまた今度書くことにする。



水冷システムの構成は以下の通りである。
・ラジエター
・冷却液
・冷却ファン
・ラジエターキャップ
・サーモスタット
・ウォーターポンプ
ホントに簡単に図に示すとこんな感じである。

エンジン暖気中
エンジン暖気後

では各々のパーツにについて簡単に説明していこう。


●ラジエター

熱くなった冷却液を外気により冷却するという、 水冷システムのメインの役割を担っている。
放熱部分のラジエターコア部と冷却液の貯留や気液分離をするヘッダータンク部で構成される熱交換器で、 エンジンの熱を奪って熱くなった冷却液はラジエターコアを通るときに外気との間で熱交換を行い、 冷却液は冷却されることになる。
もちろん、渋滞などで十分な風がラジエターに当たらなければ、 熱交換が行われにくくなり、冷却不足となる。 そのようなときは冷却ファンにより風量を確保して冷却する。

●冷却液

現在、冷却液として用いられているのは、主にエチレングリコールを配合して、 凍結防止、防錆効果を持ったロングライフクーラント(Long Life Coolant:LLC)である。 市販されているのは、赤や緑、黄色と着色されているが、 もちろんどれも性能は変わらない。 LLCと一目見てわかるようにするのと、錆の発生が確認できるようにとの配慮であろう。

冷却液はLLCと水を混合したものを用いる。 常温、大気圧下では水は0℃で固体へと状態変化を起こすが、 北海道など氷点下何℃といった地域では、凍ってしまって冷却できないので、 LLCを混ぜることによって凝固点を下げている。
LLCの比率が10%増えるたびにおよそ10℃下がり、 水:LLC = 4:6 で凝固点が約 -60℃ となり、 それ以上LLCの割合を増やしても変化は無く、 逆に上昇してしまうので気をつける必要がある。 なので、水:LLC = 5:5 (凝固点約 -50℃)と半々の割合で混合した冷却液を作るのが、 一番楽なのではないだろうか。

--- ちょっとマニアなお話し ---

●冷却ファン

ラジエターに風を送り熱交換の促進・補助を行うものである。 ファンベルトを経由してエンジンからの動力で回すものと、電動式とがある。

・動力式:

動力式では、走行風がない低回転域において、十分な冷却が行えるようにしなければならないので、 そのままファンベルトを直結してしまっては、 エンジンの回転が高くなると、それに比例してファンの回転も高くなり、回り過ぎになる。 通常走行においてはせいぜい3000回転ぐらいしか回さないファミリーカーなどは、 別にこれでも良いが、レッドゾーンまで回すスポーツカーになると、 このままだとファンを回すことによる馬力損失も見過ごすことができない。 し、ファンの軸受けの焼きつきも起こるかもしれない。

そのため、冷却ファンの回転数を適切にする、流体式ファンカップリング流体ファンクラッチ、などを備えたものが増えてきている。 また、スープラなど一部車種には油圧ポンプを電子制御して冷却ファンを回転させるものもある。

・電動式:

電動式は電気(バッテリー)で駆動させる方式であり、 電流を流してモーターをコントロールすることにより、冷却ファンの回転を制御でき、 動力式のような馬力損失も無く、レイアウトも比較的自由に決めることができる。
しかも、温度センサーをとりつけておけば(普通はついてるが)、 冬の朝エンジンがかけてすぐなど、まだエンジンが暖まっていないのに、 冷却ファンを回してラジエターを冷やすというような無駄なことはしない

●ラジエターキャップ

厳密にいうと、水冷式エンジンの冷却系は「加圧密封型冷却サイクル」と呼ばれる循環系で、 1.0〜2.0 kg/cm2の圧力をかけているのが一般的である。 圧力をかけることによって冷却液の沸点を上げることができ(120℃前後)、 また同時に冷却液の蒸発をある程度防ぐことができる。
一般的に、温度差が大きければ大きいほど熱の移動量も大きくなる。 そのため、冷却液は100℃より120℃の方が熱交換の効率が上がり、 それにしたがって、ラジエターのサイズを小さくできる。

※もちろん冷却液の温度が低い方(70℃〜80℃)がエンジン自体の効率は良い

ラジエターキャップは、この密封サイクルである冷却系内の圧力を一定に保つために、 プレッシャーバルブとベントバルブを備えている。

・プレッシャーバルブ:

冷却液の温度が上がり、一定以上の圧力になるとプレッシャーバルブが開き、 圧力(冷却液の蒸気)を冷却液リーザーブタンクに逃がす。 (この「逃がし」が無かったら、どんどん圧力が上がってしまい、 パイピングや、クランプ部などが抜けたり、破裂してしまう)

・ベントバルブ:

エンジン停止後など、冷却液温度が下がってくると、圧力も下がってくるので、 今度はこのベントバルブを開いて先ほどリザーブタンクに戻した冷却液を吸い上げ、 大気圧と等しくし、パイピング、タンク部などがへこんだりしないようにする。

ラジエターキャップが古くなると、これらのバルブが正常に動作しなくなり、 オーバーヒートの原因となる場合があるので、暇な時に点検 (ラジエター内の液の量が極端に無かったり、リザーブタンク内の冷却液の量があふれてたりしたら明らかに異常)するとよい。 ちなみにこのキャップは2000円も出せば買える。

●サーモスタット

エンジンがまだ完全に暖まっていない時、ラジエターに冷却液を流して放熱するのは無駄である。 そのため、エンジンが暖まるまで冷却液をエンジン内だけで循環させる必要が出てくる。 もちろんエンジンが熱くなれば、ラジエターに冷却液を流して冷却しなければならない。
そのため、ラジエターを経由するかどうかを制御するスイッチのようなものが不可欠で、 それがサーモスタットである。
サーモスタットは温度センサー (って言っても電気的なものではなく、ワックスなどの熱膨張を利用する)により、 開いたり、閉じたりする。(上図参照)
サーモスタットはその配置場所により2種類の方法がある。

・出口液温制御(インライン)方式:

この方式は構造が簡単で、エア抜きが容易なことから、通常のクルマはこの方式を採用している。 デメリットとしてはハンティング現象の影響が大きいことである。 ちなみに、上図はこちらのインライン方式である。

・入口液温制御(ボトムバイパスフロー)方式:

こちらのタイプは、ハンティング現象を極力抑えることができるのが特徴である。 ただし、サーモスタットがシリンダーヘッド下方に配置されるなど、 構造がそれほど単純ではなく、エア抜き専用のバルブを設置する必要が出てきたりと、 コスト高になりデメリットも多い。

●ウォーターポンプ

冷却液を循環させるポンプ。 通常、ファンベルトで駆動されエンジン回転に比例して吐出量も増大するのだが エンジンが高回転ということはそれだけ発熱量も多いので、ちょうど良い。
冷却液は、オイルライン程シビアではないが、エアの噛みはもちろん好ましくなく、 キャビテーション(気泡)が発生しにくく、かつ小型のポンプが良いウォーターポンプとされる。


自動車を科学するメニューに戻る   TOPに戻る